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ウィッチ・クラフト  作者: 新谷時
season3

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第42話 果たすべき使命

 カルミア島の村で起きた悲劇は、瞬く間に本島で知れ渡った。新聞などで事実が記されるが、真相が語られることはなかった。

 人々の間では、様々な推察が横行する。村人を惨殺した犯人は誰なのか。たった一人の少女が生き残った理由は。


 学園から脱走した少年と、何か関係があるのか。


 曖昧な噂だけが広まり、次第に街の人々の関心は失せていく。やがて平穏な日常に戻り、人々は次の祭事の開幕を心待ちにした。


 一方その頃、事代家の屋敷にて。


「入れ」

 低い声に呼ばれ、一人の少女が扉の前に立った。事代家の長女である早乙女は、当主から指名を下されていた。

 彼の待つ執務室の入室許可を得ると、彼女は寸分の狂いもない所作で扉を開く。軋む音さえ許さず、装いが崩れることもない。


 扉を閉め終えた早乙女は、深く辞儀をした。

「御父上。お待たせいたしました」

 机の前では、当主が新聞を広げ、コーヒーを口にしていた。

「アネモネ村の事件は知っているな」


「はい。恐れながら、すでに聞き及んでおります」

 当主は新聞を折り畳み、机の上に置く。彼は椅子の向きを早乙女のほうへ回転させると、射貫くような視線を向けた。

「大衆では、事代クロが主犯という噂が出回っている。庶民の流言飛語に過ぎんが、クロの脱獄が発覚してから四日……我が事代家への嫌疑は増すばかりだ」


 事代クロの脱獄は、その同日に発覚していた。捜索はその日から始められており、既に本島の隅々まで行われたが、手がかりは何ひとつ見つからなかった。

 他島の捜索を視野に入れた途端、アネモネ村の事件が起こった。

「そこで。庶民のたわ言に一枚買おうと思っている」


 当主は眉を広げ、人差し指を出した。

「例の事件の主犯は、事代クロという疑いがある。さらに、カルミア島は立ち入りが禁じられた。だが、これは好機だと捉えている」

 渡島の禁止には、政府の人間も含まれていた。


 当主は口元を隠し、信頼を寄せるような声音で告げる。

「これは使命だ。カルミア島に潜入し、事代クロを探り出せ」

「……誠に勝手ながら、発言をお許しください」

 早乙女はすぐに頷かなかった。


「事代家の人間たる者が、政府の決定に背くのは――」

「私の判断が不善と。そう言いたいのか?」

 当主が椅子から立ち上がり、早乙女と向き合う。

「我々の立場は既に危急存亡だ。政府や国民からの信頼を取り戻すには、我々の手で終止符を打つ以外に道はない。法を犯した後始末など、権力さえあればどうとでもなる」


 当主は重苦しいため息を吐いた。

「お前も自らの頭で、その結論に至るべきだろう」

「……無礼をお許しください」

 深く一礼し、早乙女は凛とした所作で起立する。


「かしこまりました。ただちに出発し、カルミア島へ赴きます」


 そして、迷いのない瞳で断言した。

「必ずや、事代クロをこの手に捕らえてみせます」


 それが、事代家の使命ならば。


「……」

 廊下を歩く早乙女の脳裏に、義弟の姿が浮かんだ。あのとき、彼が言い放った言葉が耳の奥で疼く。


「お前は必ず、私が……」


 ◇


 頭が揺れる。眩暈がする。視界が黒く濁っている。

 苦しみの波が落ち着いてくると、上体を起き上がらせた。

「……あれ」

 目を覚ましたクロは、ベッドの上にいた。


 覚えのない匂いが鼻をかすめる。外から人々の騒めきが窓を叩いた。クロは現実を確かめるように、何度も瞬きをする。

「どうして、だって僕は――」

 体の痛みが全くなかった。


「起きた」

 クロの元へ、鈴を鳴らしたような声が届く。壁の向こうから、カーディガンを垂らした茶髪の少女が顔を覗かせた。

 少女と呼ぶには背丈が高く、顔立ちはどこか大人びている。


 誰なのか確かめるより早く、彼女は木の床を軽やかに踏み越える。ベッドの上へ固まっているクロへ歩み寄った。

「お風呂にする」


「ご飯にする」


「それとも私」


「え?」


「それともアルティメットフェニックス?」

 少女の左肩から、ひょっこりと鳥の頭が突き出した。鮮やかな色のオウムだ。彼女の背中にしがみつき、何を考えているか読み取れない瞳でクロを見ている。

「……何が起きて――」

「よお! 旅人さん。目が覚めたかい?」

 部屋の奥から、別の声が投げ飛ばされた。


 か弱く細い少女の声とは対照的な、野太い男の声。声の主が寝室に姿を現わすと、その筋骨隆々な体格を突きつけられた。

「俺の娘のおかげだな!」

 豪快に笑う大男をよそに、クロは辺りを見渡した。


 温かみのあるビターブラウンの寝室。部屋は小さく、廊下を仕切る扉がない。まるで宿のようだった。

 ベッドの傍らには、クロの鞄や魔器が立てかけられている。


 やはり、あれは現実で起きたことだ。


「……じゃあ、どうして僕は――」

 考える暇も与えず、大男がクロの肩を強く叩いた。

「そう焦んなって。後で話すから」

 大男は湯気が立つ廊下に歩み出す。


「まずは朝飯だな! 外に来いよ。もう動けるだろ?」

 仰々しく手招き、大きな足音を残していった。彼の娘である少女は、悪戯な微笑みを浮かべる。

「すごいでしょ。私のおかげ」


「……ありがとう、ございます?」

 これまでの戦いで受けてきた傷は、彼女が治療してくれていた。しかし、未だに信じられない。確かに傷を癒す魔法もあるが、高度な技術とされている。


 ましてや複雑に壊れた肋骨を何事もなかったかのように治すなど、本来なら不可能だ。そして、それ以上に拭いきれない違和感があった。


 この少女、どこかで見たことがある。

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