第20話 父親の覚悟、そして揺らぎ
茂みの向こうから足音が近付いてくる。
(とうとう見付かってしまったか……)
五十過ぎでありながら、狩りを生業としているせいか姿勢も良く、足腰もしっかりとした男は茂みの中で覚悟した。
盗賊に遭遇した時、すぐにこの場所を息子へと伝え、自身が囮となって、息子を街へと逃がしていた。
この辺りは狩り場として普段から訪れているので、熟知している。
そして身を潜める術も心得ていた。
(ただの盗賊じゃなかったか……)
息子が街へと行って、どれくらい経っただろうか。
息子は逃がした。
隠れ切る自信はあったが、もうこうなれば運がなかったと諦めもついていた。
「御名答だ。無理だとは思うが命は助けて欲しい」
両手を挙げて潔く茂みから出てくる。
「あぁ、無理だな」
何の躊躇いもなく、短く答えた。
そこには当たり前であり、話し合う余地の無さが窺えた。
「もう一人居たろ?」
「もう息子は街へと逃がしたさ」
「へぇ、やるねぇ」
ザンは素直に感心していた。
ザン達の目を盗み、見付からない道を選んで逃げ切った息子に。
囮役をしながら逃げ切る時間を稼いだ上で、この場所へと身を潜めるまで持ち堪えていた父親に。
「それじゃあ、ガキが戻ってくるまで待つとするか」
「なっ!?」
先程まで殺される事を覚悟していた男の表情が一変し、狼狽え始める。
「おいおい、何を驚いてる? 普通戻ってくるよな? 騎士とかに助けを求めてよ」
ザンのいう事も勿論想定していた。
いや、だからこそである。
本来なら、助けを求めて連れてくるであろう騎士が来る前に自分を殺して、そのまま立ち去るものだと思っていた。
だが、目の前のこの男は、その騎士すら意に介していなかった。
「た、頼む。俺の命だけで勘弁してくれ!」
自身の命乞いはしなかったのに、息子の為に土下座をして頼み込む。
男の手に鋭い痛みが走る。
地面に着けていた手にナイフが投擲されていた。
「残念だが、狙った以上は絶対だ。何ならアンタの首提げて街中歩いてやろうか? そうすりゃ向こうから血相変えて出てくるだろ」
男の顔色から血の気が引いた。
これ程までに残忍だとは思わなかった。
それ以上に騎士すら恐れていない事に戦慄した。
「ま、さすがに団長クラスが出てくるのは厄介だからしねぇけどな」
それでも団長クラスを厄介で済ませるザン。
それは自分の力への信頼なのか、過信なのか。
もっとも、騎士達の駐屯する街へ自ら乗り込む程愚かな行為をしたりはしない。
あくまでも脅しなのだろう。
(来るな、スラン)
この時ばかりはスランが親不孝であってくれと願う。
その願いも虚しく、見慣れた息子の姿が騎士を連れて戻ってきた。
ここまで読んで頂きまして、本当にありがとうございます。
20話までお付き合いいただき、嬉しい限りです。
作者の中では『お父様お命頂戴いたします』をタイトルが長いので「おといの」と略しております。
宜しければ皆様も「おといの」と呼んで頂ければ幸いです。
月並みではありますが、ブックマークや評価、感想等頂ければ執筆の励みになります。
これからもリアナ達の物語を楽しんで頂けるように精一杯努めさせてまいります。




