15. 講義開始
翌日から始まった講義内容は基礎医学だ。
あらゆる医学本の知識をすでに習得しているクレアにとっては、復習にしかならなかった。
シェラード先生の質問に対し、スラスラと詳細な付加知識を加えて答えるため、1ヶ月後には、休み時間にはクラスメイト達がクレアの机に集まり質問を投げかける、という図が完成していた。
「教科書から神経や血管の各名称を覚えても、それらが内臓にどのように配置されているのか、なかなか覚えることが困難なんだが…」
と、レオポルド。
「そうですね。人間の身体は立体なので、この位置から見ればこうなる。この角度からみればこうなる。など、スケッチするだけではなく、立体像をイメージして覚えるといいかもしれません」
「スケッチをしながら、各臓器や筋肉を暗記しているんだけど、効率が悪いみたいで覚えるのに時間がかかるんだよね。クレアはどうやって覚えたの?」
と、フレデリクスが聞く。
「私は、まずは筋肉や骨といった表層から覚えました。次に内臓である深層に取り組み、最後にそれをつなぐ血管や神経といった順番で学習いたしました。血管と神経は、支配している臓器の名前を指している事が多いので、直接覚えるのではなく、表層と深層を学習した後だと、ある意味「復習」のような意味合いになるので覚えやすかったです」
「細胞が持つエネルギーが、筋肉の収縮やタンパク質の合成、神経伝達といった生命活動に使われている、ということは理解したんだけど、マナとの違いがよくわからなくて。クレアはわかる?」
と、トマスが聞いてくる。
この世界のエネルギーを担っているものはほぼ魔石のため、科学はあっても分野として存在はせず未発達の領域だ。よってATPなどの概念が存在しない。
「私が調べた範囲でお答えしますと、生物の細胞の中で作られるのが生命活動を行う生体エネルギーですが、マナはそれとは全くの別物だということです。大気中に存在している物質が持つ力を取り込んで、その力を自身のエネルギーと合わせて身に纏ったものがマナというものになるようです。残念なことに、マナはまだきちんと解明されていないようですので、私も詳しくはお答え出来ないのです。
ですが、大気からどの程度の力を取り込めるのかは、生まれ持った時にほぼ決まっているようですので、それによって個人差があるのだと思います。
そして、マナの操作には、自身の生体エネルギーを自身で調整することや、自身の外にある力をいかに上手く取り込めるか、ということが関係するようですわ」
そこでレオポルドが呟いた。
「マナは生体エネルギーに関与しないが、生体エネルギーの調整はマナに関与するということだろうか」
「そうなのだと思います。そして、老化や寿命はあくまでも生体エネルギーによるものですから、マナの量がいくら多くても不老不死にはならないのかと」
と補足する。
しかし、こういったクレアを中心とする輪の中には、リオルはいない。
リオルは休み時間中も、自分の席から離れず医学本を読み込んでいた。
3ヶ月目に入っても、リオルだけが一人輪から外れている状況を見かねて、レオポルドがリオルに声をかけた。
「リオル、クレアの助言は学習にとても役立つものばかりだぞ。休み時間にみんなで一緒に勉強しないか?」
「……いや、私はいい。一人で勉強しても遅れをとることはない」
「それはわかるが、5人しかいないクラスメイトなのだ。もう少し打ち解けてもいいんじゃないか?
フレデリクスもトマスも、君と仲良くしたいのに、話しかけてもいいのだろうか?と遠慮しているんだぞ?
せっかくクラスメイトとなったのだから、親しく過ごす方がよくないか?」
「……そうだな。私が悪かったよ。私も仲間に入れてくれ」
リオルの表情は硬いままだったが、その日から休み時間には5人全員で意見を交わすようになり、リオルを含めた全員の仲が急速に深まっていった。




