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間話2「マッドヒム・ヴェス」

コロド洞からジェイディー達が去り、シデンの治療に一段落がついたのは、それから2日後の事だった。


とある白髪の無精髭を生やした初老の男性が1人、コロド洞の入り口に佇む。

手に持つ直剣には既に怪異の血が滴り、文章のような文字が刻まれている刀身は

淡く、オレンジ色に光る。

身につけた鎧は使い込まれ年季が入っているが、それでも充分に役割を果たす。


紺を基調にしたサーコートの下は、珍しい素材を使った防具。

重厚なブーツの足跡が、洞窟内へ向かっていく。


生存する竜狩りの中で最古参の強者、ヴェス。

彼は弟子たちの残した仕事を片付けにここへやって来た。

「はぁー、めんどくさいのう…。」


決して、瘴気が蔓延していることを知っているのに助けに行かず、洞窟から出てきた怪異をミグが倒して周っていることをきにもとめず、フィリアが出現したことも知らず

エルフ郷へ風呂を覗きに行こうとしていただとか、そういうわけではない。

決して、そういうわけではない。


ヴェスはミグに殴られた腹をさすりながら洞窟の中を歩む。

竜狩りの砦周辺は比較的怪異も少なく、穏やかだが、この数日でレイスやハイグールが出現しているとなると、やはりジェイディー達が遭遇したのはあのビッチ(フィリア)なのだろう。


それにこの洞窟の奥から聞こえる息遣い。

ああ、面倒だ。早く帰りたい。

この枯れ木のように脆い怪異共を儂が相手せにゃならんというのが不愉快。

わざわざ儂がここの浄化をせにゃならんのも不愉快。

エルフ郷に行けないのも不愉快。


洞窟の中に生み出されたグール達を一匹ずつ素手で粉砕しながらヴェスは進む。

退屈な作業だと言わんばかりにその顔に表情はない。

道中何匹かいたハイグールにも苦戦することなく、最奥部に到着する。


そこには人より何倍も大きい怪異、牙鬼種の『巨鬼(オーグル)』と『単眼鬼(サイクロプス)』がグール達を喰っている。

「はは、グール達も住処を追われて洞道に追いやられていたのか」

その光景を眺めながらヴェスは腰に据えた瓶を取り、コルクの栓を抜く。

豪快に飲み込み、栓を閉めた。

「ふぅ、間違えたわい」

誤って酒を飲んだようで、次はポケットから小瓶を取り出す。

中は透明な液体が入っており、同じようにコルクで栓がされている。


今度はそれを飲み干すと、苦虫を噛み潰したような顔になり。

より一層ここに来たことが不愉快になる。

小瓶の中の液体は聖属性の清水だが、ヴェスはこの水があまり好きではない。

飲む度に顔をシワくちゃにして、飲んだことを後悔する。

自身の属性が破壊を中心とする技に傾倒するあまり、浄化する能力が非常に乏しい。

そのため、自身の技を浄化に使う場合は、この様に清水を飲む。


体の持つ属性と清水の持つ属性同士が反発し、少しの間、悪く酔った様な気分になる。


「さっさと終わらせるか…」

気だるそうなヴェスの表情。

そしてあえて、小瓶を叩きつけて割り、音を鳴らす。

二匹の巨体の食事手が止まり、ゆっくりこちらを向いた。

ヴェスは腕を組み、二匹を見据える。

二匹もまたこちらを向き、敵意を滲ませる。


「来客だ、饗せい。」

ヴェスから発せられる殺気はこの巨大な怪異を怪異達を挑発するのに十分だった。

二匹の怪異は鼻息を荒らげてゆっくりと一歩、ヴェスに近づく。

ヴェスは眉を潜めて首を傾げた。


「なんだそれは、威嚇のつもりか?」

先程よりも強く鋭い殺気を放ち、睨む。

オーグルは洞窟が揺れるほどの雄叫びを上げ

足元のグールを掴み、力任せに放り投げる。


グールはヴェスに触れることなく、真っ二つになり、一瞬で燃え上がり、すぐに灰と化した。


ビリビリとぶつかり合う互いの殺気、二匹の魔物が同時に咆哮する。

ヴェスは口角をぐいと上げ、嬉々として前へ出る。

「そうだそうだ、それでなくちゃあな」

腰から剣を抜き、刀身の文字がなぞられるように光っていく。


「どうれ、少し遊んでやろう」

サイクロプスが拳を振り上げ、ハンマーのように振り下ろす。

地面は(ひしゃ)げ破片が飛び散るも、そこにヴェスの姿は無い。


オーグルがサイクロプスの肩に獲物(ヴェス)が居ることを見つけると、力任せに腕を振る。

腕はサイクロプスの顔面を巻き込み振りかれ、単眼の巨体は地を揺らしながら倒れた。


ヴェスは既に元居た所に戻り、胡座(あぐら)をかいてサイクロプスが倒れる様を見ていた。

「んー…、遅いのう」

退屈しのぎにこの2体と少し遊ぼうと考えたが、こうも一々動作が遅いと、全く楽しめない。


「やはりさっさと帰ってエルフのケツでも眺めに行くか。」

ヴェスは立ち上がり、のそのそと起き上がるサイクロプスが立ち上がるまで顎の下を掻いている。


静かに剣を振り上げ、切っ先を下に向ける。

(レイ・)(フラム)』 浄葬(レ・フラミア)

地に剣を突き立て、辺りは一瞬で豪火に包まれる。

2体の怪異は成す術なく、身体を覆う炎に身悶え、叫び、混乱する。

最奥部の瘴気が聖なる炎に蒸発していく。


ヴェスはオーグルとサイクロプスが炎を払おうと苦しむ姿を眺め、

髭の感触を確かめた。

苦しむ怪異達がのたうち回る光景を見ながら、ヴェスの口元が少し緩む。


振り返り、腕を出口の方へ向けると、炎は呼応するように伸び、コロド洞全域は聖なる炎で覆われる。

オーグルとサイクロプスに視線を戻し、二匹は今なおもがいている。

「終いじゃい。」

剣を持つ手に力を込めると、ヴェスの剣は文字だけでなく刀身も橙色の光を帯びていく。

身を締めるように剣を構え、左から右へ剣を払った。

はたから見れば、剣を振ったことが目にも映らないほどの高速。


斬撃は超光熱の刃を飛ばし、2体の巨大な怪異の胴を抜ける。

同時にぐらりと真っ二つに鳴った怪異は、重みのある音を立てて崩れた。

「浄化完了…だのう。」

ヴェスは剣を納めると腰に据えた酒瓶を開け、一口飲むと、そのまま出口へ向かった。


狩術・火印(フラム)の生みの親であり今なお、最高の火印使い。

その経緯は謎が多く、彼自身、誰かに語る事は無い。

通常、今回出現した怪異は、2体動時に相手にする場合少なくとも熟練した冒険者、戦士が

10~15人は必要であろう


この最古の竜狩り狂人(マッドヒム)と呼ばれる事もある、この男は、小用を片付けるかの如くやってのけた。


コロド洞出口、ヴェスはパチンと指を鳴らす。

洞窟を埋め尽くしていた炎が消え失せ、コロド洞からは瘴気はなくなった。

それを確認することなく、狂人は洞窟を後にする。


彼に刃の届くものが現れなくなって久しい。

彼にとって取るに足る戦士が現れるのはいつになるのだろうか

狂人は今日も暇を持て余す。






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