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弟よ、姉は異世界で無双します  作者: 春待瑞花


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13/31

13. 母の死

 シモクレン家は兄と私の2人しか子供がいないため、高位貴族としてはとても珍しい。

 幼い頃に母が亡くなったのは、不運が重なった不測の事態だったのである。


 私が5歳の時、母宛に、友人の侯爵令嬢から侯爵領地への招待状が届いた。

 祖父母とともに領地運営を行っている、兄夫婦の義姉が妊娠中のため、領地でそのサポートをしているが、領地からの方が婚約者がいる隣国に近いため、義姉の出産後は領地から直接隣国へ嫁ぐとのことで、その前に一度会いたいとの内容だった。


 家にはテレポートが出来る魔法陣が組み込まれた魔道具があり、特級魔術師や特級魔法使いがいればテレポートが出来る。侯爵家出身の母のマナ量では起動できないが、お抱えの魔術師や臨時で依頼出来る特級魔術師がいれば、容易に起動出来た。

 しかしながら、友人宅へ向かう予定のその日は、緊急の予定が入ったという魔術師の変わりに、急遽講師をお願いしたい、とお抱えの魔術師に依頼がきた。断ることも出来たが、他の臨時の特級魔術師を呼ぶから、と母はお抱えの魔術師を送り出した。

 臨時の魔術師が到着してテレポートを行おうとしたが、なぜか魔法陣が反応しなかった。原因不明だった。

 友人の領地で買い物をしようとしていたため、訪問時間まではまだ余裕はあったが、原因がわからないため、他の魔術師を呼ぶ事で解決するのかもわからず、刻一刻と過ぎる時間に母は焦り、馬車で向かうことを決めた。

 侯爵領までは馬車でも3〜4時間程度で、訪問時間には十分間に合うし、向かう途中にある他領地の特産品を手土産とする事にしたらしい。

 メイドとともに馬車に乗り、3人の護衛騎士が騎乗で馬車を守りながら、領地へ向かった。


 プレゼントを購入し、もうすぐ友人の領内という場所で道の脇から急に、馬の目のに大型の猪が現れた。驚いた馬は横にブレて走り出した。御者の制止も効かず、片側一頭のみ急発進したため馬車は大きく蛇行し、車庫は一瞬で横転してしまった。

 メイドと母は車庫内で崩れ落ちたが、運悪く、折れた車庫の木片が母の腹部に刺さってしまった。

 出血しながら苦しむ母に対し、その場にいた怪我なく無事だった騎士達は、すぐにマナを注いで治癒を試みた。しかし、木片が深く刺さっていたせいで治癒が追いつかず出血が止まらなかった。

 自分たちでは治癒出来ないと判断し、一人の騎士が侯爵領へ馬を駆らせて、現場に医師を連れてくることにした。メイドと御者も怪我をしていたため、その間騎士二人で必死に母の治癒にあたる。

 侯爵領についた騎士はすぐに事情を伝え、医師を乗せて現場に向かいたいと訴えた。しかし、その少し前に妊娠中だった友人の姉が予定よりも数ヶ月も早く出産したところで、そのためか出産後の出血が止まらず産科医師とともに主治医も必死に治療しているため、今すぐ向かうのは難しい、と応対した執事が早口で話した。

 母の友人は研修医のもと、メイド達を指揮しながら、産まれた赤子の手当てにあたっているとのこと。

 公爵家であるとの地位も振り翳して、今すぐに母の治療のために、医師を現場に連れていきたいと騎士は必死に訴えた。

 執事は青ざめながら医師に伝えに走り、数分後に母体の安定の兆しがやや見え始めた頃、ようやく騎士の元へ走ってやってきた。

 騎士の後ろに騎乗してすぐに現場に向かったが、すでに失血によるショック状態に陥っていた母は、懸命に治療を行う医師や騎士の治癒も虚しく、そのまま亡くなってしまった。


 責任を感じた騎士3人は処断を望んだ。

 父は不運が重なった。仕方がなかったと騎士を責めず、辞職を受け入れるのみとし、侯爵領にいる医師や侯爵家に対しても、断罪や責任の追求をしなかった。

 父は、他人の不幸を母は望まないことを心底理解していたため、母の死は不運が重なったことによるものとして、その死を受け入れた。

 兄と私も父の思いを理解し、誰にも責任はないと、怒りの感情を捨て、深く悲しむのみとした。



 クレアが、この世界の医療を発展させたいと強く望むのは、前世の記憶があるからというだけではなく、

(応急処置が出来ていれば失血によるショックは防げたのでは…?)

 との思いが、少なからず関与しているのだろう。


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