第33話 友の為に
スルガは少女セリナの両親の墓を作り、そこでリアナと共に屈んで手を合わせていた。
「悪いね。手向ける花も用意してやれなくて。娘さんの事は心配いらないさ。良い教会を知っている。なぁにアーネス殿に任せておけば、きっと良い子に育ってくれるよ」
スルガは死者と言葉を交わす術を持たない。
それでも、墓の前で語り掛ける。
スルガには念仏や聖歌は詳しくはない。
だからこそ、死者が一番安らかに眠りにつける言葉を掛ける事がスルガにとっての念仏だった。
「お父様、私はあの子にどう声を掛けてあげられるでしょうか?」
悲しい瞳で墓を見詰めながら、スルガへと問い掛ける。
自分自身で考えて出す言葉は、全てが気休めにしかならないように思えてしまい、答えは何も出ない。
「頑張って何か言葉を掛けるより、ただ手を差し伸べてあげれば良いさ」
「……そうですね。それなら私にも出来そうです」
スルガはリアナを見守るように見つめて、何かを決心したように立ち上がる。
「はぁー? ハズレじゃねぇか。ここを襲えばシュエルが来ると思ったのによぉ」
「変なオッサンと可愛い女の子だけじゃん」
短く毛先を遊ばせた髪、淡い緑の瞳。軽鎧をまとい、腰にはダガーナイフを提げた男達だった。背丈から装備に至るまで、まるで鏡写しのように瓜二つである。
リアナは敵意剥き出しにその男達を鋭く睨みつける。
「おぉ、怖いねぇ」
男は煽るように戯けて見せる。
「君達がこの村を襲った犯人かな?」
「だったら?」
悪びれる様子など微塵もなく、堂々と聞き返す。
「何故こんな事を?」
スルガも全く取り合う事をせずに淡々と会話を進める。
「シュエルに弟が殺られた。その復讐さ」
「兄弟を殺された痛みを知っているのに、何故多くの関係の無い人を殺したんだ?」
「はぁ? 説教かよ。んなもん、俺が腹立ってるからに決まってんだろ。他の奴が泣こうが悲しもうが一々気にしてられっかよ」
「ふざけないでっ!!」
リアナは耐え兼ねて怒鳴った。
ここまで怒りを露わにしたリアナは初めての事で、スルガも思わずにリアナの様子を窺うように見た。
「関係の無い家族が……両親が亡くなって、これから一人で生きていかないといけない幼い子がいるのよ!」
男達は互いに目を合わせた後、なおも嗤う。
「ならその子も殺してやれば良いじゃん」
リアナが剣を抜く。
スルガがリアナの肩へと手を置く。
「それでもう一人はどうしたんだい? アルバードファミリーのカディ君、ケディ君」
スルガの言葉で笑顔は消える。
「てめぇ、何で俺達の事を……」
スルガは一貫して表情を変えずに話を続けていく。
「色んな地方を巡ってるとね、情報は色んな所で仕入れる事が出来るのさ。少し高かったけどね」
スルガは言葉の途中で視線だけを横へと向けた。
「ん、そこかな?」
何かを察知したのか、スルガはおもむろに闘気を高めて剣へと集中させ、ショックエッジを誰も居ない空間へと放った。
ショックエッジは瓦礫を破壊しながら、半壊していた建物へと直撃する。
建物は崩れ、ショックエッジは不自然に霧散して消えていった。
土煙が舞う。
その煙の中から、野太い声と共に男が現れる。
「あっぶねぇなぁ。まさかバレるとは思わなかったぜ」
半壊した建物の陰から、カディ、ケディと似た面立ちの五十代の男が現れた。
手にはロングソードを携えており、その獲物でスルガのショックエッジを相殺した。
「アルバードファミリー。三つ子とその父親の始末屋だな」
グエル・アルバード、カディとケディの父親で家族ぐるみで始末屋をしている。
これまで余裕を見せていたカディとケディは苛立ちを募らせていた。
「ちっ、いい気になりやがって、ぶっ殺してやる」
「待てっ! お前達の敵う相手じゃねぇよ。コイツはシャルベリア帝国の英雄様だぞ。それぐらい知っとけ」
「英雄……この冴えないオッサンが?!」
カディとケディは父親に言われてようやくスルガの正体を知る。
「まだ三十代なんだけどね」
スルガは聞こえないような声で呟いた。
「しっかし、村一つの為に英雄自らがわざわざ来るとはな。正義を掲げるのも大変なこったな」
「違うな。友誼の為さ。そして俺で良かった。シュエル殿を死なせずに済んだ」
グエルは不服そうにスルガを睨みつける。
「ならアンタだったら、俺に勝てるって言いたいのか?」
「何を言ってるんだ? シュエル殿だって君らには負けないさ。ただ、君らみたいな奴の為にアッシュ地方から離れて問題が起きれば、彼女は全ての責任を背負い込み、自ら命を絶つだろう。それは許せない」
スルガはククル村が襲われた話を聞いた時点で、シュエルの覚悟を理解していた。
シュエルは村の仇討ちの為に、責務を放棄してしまった事の責任を取るだろう。
こんなくだらない奴等の為にシュエルが犠牲になる事が、同じ騎士団長として、共に戦場を駆けた友として見過ごす事が出来なかった。
「口ばかりは達者な事だな。コディの無念はてめぇで贖ってもらうぜ」
グエルがロングソードの切っ先をスルガへと向ける。
「リアナ」
「はい」
「お前は、あの二人を任せられるな?」
「はい!」
リアナの視線はカディ、ケディを捉える。
もうリアナの瞳は怒りだけではなかった。
スルガの想いを聞き、これが何の為の戦いなのかを心に刻んでいた。
始末屋アルバードファミリー対英雄カーティス親子の死闘がこれより始まる。




