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第13話「兆し」

詰まった息を一度に吐き出すように、男は目を覚ます。

首から下げた赤い宝石のネックレス、引き締まった身体。

ここはとある街の宿屋、男はベッドからでて、一杯の水を飲み干す。


随分、昔の夢を見たものだ、と自分の手や腕を眺める。

すっかり見慣れて違和感などなくなった、しっかりとした腕と手だ。

初めて見た時は、驚いてコップを落としたっけ。

男の名はシデン、竜狩りをして10年以上が経つ。


あれから、10年以上も経過したのか。

散り散りになった皆の行方もわからず、この世界に来た時よりもひどい状況で放り出された。

ヴェス、ジュイディー、ミラニットを探し、既に何年も経っている。

彼らが、怪異を倒した噂を聞いては赴き、そしてまた聞く。

その先で俺が怪異を倒し続け、そうすればいつかきっと、みんなにも情報が届くだろう。

生きていれば、いや、生きているさ。


ベッドに腰掛け、考える。

仲間を探し始めて数年、彼らの足跡に関わる直接的なものが無い。

他の竜狩りにはあったことがあるが、誰に聞いても、ヴェスやジェイディーの居場所はわからなかった。


ミラニットは実力はさておき、竜狩りとしての歴が浅いため、そもそも存在を知られておらず、全く足跡を掴めない。

みんな、元気でやっているのだろうか。


焦る気持ちを押さえつけ、微かな情報でも縋り、彼らを探す。

夜が明ければまた、情報集めに走らなければ。



過去


砦に戻った時にはすでに日が傾いていた。

俺はヴェスとジェイディー、それから初対面の女性と挨拶を交わした

ミグ・ジェーンと名乗った女性はまじまじと俺を見た後、「もう大丈夫ね」と少しだけ頬を緩ませた。

俺の傷の具合はそんなに悪かったのかと聞くと、「その話を含めつつ、これからについて話すとしよう」とヴェスが言う。


今回、コロド洞に出現した女型の怪異は世界の始まりから存在するとも言われている伝説級の怪異(ドラゴン)、デリャステリニア・アポロロガルデ・フィリア・ヨルムンガンド。

彼らの存在を『神異(クエレ・ドラゴン)』と呼ぶ。


かつて起こった大災害『虹』に加担した怪異の1つであり、彼女が残した災害の爪痕は、瘴気の噴出、怪異の出現と、現在まで世界中に残っている。


性格は気まぐれで、目的が無くとも顕現することはあるがミグは一つ気がかりなことがあるという。

他の、フィリアと並ぶ程の怪異の存在が世界へ入滅した可能性があるという。

「タイミング的に、偶然と言うのは考えにくいわ。」

ここ最近で、はるか東の国で海洋災害が頻発しているという。


辛うじて生き延びた者が言うには、竜巻が人の脚のように、津波が人の腕のようだったと証言し、ミグ自身が辿った魔素や、魔物の活動の変化を調査。

おそらく伝説級の怪異が出現したと見られるらしい。


彼らが肉を成しこの世に姿を現せられるのは数分から数十分の間。

そして1つしかこの世界に入ることはできないようになっているらしい。

ミグやヴェスは世界、と言っているが、おそらくこの星の仕組みなのだろう。

どういう仕組みかは分からないが。


しかしかつての大災害では、4つの神異が同時に顕現し、世界は大混乱に陥った。


「1つしか入れないはずの神異が4つ同時って?」

「大災厄を起こした張本人は、世界の知覚を麻痺させたのよ、そしてフィリア、バハ、ズィールムーク、ド=ルクが現れたの。」


いずれも互いに劣らぬ神異、そしてド=ルクのみが世界に住む側につき、大災厄に立ち向かう者達に力を与えた。

「そして、かつて私達は、3つの神異を退け、ド=ルクは虹の消滅と共に消え去った。」

ミグはヴェスをちらりと見ると、少し黙った。

ヴェスは話を聞く俺達をずっと見ている。


「さて、もう大体わかってるかもしれないが」という言葉を枕にヴェスが話しだす。


これから、ヴェスとミグは世界を周り、神異の残留を辿り神異の顕現を未然に防ぐという。

ミラニットは『鷹剣の聖地・バイドラ』へ。

ジェイディーは俺を連れて『龍型の聖地・フィストナ』へ赴き、ミラニットと合流。

俺は剣術『龍型(ドラシェ)』を習うよう、ヴェスは告げた。


俺達竜狩りの剣術は5つに分かれていて、それぞれ5つの聖獣の名前に由来している。

その存在にはこの世界なりの名前が付いている。

ジェイディーは獅子型(ルーヴァ)、ミラニットは鷹型(ファルカ)、ヴェスは蛇蠍型(スネクピオ)だが、彼は実際は型に嵌らない。

そして俺は龍型(ドラシェ)を学びに行くことになった、当然抗議した、俺も一緒に行く、ここに来て随分と強くなった筈だと。役に立てるはずだと。


次の瞬間、目の間、ヴェスとミグ。

彼らが殺気を剥き出しに、俺に刃と長杖を突き立てる。

「お前は今死んだ、これが儂だから助かった。これが怪異だったら?お前の命を狙う敵だったら?」


一拍遅れて、背筋にじわりと汗が噴き出る。言葉が出ない。

「今のお前は力が無さ過ぎる。」

俺を見るその目は、明らかに敵意が混じっている。

「ジェイディー、手筈通りにな。」

それだけを言って、ヴェスはその場を後にした。


静まり返る室内。

ジェイディーが俺を落ち込まないように言葉をかけてくれていたが、悔しさのあまり聞き入れることが出来なかった。

同時に、俺はヴェスの言っていることにあまりにも簡単に納得できている事を自覚する。


「大丈夫だよジェイディー、俺、強くなるよ、みんなに負けないように。」

強くならなくては、コロド洞での一件は、俺の身体に強く刻まれた。

神異に届くほどの剣と雷を研ぎ澄ましてやる。

そうしてこの日の夜が終わる。


明くる朝、旅の準備にとりかかる、俺達は初の旅になるため、ジェイディーから色々教わったり、諸々の支度があるため、旅立ちまでは5日を予定している。

俺はミグに世界地図を見せてもらった。


…改めて見ると、久しぶりに自分が別の世界に来たのだと実感する。

俺が生来見てきた大陸の形とは全く別物で、大きく分けて4つの大陸があり、海を囲うように存在している。

地図でいうところの一番右、ここが海洋被害のあった東の大陸『ヤオロズ』

上側、北に横長に伸びる大陸が『ヒョーシア』

左側が俺達のいる『ジャルバ』、下の大陸が『プロギア』


龍型を学びに行く聖地・フィストナは東の『ヤオロズ』にある。

ミラニットとヴェス、ミグは南の『プロギア』を目指し、その後ミグとヴェスは北の『ヒョーシア』に。

ジェイディー、ヴェス、ミグはヤオロズで合流、出来なかった場合は、

左回りに大陸を回り、足跡を追うようにするようだ。


「大陸で言えば4つだけど、どれもとても広いから、合流出来るといいけど」

ミグは広げた地図を丸めている。

それに、道中で死んだら終わりだ、ヴェスとミグは二人だが、ジェイディーは1人だ。


このジャルバでさえとてつもなく広いらしい、不安と期待が寄せては返す。

準備自体は3日ほどで済み、次の1日はいつもの様に訓練をした。


次の日は出発だというのに、本気で打ち合う俺。

ミラニットは相変わらず強い。


鷹の剣を習いに行くとなると、より強くなるんだろうか。

絶対、追いついてみせる。


空には、木剣が俺の頭を打ち抜く音が響いた。



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