酒は飲んでも・・・・・・
「・・・・・・一番高いやつを頼んでみたが、美味しくなかった。そんなところか?」
私の手元にあるグラスとメニューの看板を見て、そう言われる。
コクリ、と私は頷いた。
「仕方ない。・・・・・・グラスを1つ、それとスプーンに砂糖と炭酸水を貰えるか?」
セローさんは店員さんに数ゴールド渡して、角砂糖と炭酸水を買っていた。
グラスに砂糖を1かけ入れて、酒を少し注いでスプーンでかき混ぜて溶かす。
そこに炭酸水を3倍くらい入れて更に少し混ぜている。
セローさんはできたそれを一口飲んだ。
「俺は美味しいとは思わないが、高い酒は好き好きだな。少し飲んでみるといい」
セローさんが口をつけたところからずらして、私もその割った酒を口に含む。
(ちょっと甘くて、ほんのり木っぽい、いい香り。味は微妙だけど)
「さっきよりは断然飲めますね」
「それはそうだろう。この酒はそのまま飲むと倒れるくらい強いからな。勿体ないし、残りは俺が飲んでおくよ」
「いいんですか?」
「俺は騒がしいのは少し苦手だからな。今日は君が自由に楽しむといい。酒は8ゴールドくらいの物が飲みやすい、覚えておけ」
「ありがとうございます!」
セローさんに美味しくない酒を引き取ってもらって、私は気を取り直して祭りを楽しむことにする。
(あんまり見栄を張らないで、飲みやすいやつ・・・・・・)
エールは苦いからイヤだ。さっきヨモギのやつを頼んだのも甘いと思ったからだった。
(もう聞いちゃえ!)
「甘くて、いい香りのお酒をください!」
さっきとは別の屋台で注文してみる。
「なんだい嬢ちゃん? ママにでも頼まれたのか? ならラム酒か蜂蜜酒かどっちがいい?」
(ラム酒? 子羊のことだっけ? 子羊でも飲めるとかなのかな?)
「じゃあラム酒ください」
「ほれ」
ラム酒の入ったグラスを渡される。
また適当に座って、グラスを傾ける。
「ゴホッ」
さっきと負けず劣らずにキツイ酒のようで、むせてしまった。
(うぅ。香りはすごくいい香りだし、甘い気はする・・・・・・けど!)
そのいいところを飛び越して、強すぎて飲んでいられない。
これを飲んでいたら、あっという間にベロンベロンに酔ってしまうだろう。
(そうだ! さっきのセローさんがやってたみたいに炭酸水で薄めようっと)
私は屋台でチケットを提示して炭酸水を貰う。飲み放題は屋台の飲み物すべてに適用されている。
炭酸水の瓶の蓋を開け、少し飲んで、そこにラム酒を注ぐ。
これでラム酒の炭酸水割の完成だ。
グラスは店に返し、瓶を持ち歩く。
(・・・・・・なんか飲兵衛みたいな持ち歩きかただけど。まあいっか)
ジェスタさんは大酒飲み対決に参加していた。
参加費は10ゴールドで1位の賞金はなんと1000ゴールド。
参加者は8人で、制限時間内にどれだけの酒を飲めるかというものだった。
飲む酒はエール、しかもジョッキでだ。
普通の人ならば2~3杯も一気に飲めばダウンするだろう。
しかし、
「すごいぞ! あの大男、水でも飲むかの如く酒を飲んでやがる!!」
ジェスタさんは常人では考えられないペースでエールを口に、腹に流し込んでいく。
それを見た他の参加者がペースを上げ、一斉にダウンする中、ただ一人。
「そこまで!! 勝者はタミテンカの街から来たジェスタだー!!」
司会と思われる人がジェスタさんの手を取り、高々と上に挙げる。
積み上げられたジョッキは9杯、他の参加者が4~6杯でギブアップする中で圧倒的だった。
賞金の1000ゴールド紙幣を高々と掲げ、何やらポーズをとる。
すると、
「お兄さんすごーい! 私たちとも飲みましょう!」
町の女性たちだろうか、数人がジェスタさんに群がる。
(あれはお酒が強い人が好みの人たちってこと? それともお金? 私にはわかんないや)
ジェスタさんはわずかにフラつきもせず、その女性たちとどこかへ去っていった。
私は適当な露店で食べ物を買い込み、どんどんと食べ歩いた。知らない街の特別な日の光景を目に焼き付けつつ
ひとしきり祭りを楽しんで夕方に宿に戻った。
セローさんは宿のテーブルで優雅に紅茶を飲み、ケーキを食べている。
「ジェスタさんは今日は帰ってこないかもで~す」
「どうした?」
「ジェスタさん大酒飲み対決で1位だったんですよ。それで町の女の人に連れていかれちゃって」
「まあいつものことだ。昔からザルなんだ、あいつは」
「あとは私も夕飯はいらないです、食べすぎちゃいました」
「少ない休息時間だ。ゆっくり休むといい」
都会に出てきて初めて遊んだ気がする。仕事の合間にそんな日を過ごしたのは新鮮で楽しかった。
時間に縛られず、他の街に出かける何でも屋ならではの特権だと思った日だった。




