第27話 父の意志、娘の意志
リアナがスルガを襲う光景は回数を重ねる毎に激しさを増していた。
その足運び、剣筋は入団当初より明らかに上達しているのが分かる。
「ひぃぃぃぃっ!」
それでも変わらずにスルガは情けない声を上げながらも、全てを上手く躱し続けている。
「団長、あれ見たらどう反応するかな?」
「下手したら、一撃入れられるかも……」
「いやぁ、それはさすがに」
いつもの光景を眺めながら、騎士達はリアナのショックエッジに若干の期待をしていた。
あの技を出した時に、スルガがどう反応するのか。
そして、どう捌くのか。
騎士達の興味は尽きなかった。
そしてリアナの闘気量が上がる。
大きく踏み込み、横薙ぎ一閃。
それをスルガは後ろへ飛んで下がり、距離を取る。
次の瞬間、上げた闘気を剣へと纏わせてその場で振り抜く。
「ま、待ってっ!?」
慌てながらも一歩踏み込んで、斬撃を斬る。
大きな衝撃音と共にショックエッジは消え去り、衝撃による風が吹き抜ける。
「何て事だ……」
リアナの放つショックエッジは付け焼き刃で覚えたとは思えない完成度だった。
予想を遥かに越える威力に思わず声が漏れる。
「だ、誰だ? リアナにショックエッジを教えたのはっ?!」
すぐに我に返って、問いただす。
その視線は真っ先にネフィへと向けられる。
ネフィも敢えて黙っていたので、気まずそうに視線を逸らす。
「さぁ、心当たりはありませんよ」
その反応から明らかにネフィを疑うように睨み続ける。
「クラトス団長に教えてもらいました」
リアナは素直に答えた。
だが、厳密に言えば、教えられた、ではなく見て覚えたのだが。
「あのキザトスめぇ……」
クラトスの爽やかな笑顔を思い浮かべながら、恨みを募らせる。
簡単に対応したように見えるが、出す場面や相手によっては、一撃で倒す事の出来るかなり危険な技である。
スルガは咳払いをしてゆっくりとリアナに近づく。
「リアナ君、その技はリスクもあるし、かなり危険な技だから闇雲に使わないようにしましょう」
「スルガ団長になら大丈夫です」
「あ、いや、だから……」
自分相手でも危ないからむやみに使わないよう伝えたつもりだったが、真っすぐな笑顔で返されて、スルガはそれ以上何も言えなかった。
笑顔を向けられて嬉しい、嬉しいのだが、そういう話ではない。
「はぁ……休憩だ。昼食にしよう」
諦めたように溜息をつき、全体に伝える。
食堂へ向かう者、持ってきた弁当をいつもの場所で食べる者、休憩を惜しんで稽古する者等様々に散っていく。
「食堂へ行こうか」
「はい」
リアナはスルガと共に食堂へと向かう。
返事は素っ気ないものだったが、リアナの表情は緩み、何処か嬉しそうにも見えた。
──スルガとリアナが食堂へと向かう最中に前方から騒がしい声が聞こえてくる。
「シュエル殿、お待ち下さい。今シュエル殿が北方から離れる事は望ましくありません。北方のガルティア国の王は野心を秘めた男です。これが罠であった場合はシャルベリアをも揺るがす事態になりかねません!」
ディオンが懸命にシュエルを説得する。
しかし、シュエルは表情を変えずにただ急ぎ足のまま突き進む。
「ならば、ディオン殿は私の故郷等小さいものは放っておけと?」
「そういう訳ではありません。こちらで人員は手配致します。お気持ちは分かりますがシュエル殿自らが向かわれるのは得策ではないです」
シュエルの故郷は南方のゴーマ地方のククル村。
その村が何者かに焼き払われてしまった事が報告され、シュエルを突き動かした。
「どうされました?」
二人の会話はある程度聞こえていたので、大方の内容は把握していたが、シュエルを止めて落ち着かせる為にスルガが間に入った。
「スルガ殿……」
シュエルの瞳が僅かに揺れる。
「スルガ殿、丁度良い所に──」
「シュエル殿の故郷が何者かに襲撃された件ですか?」
ディオンは頷いて肯定する。
シュエルが一先ず足を止めてくれた事に安堵し、静かに息をつく。
シュエルもまた英雄であるスルガを尊敬し、その剣に憧れて団長にまで上り詰めており、スルガを無碍にする事は出来なかった。
「しかし、これは私の問題です」
それでも譲れないものはある。
自身の故郷を襲われて黙ってはいられない。
「シュエル殿、北方にも故郷を持つ者は居ます」
スルガは短く、淡々とした口調で伝える。
「……」
「この件私に委ねていただけませんか?」
「しかし……」
シュエルは唇を強く噛み締めて言い淀む。
シュエルもスルガに任せれば、問題は解決されるであろう事は想像出来る。
しかし、気持ちの問題だった。
「今シュエル殿が離れれば北方の兵も動揺します。ガルティア王はそれを見逃す人物ではありません」
「それでも私の故郷です」
シュエルは真っすぐと素直な気持ちを伝える。
「私は帝国もシュエル殿の想いも守りたい。ククル村の生存者は全員助けます」
スルガが深く頭を下げる。
シュエルは慌てて、それを止める。
シュエルの全身に力が入る。
そして、大きく息を吸い込む。
ゆっくりと息を吐き出す。
「スルガ殿。宜しくお願い致します」
「承知致しました。ディオン殿、後の事は宜しく頼みます。私はすぐにククル村へと向かう」
「スルガ殿、頼みます」
ディオンは少し心配そうに見送る。
「私も同行させてください」
スルガは黙ったまま、リアナを見る。
リアナも一歩も引かず、その視線を受け止める。
「これは遊びじゃないぞ」
いつもとは違った厳しい口調で突き放す。
「私も守りたいです。シュエル団長が大切にしているものを」
「……すぐに支度出来るか?」
「はいっ!」
その力強い眼差しに、意志に、騎士となった頃の自分自身を重ねてしまう。
リアナは間違いなくスルガ・カーティスの娘であった。




