第17話 会議にて
帝国シャルベリアの王宮の会議室。
各騎士団長と宮廷魔導師長、宰相が顔を並べていた。
「ディオン殿。スルガ殿の倒したモンスターの分析結果はどうでしたか?」
白髪の老人、ロディウス宰相。
皺だらけの顔には、歴戦を戦い抜いてきたであろう風格が備わっている。
今は完全第一線を退いており、内政に力を注いでいる。
「スルガ殿の倒したゾルドファングからは、魔物の血が検出されました」
「魔物の血? 魔物との混血という事か?」
ロディウスは怪訝そうに眉を寄せ、皺だらけの顔により皺が集まる。
モンスターと魔物が交わる等、ロディウスも今までに聞いたはない。
「いいえ。明らかに人為的なものです。憶測ではありますが、何かしらの実験として作られたモンスターかと」
「ふむ、つまり意図的に混血種を作り出そうとしていると──」
ロディウスは口に手を当て考え込む。
国を動かすには情報としてはまだ弱い。
「他に何か?」
「いいえ」
ディオンは申し訳なさそうに首を横に振る。
「スルガ殿は何か気づかれた事は?」
途切れそうだった所にシュエルが質問を投げ掛ける。
「そうですね」
少しだけ考えを整理するように間を置き──。
「まずゾルドファングが本来の生息域ではない場所に居たという事。魔力を持っているだけじゃなく、本来のゾルドファングとは生命力も強さも格段に上がっていましたね」
あの一瞬の戦闘で瞬時に違いを見抜いていた。
「魔力を手に入れたから強くなっただけでは?」
ドレイク騎士団長。
鎧の上からでもその鍛え抜かれた筋肉の存在が主張している。
ガーゼルより更に体格の良い大柄のその男が思った事を口にする。
「『強さ』だけならばそうかも知れないが、生命力と魔力に関係性はないかと思う。それこそ魔物の生命力に近いものを感じた」
魔物、魔族は他種族より生命力が高い。
寿命もだが、首を刎ねられても暫くは意識を保っている。
「なるほど! 確かに生命力までは関係ないですな!」
体格の大きい者は、リアクションまで大きくなるのか、ドレイクは大袈裟に頷いて腕を組んだ。
「仮に今は試作段階として──」
オルフェン将軍。
低く掠れている声。
顔には多くの傷が刻まれており、様々な修羅場を乗り越えてきた事が窺える。
「何者かが血を混ぜたとして。上級竜に魔物の血が混ざればそれはどうなる?」
単なる疑問ではなかった。
ジオディノスに魔力と魔物の生命力が加われば、もはやそれを相手に出来る者が居るのか、そう言う問い掛けである。
「想像したくもありませんね。──しかし、もしそうなれば我々騎士団の力だけでは、被害を抑えられる保証はありません」
スルガは顔を引き攣らせた。
それ程までに脅威であり、オルフェンの仮定は実現させてはならないものだと改めて感じる。
「ジオディノスとはそんなに……」
鼻筋の通った顔。
茶色の髪は綺麗に手入れされているのが分かる程に煌めいている。
クラトス団長はジオディノスの強さに訝しげに呟く。
「クラトス殿はジオディノスとの戦闘経験は無かったのですね」
ディオンは重くなり始めた空気を変える為に、明るい口調でクラトスの言葉を拾う。
ジオディノスは個体数も少なく、基本的には生息域以外には出ない事から、お目に掛かる事自体が珍しい。
「はい。まだ見たことさえありません」
騎士団長の中では最年少であるクラトスは、ジオディノスの戦闘を含め、実物を見たことすらなかった。
「その方が良い。戦うにはリスクだけが大き過ぎます」
「そうですか。ならばより精進しておきます」
二人が戯言を交わす。
「ジオディノスもだが、結局は人間が一番厄介である事は間違いないがな」
オルフェンが椅子の背もたれに寄りかかり、少し体勢を崩した。
「確かに。今回の件、どのような者のどんな陰謀にしたとて、人間の仕業である可能性は非常に高い」
ロディウスはそう言うとディオンへと視線をやる。
察するようにディオンが頷いて──。
「こちらで調査致します。各騎士団長の方々も隊へと連携を取り、何かありましたら報告お願いします」
「承知致しました」
各騎士団長達は右手拳を左の手のひらを前で合わせお辞儀する。
──会議が終わり、スルガとディオンは肩を並べ、廊下を歩きながら雑談をしていた。
「帰り道にガリュバスの群れに遭遇したんだって?」
「一体誰から情報を仕入れてるんだ」
先程までの会議での畏まった感じは一切なく、砕けた口調。
ディオンの方が少し先に入団していたが、年齢も近く共に出世していった事から腐れ縁のようになっていた。
「英雄殿の大ファンなもので」
「何が大ファンだ。お前、リアナの初任務を俺の居るシグナ地方へやっただろ」
冷めた視線ディオンを睨む。
その目は奇しくもリアナに似ていた。
「いやはや、偶然だよ。ぐ・う・ぜ・ん」
誰がどう聞いても故意的であるのは明白だった。
仮にディオンが今回の混血種の件の犯人なら、もう解決しているだろう。
「ほぉぉぉー、リアナの入団先が俺の所ってのも偶然なんだな?」
「勿論じゃないか。いや、これはひょっとして、偶然ではなく運命なのかも知れないな」
「だとしたら、お前は神様か」
最後の皮肉にディオンは笑って誤魔化す。
「それより、もしオルフェン将軍の言っていたような化け物が出てきたとして──」
ディオンの表情から笑みは消えていた。
「ア《・》レは使うなよ」
「……そうだな。俺も出来れば使いたくないしな」
ディオンからスルガの顔は見る事が出来なかった。
ディオンは肩を竦めて短く息を吐く。
「後は若い世代に託していきましょうや」
「俺達もまだそこまでの年齢じゃないだろ」
「何言ってる。もう俺達はおじさんだぞ?」
「は? おじさんにはまだ早いだろ」
「あー、認めたくない人? 今の世の中三十過ぎれば十分おじさん。三十後半になればじいさんに片足突っ込み始めてるんだよ」
「そうなのか? まだお兄さんでいたかった」
ディオンは仕方なく笑った。
「だが、じいさんの時期が一番長いぞ」
「なら、リアナの為にも格好いいじいさんにならないとな」
何気ない会話。
二人はそのまま酒場へと向かっていった。




