第35話 娘と息子の戦い
カディとケディは下卑た笑みでリアナを眺める。
「殺すには勿体ねぇ女だな」
「ま、俺達に出会っちまったのが運の尽きってヤツだ」
それを意にも介さずに冷静に剣を構える。
そこには既に怒りの感情ではなく、シュエルの想いを守り、悪を討つ──一人の騎士としての姿だった。
「余り喋っていると弱さが際立ちますよ」
「は?」
二人はリアナの挑発に顔を歪ませて青筋を立てる。
それを見てリアナは確信した。
この二人は感情で動く。
ネフィの言葉を実戦へと活かす。
『あぁいう盗賊とか野盗との戦いになった時には、最初に安い挑発をしてみろ。それで怒るようなら自分達のペースでしか戦えない連中で、気にしない奴はこっちを相手にしてないか、侮っている所があるから出鼻を挫き易い。んで、逆に挑発を返してくる連中は自分のペースをしっかり作ってくるから気を付けた方がいい』
ザン戦以降にネフィが稽古をつけてくれた時に助言していた事を思い出す。
そして自分自身にも戒める。
カディとケディの心無い発言に怒り、突っ込もうとした時にスルガは止めた。
もし、その時にそのまま突っ込んでいたら身を隠していたグエルに斬り殺されていただろう。
今目の前で怒りを露わにする二人の姿を見て、先程までの自分と重なる。
剣術だけではなく、精神面でもまだスルガへは遠く及ばない。
「参ります」
小さく、そして力強く呟く。
カディとケディが動き始めた起こりの瞬間に、ケディへと一足飛びに間合いを詰めた。
「なっ?!」
自分達から仕掛けるつもりが、機先を制されて身体が一瞬硬直する。
リアナの一閃を辛うじてダガーで受け流す。
しかし勢いを殺し切れず、ケディは体勢を崩した。
敢えて地面へと伏して、何とか転がりながら距離を取る。
「ファイアーアロー」
ケディに追撃がいかない様にカディが魔法で応戦する。
リアナは想定していたように後ろへと飛び退いて、難なく躱す。
「やはり二人共魔法使いですね」
魔法を使ったカディは当然として、ケディも一太刀交えただけで十分だった。
剣は牽制程度で、本命は魔法での連携を取るものだった。
故に連携をさせ無ければ、それ程恐れる敵ではない。
体勢を整えられる前に今度はカディへと駆ける。
「やべぇ! カディ、コイツ強ぇぞっ!?」
まだ魔法を撃てる体勢になっていないケディは、カディへ声を掛けるのが精一杯だった。
「んなもん、見りゃ分かるっての!」
カディは嘆きながらも、ダガーを構えてリアナの攻撃を凌ぐ事だけに集中する。
しかしカディはリアナの剣に反応する事がやっとで、ダガーはリアナの剣に弾かれ、情けない金属音と共に宙へと舞った。
慌ててケディが魔力を高めて詠唱しようとした瞬間──。
リアナは闘気を高めて刃へと集中する。
「ショックエッジ!」
衝撃波が一直線に走った。
ケディは青ざめた表情になりながら、躱すも避けきれずに足を負傷し、その勢いで地面を転がる。
「お、お前ただの騎士じゃねぇのかよ?!」
「ただの騎士です。今年入ったばかりの」
リアナの言葉にカディとケディが一気に戦意が削がれた。
入団したばかりの騎士がこの強さ。
ならば、その上に立つ騎士団長スルガの強さは想像を絶する。
父であるグエルさえ敵わないのかも知れない──。
その考えが頭を過ぎり、一気に戦意が失われる。
「あなた達、三つ子でしたよね?」
不意なリアナの質問に二人は目を見開いて顔を上げる。
「あ、あぁ、それがどうした」
「もう一人は剣が使えたのですか?」
「……あぁ、コディだけが親父の才能を継いで剣が使えたよ」
リアナは合点がいった。
スルガが二対一の状況になるのに、何の不安もなく二人と戦わせた事。
そして二人の出鼻を挫き、ペースを作らせなかったとはいえ、圧倒的に接近戦に弱い事。
恐らくは三人一組の戦い方がこの兄弟の持ち味だったんだろう。
「それならあなた達は相当強かったんですね」
リアナは少し寂しそうに言う。
それは敵でありながら、三兄弟で積み重ねてきた鍛錬や絆を思ってしまったからだ
二人はリアナのその発言に言葉を失った。
「俺達が敵う訳ねぇ……」
カディが瞳に涙を溜めながら、小さくボヤいた。
遠くから大きな爆発音が三発聞こえてきた。
「お父様!」
爆発の音にリアナが不安になり、スルガの戦っている方へと走った。




