第21話 ザンと四人の男達
「父さん!!」
この時ばかりは聞きたくなかったその声。
振り返れば、息を切らしたスランが騎士を連れて戻ってきていた。
地面に着いた手にナイフが刺さり、そこから血が滴っている光景を目の当たりにしたスランが今にも泣き出しそうな顔をしながら、叫ぶ。
「スラン……」
スランの父を想う気持ちを感じ。
これから行われる殺戮を想像する。
安堵と絶望が入り混じる。
「安心してください。ここからは私が片付けます」
リアナは父親を守るようにザンとの間に割って入る。
「かっ。俺達は片付けられちまうらしいぞ。バズラ」
「グフフ、それは無理ってもんですよ」
救援が騎士一人しかいない事にやや退屈を露わにするザン。
自分の出番が無い事を悟り、近くの巨木の根に腰を掛けた。
「父さん、大丈夫か? すぐ手当てを──」
「スラン。何故来た。そのまま逃げてくれれば良かったのに……」
項垂れて力なく放つ言葉。
そんな父にスランは肩をがっちりと掴み、視線を合わせる。
「たった一人の父親を見殺しに出来る息子に育てられた覚えがないからね」
「そう……だ。……そうだな」
盗賊の脅しにすら屈し無かった瞳から、涙が溢れる。
自然とリアナの拳に力が入る。
「必ず、守ります。大丈夫です」
その言葉にはかつて無い程の怒りが籠もっていた。
「おい、バズラ。気を抜くなよ。相手は腐っても騎士だ」
「はい、分かりました。気をつけ──?!」
バズラの言葉は止められた。
気が付いた時には既に間合いにリアナが剣を抜き、刃が迫ってきていた。
バズラは咄嗟に斧で防ぐ。
「わっとっと」
衝突の勢いでバズラが二、三歩仰け反りながら後退する。
リアナはその隙を見逃さず、追撃すべく一歩踏み込む──が、視界の端から何かが飛来してくるのを察知し、剣で防ぐ。
小さく甲高い音が鳴る。
ザンが放った小石だった。
リアナの追撃は失敗に終わる。
「正義の騎士様が不意打ちとは、随分と心得てやがるな」
ザンはこの戦いが少しは余興になりそうな予感がし、屈託のない笑みを見せる。
「頭ぁぁ! 二人を呼んで来ましたぜ」
巨漢のグロウが他の二人を連れて戻ってきた。
これで更にリアナの戦況は不利になる。
「バズラ。そこの女が相手か? オラに任せろ」
ドズル。
見上げなければいけない程の大男が大きな斧を肩に引っ提げて駆け付ける。
「!?」
「オデモ、タタカウ。カシラ二、ホメラレル」
ヤバン。
大きな岩と見紛う程の大きな男が体格に見合った斧を無造作に振りながら、走ってくる。
「………………四つ子?」
リアナは暫く四人を観察するようにじっくりと見比べて、結論へと辿り着く。
「違うぞ」
ザンが短く答える。
「嘘……でしょ」
リアナは驚愕した。
自分の目が可笑しくなったのかと何度も見返す。
確かに全員異常に大きな体格をしており、大きな斧を所有しているが髪の癖、顔の表情は各々で違っていた。
だが、シルエットだけで言えば、殆ど分からない。
「お前ら、気を付けろよ。そいつは速ぇぞ。全員で掛かれ」
「分かったぜ、頭ぁ!」
グロウが答えるや否や、リアナへと駆け出し、斧を振り下ろす。
その巨体、大きな獲物に似合わない速さにリアナ一瞬戸惑うもすぐに冷静に対処する。
続いてドズルが拳を突き上げる。
それを躱すと今度は蹴りが放たれる。
その身のこなしは、非常に洗練された徒手空拳であった。
しかし、それでもリアナには届かない。
リアナもまた日頃のスルガの動きを見ており、その攻撃を躱す技術も磨かれていた。
「斧は?」
「オラは殴る方が得意なんだな」
(なんで斧持ってるの?)
バズラが斧を前へと翳す。
何かを詠唱し始める。
「フレイムアロー」
無数の炎の矢がリアナへと発射される。
リアナは驚きながらも全て剣で薙ぎ払い、炎の矢は霧散する。
「斧はっ?!」
「俺は魔法の方が得意だ!」
(じゃあ何で斧なのっ!?)
矢継ぎ早にヤバンが斧を振り下ろす。
しかし、他の者よりかは遅く、リアナは難なく躱す。
振り下ろされた斧は刃の殆どの部分がめり込んでいた。
「クソ、ヌケナイ」
ヤバンが一生懸命に斧を引き抜こうとしている。
「オデ、オノニガテ」
(じゃあ、斧持たなければ良いのでは……?)
見た目の統一感だけはある。
しかし戦い方は全員がちぐはぐの集団。
リアナは困惑は尽きることはなかった。
「へぇ、やるじゃねぇか」
「本気で言ってますか?」
こんな冗談みたいな戦いではあったが、実際にはリアナであるからこそ、全ての攻撃を捌き切っている。
スルガ、ユノ、ガーゼル、ガリュバス、多くの敗北から得た経験がリアナの生存率を押し上げる。
ザンはその身のこなしを見逃してはいなかった。
実際にガルグンニーラは騎士との戦闘経験も何度かある。
それでも全員が生きており、捕まっていない事がその強さの証明でもあった。
「まずは──遠距離から」
リアナは四人の目を掻い潜り、バズラの懐まで滑り込んだ。
ガリュバスの猛攻を潜り抜けてきたリアナにとって、この程度の包囲は恐れるものではなかった。
「やばっ」
バズラは今度は斧で止める事が出来なかった。
リアナの剣がバズラの横腹を裂く。
バズラは唸り声と共に斬られた腹を抑えながら体勢を崩す。
「バズラ! 大丈夫か?」
グロウが慌ててバズラへと駆け寄ろうとした時、リアナは容赦無くグロウの背後を取った。
「なっ!?」
次の瞬間、大きな甲高い音が鳴り響いた。
ザンの大剣がリアナの刃を止める。
「休憩は終わりですか?」
「選手交代だ」
先程まで気楽に構えていたザンの瞳には炎が宿っていた。




