第2話 クローゼットに王子が落ちてきた夜
夜。
希良里はいつものように、部屋の明かりを落として、
MidnightDoorのジェイの動画を見ていた。
今日のジェイは、少し疲れているようで、
それでも笑うと優しくて──
その笑顔を見た瞬間だった。
(ガタッ!!!!!!)
クローゼットの中から、
“人が全力で転んだ音”が響いた。
体が驚きと緊張で固まる。
「……え、ちょ、待って、怖い怖い怖い……」
心臓が跳ねる。
でも音は確かにした。
そーっとクローゼットの扉に手を伸ばし、震える指で開ける。
──その瞬間。
服の山の中に
黒い影が倒れ込んでいた。
「……っ、いった……ここ、どこ……?」
聞き慣れた声。
聞き慣れすぎて、逆に理解が追いつかない。
希良里
「いやいやいやいやいや!?なんで!?え!?本物!?え!?」
服に埋もれながら、ゆっくり顔を上げたのは──
画面の中で見ていたはずのジェイ本人。
ジェイ(息を切らしながら)
「社長が……全力で追ってきて…
事務所の裏口の……扉開けたら……
……ここに落ちた……」
希良里
「落ちた!?クローゼットに!?なんで!?」
ジェイ(真顔)
「知らない。俺も聞きたい。」
ジェイは服についたホコリを払って立ち上がる。
現実に目の前にいるジェイが、
“アイドルとファン”という距離感のまま、
でも確かにあなたを見て言う。
「……とりあえず、閉めて。追われてる。」
希良里
「いやいやいやいや、閉める!?閉めるの!?
え、これ夢!?現実!?ジェイ!?ジェイ王子!?
なんで私のクローゼットから出てくるの!?」
ジェイ(小声)
「声、大きい。」
希良里
「無理でしょ!!」
ジェイ
「……お願い。」
その“お願い”が妙に静かで、
妙に優しくて、
妙に現実味があって──
反射的にクローゼットの扉を閉めた。
その瞬間、
ジェイの落ちてきた“理由”も、
これから起こる“騒動”も、
まだ何ひとつ分かっていなかった。
ただひとつだけ確かなのは──
「クローゼットに王子が落ちてきた」ことだった。
この夜が、私の“突然の恋”の始まりだなんて、
まだ知らなかった。




