第22話 戦う理由
横薙ぎ、唐竹、背後へと回っての突き。
全てが大剣に遮られザンには届かない。
ザンは大剣でありながら、リアナの高速の斬撃を悉く弾き落とし、遊んでいるようにさえ見えた。
「お前、騎士は何年目だ?」
成長しているはずのリアナの猛攻に対してすら、息一つ乱れていない。
「……三ヶ月」
そのザンの余裕な振る舞いに苛立ちを隠しきれない。
ガーゼルにすら不意をついた一撃を与えたはずなのに、全てが見透かされている。
「おいおい、三ヶ月程度でその域なのか? 最近の騎士はどうなってんだ。こりゃ、騎士の認識を改めねぇと痛い目見ちまうな」
ガーゼルとの違いは相手を見る深さにある。
ガーゼルは視線、足運び、呼吸等を経験則で予想し、相手の動きを見極めている。
ザンはというと、視線、足運び、呼吸だけでなく、指先や爪先の向き、身体の傾きまでも観察し、幾つもの行動を予測する。
そして、次の挙動で、可能性を絞り込み、相手の次の行動を見抜いていた。
「次はこっちから攻撃させてもらおうか」
ザンの大剣による大振りな横薙ぎ。
それでも間合いを詰める速度と振りの速さから、リアナは剣で受け止めるので精一杯。
「くはっ」
剣で受け止めても尚、その力は凄まじく、リアナは身体ごと後方へ飛ばされ、木へと激突する。
背中を激しく打ち付け、呼吸が苦しい。
痛みで顔を歪ませながらも、ザンから目を離さずすぐさまに剣を構え直す。
「お前、殺すには惜しいな。どうだ、ここで引くなら見逃してやってもいいぞ?」
大剣を肩に担ぎ、余裕を見せ付ける。
「引ける訳ありません」
「騎士としての誇りか? それで死ぬのは馬鹿だと──」
「この親子の命を守る為です。守れないのであれば私はお父様には……」
リアナはそこまで発すると口をつぐんだ。
父親と息子の互いを想う気持ちを目の当たりにして、少しだけ嫉妬した。
そして憧れた。
死なせる訳にはいかない。
命も。
その想いも。
リアナの闘気が自然と溢れる。
「目先のもんばっかに囚われていると、後悔するぜ」
「それ自分自身に言ってます?」
「はぁ?」
ザンが初めて眉を吊り上げて怒りを露わにする。
リアナはザンを狙うのを止めて、ヤバンへと一直線に駆ける。
「オ、オデ?」
「てめぇ……」
ザンがヤバンの前へと滑り込もうとした瞬間、リアナは軌道を変えて、ザンの右後ろへと回り込む。
リアナの剣が斜めに一閃する。
ザンは無理矢理体勢を捻り、回避するも腕を掠める。
ザンの腕から血が滴る。
「後悔しましたか?」
「知った風な事言ってくれるじゃねぇか」
「ゴメン、オデノセイデ」
ザンの腕の傷にヤバンが動揺する。
ヤバンにとってザンが傷を負う姿を見る事は滅多にないからだ。
「なぁに、気にするな。もう終わらせる」
次の瞬間、ザンがリアナへと駆ける。
大剣の横薙ぎ。
リアナは先程の経験から受ける事なく、下がってこれを避ける。
ザンの空いた左側へと狙いを定めて、剣を振る。
リアナが振るった剣をザンの大剣が下から跳ね上げる。
大きな金属音と共にリアナの剣は手から弾き飛ばされた。
剣を持っていた手はその衝撃だけで痺れを感じる。
ザンは更に追い討ちを掛けるようにリアナの腹を真正面へと蹴る。
「ぐっ」
勢いよくリアナは地面へと転がり込む。
腹部の痛みで咽るように咳き込み、蹴られた場所を押さえながら悶絶する。
地に伏したリアナを見下ろすように眺める。
「どうだ? 自分の正義は貫けそうか?」
大剣を肩に担ぎながら、余裕を見せつけるように皮肉を言う。
「正義とかはよく分かりませんが──」
『リアナ、お父さんはね。自分が正しいからとか、悪いヤツをやっつけるからとか、そんな理由で騎士になったんじゃないんだ。ただ守りたいものがあるから騎士になったんだ。だから──』
「守りたいものを守るだけです。だから、無事に帰らないといけないんです!」
幼い頃に掛けられた父の言葉。
よく分からなかった言葉。
守りたいものを守る為には、生きていなければいけない。
自分が死ねば、守るべきものも死ぬ。
だから、無事で帰る。
守るべきものがある者は生き抜かなければならない。
──リアナは守り抜く覚悟だけを胸にザンへと駆け出す。
蹴られた痛みで、最初のような動きの鋭さは失われていた。
まだ自身の未熟な技巧が通じる相手ではない事を理解していた。
もはやフェイントや緩急も一切ない、ただ全力で振り上げた剣を叩き込む。
ザンにそれが通用するはずもなく、大剣で打ち落とされる。
「馬鹿か? 無事に帰りたけりゃ、見捨てて逃げてりゃあ良いだろ」
ザンの突きがリアナの横腹を貫く。
痛みで顔を歪めるも、間髪を入れず剣で反撃する。
もはや闇雲に振るう剣では、ザンには触れる事すら出来なかった。
リアナの腹からは血が流れ落ち、少しずつ意識を薄れさせていく。
「いい覚悟してやがる。それだけに惜しいな」
大剣を頭上に上げ、ただそれを振り下ろす。
今のリアナにそれすら躱す余裕はなかった。
それをザンも理解していた。
リアナは力を振り絞り、剣を頭上に構え、大剣を受け止める。
受け止めた衝撃で横腹の傷から更に流血が進む。
リアナはそのまま地面へと力尽きるように崩れ落ちていく。
「さて、後は親子だけだな──?」
ザンはリアナから親子へと向きを変えて、歩みを進めようとした時、足首を握られた。
いつ意識を失ってもおかしくない状態でありながら、その足首を持つ手の力から強い意志を感じられた。
「まだ……です。まだ私が相手です」
まともに身体の力が入らない中、ゆっくりと絶え絶えになりながらも立ち上がり、剣を構える。
リアナの姿にさすがのザンも困惑する。
正義の為でもない。
ただ初めて会い、助けを求めて来た親子の為だけにここまで命を、身体を張れるものではない。
そして何よりリアナの瞳からは、死ぬ覚悟ではなく、未だに生き抜く覚悟を感じる。
「……ちっ、しゃあねぇ。おい、お前ら──」
ザンが何かを言おうとした瞬間、一本のナイフがザンの顔を掠める。
ナイフは後ろの木へと刺さって止まる。
「何者だ?」
ザンは後ろへと飛び、ナイフが飛んで来た方向へと目を凝らした。
「ウチの部下が随分世話になったみたいで、悪いね。しっかりとお礼はさせて貰うよ」
鮮やかで濃い赤色の髪を靡かせる。
ネフィ副団長が不敵な笑みと共に颯爽と現れた。




