第3話 まさかの睡眠宣言
クローゼットの向こうでは、
社長とメンバーが大騒ぎしている。
社長
「ジェイ!?どこ行った!?」
メンバー
「さっきこの廊下にいたのに!?」
ガサガサ、ドタドタ、バタバタ──
完全に修羅場。
希良里はクローゼットの扉を閉めたまま、ジェイに小声で言う。
「ジェイさん、向こうめっちゃ探してますよ!?
どうするんですか!?戻らないと──」
ジェイは、
希良里のベッドの端に腰を下ろし、
前髪を指でかき上げながら、
ため息をひとつ。
アイドルでも王子でもなく、
ただの“疲れた青年”の声で言う。
「……最近寝てないんだ。少し休ませて。」
「……あの匂いを嗅いだら、もう止まれなかった。」
「いやいやいやいやいや!?
今!?この状況で!?
向こう地獄みたいになってますけど!?」
(すでに横になる)
「……うん。知ってる。」
「知ってるんだ……」
(目を閉じながら)
「……ちょっとだけ。すぐ起きるから……」
その“すぐ起きる”は絶対起きないやつ。
希良里はパニック。
クローゼットの向こうは修羅場。
ジェイは寝息が静かに落ち始める。
そして、
部屋にだけ、ジェイの“現実の存在感”が残る。
ジェイは希良里のベッドで静かに寝息を立てている。
クローゼットの向こうでは、
メンバーが社長を止めるために走り回っているのに、
この部屋だけ時間がゆっくり流れている。
希良里
「……ほんとに寝ちゃったんだ……」
ジェイは寝返りをうち、
ふわっと布団を引き寄せながら、
ほんの少し口元が緩む。
そして──
ジェイ(寝言)「……ルーミー……ありがと〜……」
コンサートでよくやる、あの柔らかい声のトーン。
あの語尾の伸ばし方。
あの“ファンに向けた優しい言い方”のまま。
希良里
「……夢のなかでもアイドルなんだね。」
小さく笑いながら、
でも胸の奥が少しだけ温かくなる。
ジェイはさらに寝息を深くして、
あなたの布団をちょっとだけ奪う。
ジェイ
「……あの頃と同じ……むにゃ」
希良里
「ちょっと……それ私の布団……」
でも取り返す気にはなれない。
だって、
“画面の中の人”が、
今はあなたの部屋で安心して眠っている。
そのギャップが、
ラブコメの始まりを静かに告げている。




