第28話 ゴーマ地方へ
スルガとリアナは馬に乗って、ククル村へと続くオンデス街道を駆けてゆく。
前の物資輸送の時とは違い、馬車のペースに合わせる必要もなく、黙々と馬を走らせる。
「……団長。今回の件は、何者の仕業なのでしょうか?」
普段と違うスルガの真剣な表情。
そして続く無言の時間に耐えかねて、リアナが質問する。
「今の情報量だと憶測の域は出ない。竜の可能性もある。賊徒や魔族の可能性もある。他にも色々だ」
「魔族とは休戦協定を結んでいるのでは?」
「魔王とはね。魔王の支配を受けない魔族もいる。そこは人間も一緒だけどね」
リアナの不安を察して、スルガは少し表情を緩める。
焼き払われたのが、『たまたまククル村』だったのか、『ククル村だから』狙われたのか。
それによって、今回の事件が単なる局地的な襲撃なのか、それとも帝国全体を揺るがす陰謀なのかが変わってくる。
スルガの脳裏には先日の魔力を持ったモンスターの件が嫌でも過ってくる。
「……もし、私が足手まといになるようでしたら、見捨ててください」
リアナの瞳には強い意志があり、前だけを見ていた。
決して、自身が弱く、誰かに守られるのが耐えられない、という誇りから出た言葉ではない。
自身が足を引っ張る事で守れた命を失う結果になってしまうような真似をしたくなかったのだ。
「大丈夫だよ。こんな任務に成り行きだけで連れて来た訳じゃない。リアナならいけると俺が判断した」
温かくも力強い言葉。
団長であり、父親として見せたスルガの想いやりだった。
「団長、必ず生きて帰りましょう」
「なら、それまでは一時休戦だな」
リアナはその言葉を聞いて、くすりと笑う、
「それはどうでしょうか」
「本当に勘弁してください」
重苦しかった空気がほんの少しだけ軽くなった。
──二時間程、馬を走らせ川のほとりで小休憩を挟む。
スルガは馬達の体調を確認しながら、毛並みを整えるように撫でる。
ククル村へはまだ二日程掛かる為、急いで無理をしてしまっては、馬が潰れてしまう。
「団長。来てください」
リアナが囁やき声でスルガを呼ぶ。
スルガも自ずと足音を殺してリアナへと近付いていく。
「どうした?」
「あれを」
そう言って指先で示した場所には、ザンと一緒にいた巨漢四人衆より、更に一回り大きな怪物が居た。
「あれはオークだな」
「強いんですか」
「下級竜の単体よりかは強い」
それを聞いてリアナは息を呑む。
ガリュバスとの戦闘経験があるだけに警戒心を強くする。
「ま、向こうの機嫌が悪くない限りは、こっちから何もしなければ大丈夫」
オークは野蛮な部分もあるが、普段は温厚で人を見ただけで襲うような真似はしない。
「じゃあ、あの子も大丈夫ですか?」
リアナに言われて注意深く見てみると、オークの前に小さな子供が立ちはだかっていた。
「子供……? いや、あれは魔族の子か」
その魔族はオークを前にして、怯える事もなく、堂々と対峙している。
「我輩は偉大なるネクロスの末裔、ネクレスなり! さぁ、下等なるオークよ。我輩に跪き、忠誠を誓うがよい」
小さな身体を必死に大きく見せながら、オークへと語り掛ける。
「……オゥ?」
オークには何一つ伝わらず、困惑している。
「ふむ、我輩の高貴なる魔力を前にして怖じ気づいたか!」
ネクレスはふんぞり返って、満足気に頷いている。
「あれはネクロマンサーの王の子か……生き残っていたのか」
スルガは物珍しそうにネクレスを観察する。
「知っているのですか?」
「前にエルフの長の昔話を聞かされた時にね。随分と話に聞いていたより、悪い奴ではなさそうだが」
二人で話をしているとオークがネクレスに大きなこん棒を振り上げる。
「あっ」
リアナの声が漏れる。
「下等なるオークの分際で我輩に仇なす気か? やめ──グギャァァァァァァァァ」
オークは困惑に耐え兼ねて、目の前のネクレスを吹き飛ばした。
ネクレスは一瞬にして空の彼方へと消え去っていった。
「お父様。一体今のは何だったのでしょうか?」
「……気にしなくていい。野生ではよくある自然の摂理というヤツさ。それと団長と呼びなさい」
スルガが踵を返し、馬の方へと戻る。
「さ、そろそろ出発だ。ククル村はまだ遠い、今日中にシーシャの街までは行っておかないといけない」
「はい」
リアナはスルガの背中を追うようについていく。
ただありふれた日常が流れる中、ゴーマ地方で一体何が起こっているのだろうか。




