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第5話 生き抜く為の術

「すげぇなユマ。相手はかなり強かったぜ」


「ほんとによく勝てたね!」


 同じ騎士の連中が戻ってきたユマに賞賛の声を投げ掛ける。


 ユマも謙遜しながらもどこか気恥ずかしいそうにしていた。


 スルガはリアナの動けない姿暫く見つめていた後、ユマへと視線をやった。


「ユマ君、戦闘中に明らかに動きが変わったね。何を感じた?」


 スルガの問い掛けに背筋を伸ばして答える。


「はい! リアナさんの剣術はイデーネ先生の剣術に似ていました」


 イデーネ──ルンセルの街にある騎士学校の教官を務めており、その中でもかなり熱心に教える女性。

 自らシャンベルへ赴き、何度も頭を下げて年に数度騎士団長相手に稽古をつけて貰っている程だ。


 ユマもイデーネの教え子の一人。


「その通り。リアナ君も恐らくはイデーネ教官から剣術を教わった。違うかな?」


 「──はい」


 スルガの言葉にようやく身体を起こして、スルガへと数分前とは別人な程に弱々しい視線を送った。


「イデーネ教官の剣術は、初戦相手にはかなり強い。振りや切り返しが鋭いが初動の動きが大きかったりする。故にその剣を知っている者からすると対処されやすい」


 リアナの場合、その優れた身体能力によって、欠点である大きな振りも気にならなかった。

 しかし、ユマ自身もイデーネの剣術を知り、既にスルガからその弱点を痛い程までに教え込まれていたが為に対処されてしまった。


「純粋なフィジカルだけならば、リアナ君はユマ君に劣っていない。これは現時点で考えてもあり得ない程に鍛錬を積み重ねてきた証拠だ。だが、戦いとは、力や技、速さ、経験や知識といった色んな要素から勝敗が変わってくる。今回は力や速さで勝っていたリアナ君は、知識と経験によって負かされた」


 全員が真剣にその話を耳にする。


 リアナは現実を突き立てられて、拳を強く握りしめる。


 今までは力を鍛え、技を磨きただ強くなる事を考えて訓練を積んできた。


 それだけではその先にはいけない。


 多くの流派やスタイルがあり、それに対応する知識。

 相手の出方を見て、どう対応するべきか判断出来る経験。


 そういった物は考えていなかった。


 「まぁ、それらを全て凌駕する程までの圧倒的な力や速さがあれば、経験や知識や技術なんて通用しない事もある」


 遠い所を見ながら目を細める。


 スルガの言う圧倒的な力を保有する存在。

 恐らくその場に居た全員が同じ者を連想していた。



「それって──」


 騎士の一人が遠慮がちに聞く。


「あぁ、魔王さ。魔王と引き分けて英雄とかなんとか呼ばれてはいるが、実際は続けていたら負けてたからな」


 冗談混じりに肩を竦める。

 何処か強がっているような、自身の力の無さを嘆いているような悲しげな瞳をしていた。


「さて、仕切り直しだ。残り二名の新入騎士君。どちらか手合わせをしよう」


 手を叩いて、無理やり空気を変えた。


 慌てて残っていた二人は手を挙げる。


 今度はリアナは手を挙げていなかった。


 挙げられなかった。


 「じゃあ、ダイン君」


 指名されたダインは、短髪の水色の髪の少年。

 若さ故にその瞳には未来を感じさせる力強さがある。


 「はいっ! お願い致しますっ!」


 指名を受けて背筋を伸ばし、拳を強く握って喜ぶ。

 周囲の先輩騎士達は、何故か憐れむような目でダインを見届けていた。


「ネフィ副団長。合図を頼むよ」


「はい」


 明るめの赤髪で少しクセ毛のある女性。

 歳は二十代中頃。

 切れ目で何処かキツそうな顔立ちをしている。


 ダインとスルガが位置へと着き、お互いが構えるのを見て右手を挙げて振り下ろす。 


「始めっ」


 先程とは打って変わり、合図を受けてもお互いに動かなかった。


 最初の返事の潔よさは影もなく、表情に余裕はなく汗を滲ませる。

 ダインはどう攻める事が正しいのか、どうしたら失敗しないのか、そんな事ばかりが頭を巡りまともに仕掛けていけなかった。


 暫くの硬直の後、スルガは構えを解いた。


 ダインは更に動揺する。


 ゆっくりとそんなダインへ歩いて間合いを詰める。


「さぁ、何処からでも」


 剣を持ちながら手を広げてポーズする。


 その挑発に撃ち込む覚悟を決めた。


 「っ!?」


 次の瞬間、ダインの喉元には切っ先が添えられていた。


「勝負あり」


 騎士団員達は、過去に自身も経験しているのか苦い表情をしながらダインに慰めの言葉を投げ掛ける。


「気にしなくて良いからな」


「俺も全く同じだったから」


「私は三日くらい落ち込みました」


 傍から見ていたなら、ただダインは何もせずに首に剣を持っていかれるのを黙ってみていたようにすら見える。


 だが実際は──


「そんな……どうやって」


 本人は見えない速さでもなかったのに防ぐ事が出来なかった。


「今のは起こりの瞬間を狙ったんだ」


 スルガの口角が上がり、何処か楽しげに説明する。


「完全に守りに入った人間を崩すのは難しい。それは当然防御に神経をやっているからだ」


 軽く防御体勢を見せながら、ダインを見る。


「その逆に攻撃をする瞬間っていうのは、防御は出来ない。何故ならもう攻撃する体勢に脳が入っているから」


 今度は攻撃体勢へ移るモーションをゆっくりと見せる。


「そしてこの攻撃の起こりの瞬間に、滑らせるように剣を持っていくと相手は来る事が分かっていても攻撃から防御へと脳の切り替えが上手く出来ずに、ただ攻撃されてしまう」


 そう説明を受けるとダインは自分が体験した不思議な感覚がまさにその通りだと納得した。


「この起こりの動作を減らす事が生存率へと繋がる。今までフィジカルの鍛錬は幾らでもしてきただろうし、これからも続けていくだろう。だから、起こりを減らす動きをここで学んで身に着けていって欲しい」


 柔らかな瞳で全員を見渡して一言。


「せっかく騎士へとなったんだ。死ぬな」


 国の為に命を掛ける騎士であるが故に、無駄に命を落とさないで欲しいというスルガの願い。


「はいっ!」


 騎士達はその気遣いに応えるように元気よく返事をした。

 スルガのそんな想いを聞いてリアナは静かに視線を落として、表情を隠した。


 父の命を奪うとしている事を後悔しているのだろうか。

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