第34話 始末屋の戦闘
グエルは無造作にロングソードを振り回す。
型にとらわれず、相手の動きを見ながら軌道を変える。
何よりも単純な速度がずば抜けており、スルガが防戦一方になっている。
「なんだぁ、英雄ってのも大した事ないな」
「さすがは名の知れない始末屋だな」
名前が知れ渡らない──つまりは、出会った標的、目撃者の殆どを殺してきている。
スルガはそれを知っている。
相手を侮る事をしない。
騎士同士の戦いではない。
始末屋が剣のみで戦うはずもない。
それを警戒して守りを固めて様子を窺っていた。
軽口を叩いているグエルもそれを理解している。
騎士団長が、英雄と呼ばれる目の前の男が、簡単に仕留められるはずがない事を。
絶好の機会が来るまで手の内は晒さない。
「俺を相手にのらりくらりしてて良いのか? あっちの女騎士は見た所歴が浅そうだが、ウチの息子相手に勝てるとはおもえねぇがな」
スルガの焦りや動揺を誘う。
しかし、スルガは一笑する。
「心配無用、あれは俺の娘でね。強いよ、実際」
「……けっ、大層な信頼だな」
「そこに関してはお互い様じゃないのかな?」
「……すかしやがって」
グエルが後ろへと飛び、スルガとの距離を開ける。
胸元の軽鎧の隙間から黒と赤が混ざり合った色の玉を取り出す。
そこへ魔力を込めるとその玉は光り出し、それをスルガへと投擲する。
「爆炎玉か」
爆炎玉。魔力を流し込むだけで爆ぜる魔道具だ。威力は低いが、目眩ましには十分。
スルガの目の前で玉は爆発し、爆風と砂煙がスルガを襲う。
砂煙の向こうから飛来した三本のナイフ。
視認するより速く、スルガの剣が三度閃き、甲高い金属音が鳴り響いた。
スルガは背後からの気配を感じて、振り向くと大きな建物の瓦礫が飛んできていた。
「そのデカさを投げてくるかね」
顔を引き攣らせてながらも、最小限の身のこなしで躱してグエルの気配を追う。
口調や所作は荒々しいが、砂煙で身を潜めるグエルの気配はスルガでさえ感知するのは容易ではなかった。
少し視界が晴れてきた時、三つの爆炎玉が足元に転がってきた。
「くっ」
派手な爆発音が三度に渡り鳴り響く。
それとほぼ同時にグエルが爆煙の中から牙を剥く獣のようにスルガへと斬り掛かる。
威力が低いとはいえ、至近距離で三発の爆炎玉を受け、さしものスルガも一瞬体勢が崩れる。
その隙を逃さない。
勿論、グエル自身も爆発に巻き込まれる事を覚悟しての捨て身の攻撃。
そうしなければスルガへは一撃すら入れられない事をグエルは悟っていた。
スルガへと襲いかかる凶刃は、激しい衝撃音と共に弾き落とされる。
「くそったれがっ!!」
決死の一撃をも捌かれ、思わず怒号が漏れる。
グエルの放った必殺の一撃が返って自身の隙を作ってしまった。
スルガの剣はグエルの軽鎧を裂き、うめき声と共に血飛沫が舞う。
「そのまま大人しく倒れておいてくれ」
スルガが剣先をグエルへと向けた瞬間、グエルの剣がスルガの右腕を深く抉る。
「さすがに深手を負えば、即反撃はあり得ねぇとでも思ったか?」
グエルは平然と立ち上がり、負傷しているとは思えない程の余裕の笑みを向ける。
「血のりか……」
「御名答。俺はこの通り大した傷なんて負っちゃいねぇ」
斬られた軽鎧を脱ぎ捨てる。
鎧は見た目以上に厚みがあり、内側は血のりで真っ赤に染まっていた。
グエルの胸も血の色で染まってはいたが、斬り傷は一切なかった。
不意打ちや背水の陣を布石にした、騙し討ち。
始末屋としての正攻法。
「英雄だろうが、国王だろうが、狙った獲物は正々堂々と手段を選ばずに始末する。それが俺のやり方だ」
スルガの右腕からは尋常ではない程の血が流れ落ちる。
「それじゃあ、後始末といくぜ」




