第30話 小さな命
「これは……」
リアナは表情を歪ませ、言葉を詰まらせた。
それはククル村の惨状がリアナの想像を越えていたからだ。
村全体が焼け焦げ、家は倒壊し、原形を留めている物を見付ける方が難しい。
鼻を突く焦げ臭さだけが風に乗って漂い、人の声は聞こえてこない。
本当に最近まで人が住んでいた場所とは思えなかった。
「まずは生存者の確認だ」
「……はい」
リアナは吐気を必死に堪えながら、辺りに生存者が居ないか捜索する。
目を背けたくなる状況であっても、たった一人の生存者を見逃さない為に。
所々脆くなっており、触れると崩れていく瓦礫を掻き分けて、村中を隈なく調べていく。
漂う焼け跡の焦げ臭さと鼻を突く腐臭に、リアナは思わず咽そうになる。
「リアナ、こっちだ」
スルガの声の方向へと駆け寄ると、そこにはスルガの腕に小さな女の子が意識無く抱えられていた。
すぐ傍には、娘を守っていたであろう父親と母親の姿。
「こんなに……小さいのに……」
リアナは無意識に歯を食いしばり、爪が食い込む程に拳を強く握りしめていた。
「それでもこの子はまだ生きている。親が守り抜いた命を絶やす訳にはいかない」
リアナは震える手でスルガから少女を受け取り、優しく抱きかかえる。
「目立った外傷はないが、衰弱が酷い。まずは水だ」
救助用の水筒を取り出して、ほんの少しずつ、ゆっくりと水を少女の口へと注ぐ。
少女の唇は乾ききり、水はほとんど流れ落ちる。
リアナは不安な表情でスルガを見る。
「大丈夫だ。少しずつ、少しずつで良い」
少女の喉が僅かに鳴る。
「よし、もう少し頑張ろう」
意識の無い少女に優しく語り掛ける。
先程よりも少しだけ、水が喉を通っていく。
リアナはようやく詰めていた息を吐いた。
「一先ずはこれで大丈夫だろう。目を覚ましたら、しっかりと水分と栄養のある物を食べさせよう」
暫く少女の顔を眺めた後、スルガはゆっくりと立ち上がる。
「他の生存者の確認をしてくる。リアナはこの子を守っていてくれ」
リアナは短く頷いて、少女へと視線を移す。
布を取り出して、少女の煤で汚れた顔を優しく拭き取る。
スルガはそれを見て、一瞬表情が緩むも、すぐに引き締めて村の捜索を再開した。
少女の顔の煤を拭い終えると、スルガが向かった方向へとリアナは目をやる。
姿の見えなくなった父の背中を思い浮かべる。
この惨状の中で、冷静に救える命を確実に救う姿に、幼い頃に見ていた父の背中を思い出していた。
「お父様……変わってませんね」
いつでもスルガ自身の事は後まわしで、周囲の人を助ける父に憧れていた。
そして逆に自身を後回しにする事で、父との時間が少なくなっている事が悲しかった。
子供ながらにそれが父の仕事であり、より多くの幸せを守る為である事を理解し、甘える事も我儘を言う事も表へは出さなかった。
「大丈夫だよ。絶対に助かるからね。お父様は必ず見捨てたりしないから」
意識のない少女に静かに話す。
少し遠くから瓦礫を踏む音がする。
「誰っ?」
音は明らかにスルガが行った方向とは別の所から聞こえてきた。
リアナは少女を守るように抱き寄せ、身構えた。
瓦礫の隙間から小さな人影が現れる。
30話まで読んでくださり、本当にありがとうございます!
人との関わりを重ねて積み上げていくような作品にして参りますので、引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
ブックマークや評価、感想はいつも執筆の励みになっています。本当にありがとうございます!
今後とも『お父様お命頂戴いたします』をよろしくお願いいたします。




