ひどく簡単な命
「ふむ。村付近に生き物は・・・・・・いるな。少し先のレンガ小屋に複数」
そうそう燃えることのないレンガの小屋だけは不自然に残っていた。
セローさんはなんらかの手段、おそらく魔法で索敵したようだ。
今の私たちは村へと入るための街道沿いの茂みで、様子を伺っているところ。
「ちょっと俺が見てくらぁ」
ジェスタさんが透明薬の粉を頭から被って、姿を消して茂みから出て行ったようだ。
「大丈夫かレイチェル?」
しゃがみこんで、私の目をまっすぐ見ながらセローさんが言う。
私は膝を抱えて座り込んでいた。
「・・・・・・どうしていいかわからなくて」
「君は心配するな。もし敵がいるなら村人の仇は取る。少なくとも見なかったことにする気はない」
足音もせずジェスタさんが戻ってきてようで、虚空から声がしたと同時に姿が見えるようになった。
「3つの小屋に分かれて、犬のやつが1匹、ゴブリン3匹、キャップが4匹だ。うちキャップ1匹だけ起きて巡回中」
「全部で7匹か。生き残った人は?」
「おそらくなしだ」
「ならば状況からするに食料目当てのようだな。よほど腹が空いていたのか人間も食った、そんなところだな」
「どうするんですか?」
相手は7匹。セローさんとジェスタさんが遅れをとるとは到底思えないが、数が多い。
「小屋の窓は?」
「割れてたから中がわかったんじゃねーか」
「すると、炎と煙では無理か。奴らは寝ているんだな?」
「今のとこはな」
「ではアレを使うとしよう」
セローさんは私の担いでいた背負い袋から、小さな布袋を3つ取り出す。
中は緑色の粉だった。
「レイチェル、水の魔法は使えるようになったか?」
「ええと・・・・・・まだちょっと、ですね」
「ではこの粉をやつらの顔、特に鼻に多めにな。かけて、その上から水袋で水をかけてやれ」
「はあ」
まず、ジェスタさんは、巡回していたキャップと呼んでいた小さな人型の魔物へと音もなく近づき、後ろから紐のようなもので首を絞めて殺した。
ジェスタさんは当然しごくあっさりと命を奪う。
あとで聞いた話だが、この魔物は頭に帽子、つまりキャップを被っているような頭髪の見た目をしているからそう呼ばれているそうだ。
「ここにキャップだ」
そして私たちは小屋で、すやすやと寝ている3匹のキャップを見つける。
3人で、1人1匹ずつ、そいつらの顔に粉をさっとかけ、さらに水を浴びせかける。
するとすぐさまキャップはカッと目を見開いて、首のあたりを押さえたのちに、グリンと白目を剥いて息絶えたようだった。
僅か2工程。私はあまりの命の軽さに絶句する。
「次行くぞ」
ジェスタさんに促され、私はハッと我に返る。
(考えてないで、とりあえずやらなきゃ)
次の小屋でゴブリンにも同じことをした。
最後の小屋はジェスタさんが一人で犬頭の魔物に同じことをしたらしい。
私は、たぶんひどく悪い顔色で木にもたれかかってそれを眺めていた。
「アレ何だったんですか?」
「スライムの粉末だ。水を掛けるとゼリー状に復元する。君も店でゼリーを食べたことあるだろう? 菓子用のそれよりも、大きく膨らみ、すぐにゼリーになる粉だ」
「簡単に言うと、ゼリーが詰まり窒息死ってとこだな」
「なんでそんなものを持って歩いてるんですか?」
当然の疑問があったので聞いてみる。
私は掘った穴で、セローさんが運んでくる魔物の死体に魔法で火を着けながらだ。
「雨水とかを吸わせて固形にして、必要な時に火を着けると、粉の成分が燃えて水にできるのさ」
つまりはスライムの粉は非常用に水を貯めることができるらしい。
(あれ? 前に似たようなことをやってた気がするけど、何に向かってやったのか思い出せないや)




