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お父様お命頂戴いたします〜最強騎士の娘が父を越えるまで〜  作者: 天坂 千


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第31話 お慕いしておりますので

 アッシュ地方──野心のあるガルティア、野盗等も多く治安の悪い地方ではあったが、シュエルは初の女性団長として就任し、アッシュ地方を任される事になってからは多くの街や村が平穏になったと言われている。


 ガルティア国、防衛最前線リョザンの砦では、雪が激しく降り、視界が悪い中でシュエルが物見台に立ち、ガルティアの方向を見つめていた。


「だーんちょう! 何をしてるんですか?」


 陽気にシュエルへと声を掛けたのは、小柄で見た目だけならば十五歳程にしか見えない程幼い女性だった。


「エミリ副団長か。最近ガルティアから不穏な動きも報告を受けているからな。その事を考えていた」


 幼い見た目でありながら副団長と呼ばれたエミリ。

 怪訝そうな表情でシュエルの顔を覗き込む。


「だからって、こんな所でガルティアの方を見てても何も見えませんよ?」


 エミリの言う通り、景色は愚か数メートル先すらも吹雪で見えていない。

 それでもシュエルはガルティアを見詰める。


「ここが一番余計な事を考えずに済む」


 シュエルの表情は変わらない。


 だが、エミリの表情は曇る。


「ククル村の事……ですか?」


 シュエルは静かに瞳を閉じる。


「ククル村はスルガ殿に任せた。スルガ殿なら心配する事にはならない。だからこそ、私は私の持ち場を守る。それが私の責務だ」


「相変わらずマジメですねぇ。それにスルガ団長への信頼がハンパないですねぇ」


 冷やかすようにエミリは笑う。


 表情を変えなかったシュエルの眉が動く。


「どういう意味だ?」


「だって、シュエル団長は、スルガ団長に好意寄せてますよねぇ?」


 イヤらしい笑みを浮かべて再びシュエルの顔を覗き込む。

 シュエルは今度は顔を背けて見せないようにする。


「馬鹿な事を。スルガ殿は妻子持ちだぞ。それに私の抱いているのは憧れだ」


「へぇー、本当にそれだけですかぁ?」


 更にシュエルへと歩み寄り肩を当てるように寄り添い、質問を続ける。


「エミリ副団長」


「何ですか?」


 エミリは目を輝かせ、期待を込めてシュエルを見る。


「そんなに暇ならば、一つ手合わせでもしようか?」


 シュエルは逆に殺意の籠った冷たい視線で返した。


「あ、あははぁ……冗談ですよぉ。余り外に長く居ると風邪引いちゃうんじゃないかと心配していただけです! ほら、体調を崩しちゃったら、そっちの方が支障出てしまうじゃないですか」


 シュエルの殺意にたじろぎ、必死に取り繕う。


 それを見て、ようやくシュエルは表情を緩ませる。


「ふ、確かにそうだな。体調管理も騎士の務め、もう少ししたら戻るとしよう」


「じゃあ、私もそれまで一緒に居ますね」


 呆れた顔でエミリを見る。


「こういう時は一人にするものだぞ」


 エミリは同じような表情でシュエルへと返す。


「えぇー、シュエル団長を一人にしたら結局時間忘れて長く居るじゃないですか? 私が居た方がここに居づらいでしょ?」


 シュエルは声を出して笑った。


「確かにその通りかも知れないな……ありがとう」


「いえいえー、私だってそれはそれは団長の事を尊敬し、お慕いしておりますので、それくらいの気遣いはしますよぉ」


 それを聞いたシュエルは照れくさそうにエミリの頭を小突いた。


「いてっ」


「そういう事は口に出したら締まらないぞ」


「別に格好良さは求めてませんので」


 エミリは満面の笑みで答えた。


 シュエルは短く溜息をついたが、その表情からは最初の張り詰めたものは無くなっていた。

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