表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウィッチ・クラフト  作者: 新谷時
season2

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/42

第21話 今は届かなくても

 無力。自分の弱さに、クロは何度も打ちのめされてきた。

「今日の訓練はここまでとする」

 衣服ごと木刀に切り裂かれたクロは、その無残な姿を父上に拝まれた。


 事代家の訓練。無為体であるクロは、魔法による価値の証明が不可能なため、剣術といった運動を叩き込まれてきた。

 人を傷つける技術を、クロは最後まで会得しきれなかった。

「修練が足りない。それでも事代家の人間か」

 父上から認められることも、一度としてなかった。


 訓練場に取り残されたクロは、体の傷を癒える暇もなく、清掃しようとする。道具が保管された倉庫へ向かった。

「なんだ? その姿は」

「……姉さま」

 入り口を抜けると、そばで義姉に呼び止められた。


「見物していた。卑劣な結果で、目も当てられなかった」

 心の底から失望したことを示すように、義姉は容赦なく告げた。

「やはり、お前は事代家の恥だ。何の価値もない」

 義姉はいつもこうだった。どこからともなく現れては、自分の無力さを延々と突きつけてくる。


 クロ自身も嫌というほど理解してきた。

 しかし、義姉のことは理解できなかった。

 何がしたいのだろうか。

「……申し訳ありません。失礼いたします」

 涙を堪えながら、クロは義姉を横切る。


「頭を使え」


 後ろから、変わらない口調で告げられた。

 しかし、今までのような罵倒ではなかった。

「無力という欠点を理解しているのなら、頭脳で相手を上回れ」

 クロは振り返らず、背中で言葉を受け取る。


「お前が成していることは再現だ。応用ではない。それだけで戦いに勝てると思うな。相手に力をぶつけることだけが、全てではない」

 ゆめ、そのことを忘れるな。

 そう言い残し、義姉はクロと背中を向け合ったまま立ち去った。

 相変わらず、何をしたいのか分からない。


 しかし、クロの瞳には、先ほど堪えた涙とは、別のものが溢れた。



 義姉の言葉に、クロは何度か救われてきた。

 相手はさも当然のように、自分よりも強大な力を持っている。行く手を阻む鎧も、自分の力では手も足も出なかった。

 力をぶつけるだけでは、窮地から抜け出せない。

 クロは脳を回し、考えた。理解に手を伸ばそうとした。


 あの鎧を無力化する方法はないか。

 視線を巡らすと、あることに気がつく。

 鎧が横薙ぎに刃を振るい、突き刺さった石壁。鎧と同格の硬さを、いとも容易く穿った。クロの剣で鎧に歯が立たなかったのは、単純な力の差だ。


 均衡する力があれば、鎧を破壊できるのではないか。

 クロは石壁に沿いながら、震える足腰を起き上がらせる。

「ハア……ハア……」

 あの無人の鎧は、おそらく老人が操作している。


 鎧の奥で、老人が顔を覗かせていた。自分の一挙手一投足で起こす老人の反応と、鎧の動きが繋がっている。

 鎧が自ら攻撃をしかけないのも、老人が勝手にクロが立ち去るのを望んでいるからだ。

 老人の視界で、鎧の動きは決まる。

 二体の攻撃を、互いにぶつかるよう誘導する。


 どうやって狙うか。手前の鎧を抜けても、奥の鎧に防がれる。

 計算を怠れば、攻撃のタイミングがずれる。そうなったら勝ち目はない。

 ――先は読めた。


 チャンスは一度きりだ。


 クロは強く足を踏み出し、蹴られた腹を抱えながら突進した。

 迎え撃とうと、手前の鎧は剣を振り上げる体勢に入った。縦の攻撃では時間を稼げない。クロは鎧を引き寄せ、攻撃を誘発させる。

 そして、剣が力強く振り下ろされた。


 頭だけは守ろうと腕を構えるが、切っ先がかすめ、血が流れる。

 鎧は床に突き立てた剣を引き抜こうとしている。

 クロは地を蹴り、復帰した鎧の寸前に飛び移った。

 目の前にいる鎧が、横薙ぎを放った。


 とっさに身を屈める。クロの頭上で、硬い石壁を貫く衝撃が響いた。

 剣が壁に突き刺さり、大半の面積が埋もれている。

 まだ、先には行けない。

 ここまでは思惑通り。


 だが、奥に控えている鎧と攻撃のタイミングを完璧に合わせなければ、計画は成立しない。石壁から、剣を引き抜いた瞬間に鎧の中央に立ち、同士討ちを狙う。いつでも移動できる体勢で、鎧の動きを凝視する。


 石壁に固定された剣から、鎧は手を離した。


「……な、なんで!」

 思考を遮るように、鎧は拳を放った。

 身をよじらせ、正拳を避ける。鋭い太刀風が頬をかすめた。

 鎧は続けて拳を放る。瞬きすら許されない。


 回避に徹しながら、クロは石壁に突き刺さったままの剣に視線を送った。計画が破綻した。途中で肉弾戦に切り替えられた。

 ――どうする。

心臓の鼓動が高まり、思考が鈍る。避けることに精一杯だ。


 あの剣がなければ、鎧の装甲は破壊できない。

 こうなったら、自分で引き抜くしかない。

 クロは壁に追い込まれた。先ほど鎧に蹴り飛ばされた場所だ。そこには、クロが手放した剣の柄がある。


 拳が掲げられた瞬間、クロは鎧の足元に飛び込んだ。同時に落ちている柄を拾い上げ、鎧の足に引っ掛ける。

 拳を突いた勢いに釣られ、鎧は体勢を崩し、石壁へ叩きつけられた。

 その最中、クロは既に足を動かし、迷わず剣を目指す。


 柄を握り、突き刺さった石壁から引き抜こうとした。

 思いのほか硬い。簡単には抜け出せない。壁に足を乗せ、全身の体重を乗せる。徐々に切っ先が姿を見せた。

 そのとき、奥に構えていたもう一体の鎧が、初めて動き出した。


 クロが武器を手にするのを、阻止しようとしている。

(……まずい!)

「アアアアァァァ!」

 喉が枯れるほどに大声を上げ、剣を抜き切る。

 その反動で体が仰け反る。


 勢いのまま、クロは掴んだ剣を、手ぶらの鎧へ投げ入れた。手前にいた鎧は反射的に剣を掴み、取り戻した武器を掲げた。

 奥にいる鎧も、剣を掲げて襲い掛かる。

 中央に立ったクロは、両者の剣に挟撃された。


 ――次の瞬間、クロは剣が振るわれる寸前で身を伏せた。


 虚空を切り裂く刃は、互いの鎧に交差し、装甲を貫いた。同時に破壊された鎧は首が泣き別れ、力を失ったように崩れ落ちた。

 決着。クロは重く息を吐き、その場で尻をつく。

 ユキの力を頼らず、ここまで来られた。


「クソがッ!」

 一息つく暇すらなく、あの老人が怒号を上げた。

 瞼を開くと、老人の爪先が部屋の奥へ消えていく。

 鎧は倒した。再び始動する気配もなく、老人との対話を遮る者はいない。


 クロは右腕の切り傷を押さえながら、狭い通路を進んだ。

 彼の話を聞きたい。一体何があったのか。

 なぜ、忌まれた技術である魔器を作り続けているのか。

「やめろ! 来るな!」


 扉が放たれた先で、老人は後ずさりしようと足を滑らせた。その膝の上には、あの黒猫がいる。

 そこは、倉庫だった。。

 上の階とは違い、丁寧に手入れが施されていた。


 保管されているのは他でもなく、彼がこれまで創り上げてきた魔器だ。数え切れないほどに、作品が保管されていた。

「……あの、片繰さんですよね?」

「うるさい! 黙れ!」


 片繰は牙を向いた。

 心の底から憎まれているのが、声音で分かった。

「お前らには屈しないぞ。地の果てまで追いかけてこようと、魔器は創り続ける! 邪魔するんなら、今ここで殺してやってもいいんだぞ!?」

「き、聞いてほしいです。僕は政府の人間じゃ――」


「嘘をつくな!」

 彼は聞く耳を持たない。

「いつもそうだな! 目的のためなら手段を選ばない!」

「……政府に、何をされたんですか?」


 クロは静かな声で問う。理解しなければ、対話は始まらない。

「忘れたとは言わせない。俺の傑作を馬鹿にしやがったろ!」

「馬鹿に……でもあなたは、今でも魔器を創り続けて」

 老人は強く鼻で笑った。


「何にも知らねぇみたいだな。こんなむさ苦しい地下にいるのは、誰のせいだと思う? お前ら政府が、俺を爪弾きにしたからだろ!?」

 魔器が古来より忌避される技術だったことは、歴史書にも記されていた。それは、政府から迫害されるほどのことだったのだ。

 彼にとって、政府は親の仇のようなものだろう。


 これほど丹精を込めて組み上げた作品を、馬鹿にされた。

「それでも、魔器を作り続ける理由はなんですか?」

 唐突な問いに、老人は困惑の汗を流す。

「なんだ? お前。さっきから妙な質問ばかりして。何が狙いだ?」


「……あなたのことが知りたいんです」

 気味悪く思ったのか、老人は身を小刻みに震わせる。

 やがて、企みを含んだ笑いをこぼした。

「……ハハッ。あいつらに、復讐するためだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ