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お父様お命頂戴いたします〜最強騎士の娘が父を越えるまで〜  作者: 天坂 千


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第36話 一太刀

「惜しいな。それだけの胆力や技量を持ちながら、裏の世界で埋もれているのは」


「あぁん? 今更、俺の実力にビビったのか?」


「いや、アンタじゃ勝てないよ」


 右腕の傷を押さえながら、スルガは何の動揺もなく答える。

 グエルは口角が吊り上がり、手を広げるように挑発する。


「今、どっちが優勢かを理解してるか?」


 スルガもその言葉に表情を緩ませる。


「だけど、踏み込めずにいる」


「……けっ」


 利き腕である右腕の負傷で、満足に剣を振るえなくなっているはずのスルガ。

 それでも強気な発言をしてはいるが、攻撃を仕掛けられずにいたグエル。


 グエルの本能が攻めるなと警鐘していた。

 流血による体力の消耗を待つことが確実に勝つ勝ち方。

 始末屋としての最善策だと。


「それだけの実力がありながら、始末屋なんてやっているのは勿体ないな」


 皮肉や挑発ではなかった。

 スルガは心底そう思っていた。


 手負いの相手だからと勝負を急がない。

 必殺の間合いへ踏み込まず、流血で体力が尽きるのを待つ。

 あるいは、確実に仕留められると確信するまで均衡を崩さない。

 始末屋として磨き上げられた、狡猾で冷徹な戦法だった。


「勿体ないだぁ? 勝手な事ほざくなよ」


 グエルにはこの道しかなかった。

 手を差し伸べる者も、導く者も、憧れる者すら居なかった。


 自らで這いつくばり、足掻き続けて、ようやく手にした始末屋という居場所。


 それだけは、誰にも否定されたくなかった。


「お父様っ!?」


「親父!!」


 駆け付けてきたリアナがスルガの腕の流血を見て、今にも泣き出しそうな顔をする。


 カディとケディもリアナの後に続いて来ており、グエルの優勢を見て、胸をなで下ろしていた。


「リアナ……」


 少しバツの悪そうな表情をしていたが、すぐに明るく切り替える。


「なぁに心配するな。すぐに終わらせるよ」


「てめぇの命がか?」


 グエルがその発言に苛立ち、噛み付く。

 だか、スルガは穏やかな表情のまま。


「悪いが、この命既に先約がある。アンタにはやれないな」


 そう言いながら、ちらりとリアナを見る。


 リアナは目が合うと小さく頷いた。


「さて、これ以上心配させる訳にはいかないんで、幕引きだ」


 スルガはそう言って、剣を鞘へと納める。


 その行動を全員が訝しげに見ていた。


「どういうつもりだ?」


「こういう技だ。油断はしない方がいい」


 攻撃の前に種を明かす。

 警戒させて、身構える猶予を与える。


「馬鹿正直に余裕じゃねぇかよ。舐めやがって」


「舐めている相手にこの技は使わないさ」


 剣を鞘へ納めた状態で重心をやや前へと倒す。

 左手で鞘を軽く握り、右手は柄へと充てがう。


 今から攻撃を仕掛けるとは思えない程に涼やかな闘気の流れをしている。


「飛燕万丈(ひえんばんじょう)」


「なっ!?」


 踏み込んだスルガの姿は消える。


 グエルですらスルガを認識したのは斬られる直前。

 グエルも剣で防ごうと試みるも、その剣すらも木の枝のようにスルガの一閃にて両断される。


 一拍遅れてグエルの腹部から鮮血が噴き上がった。


 一切の無駄を削ぎ落とした闘気の流れと太刀筋。


 その一閃に誰もが言葉を失った。


「がはっ!」


 グエルは吐血しながら、膝から崩れ落ちる。


「親父っ!?」


 カディとケディが思わず声を上げた。


 一太刀で状況は一転した。

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