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20-⑤ 束の間の休息

 深い森の中をさらに進んで暫くがたった。


 手首に絡まる蜘蛛の糸は、ほんの少しずつ濃くなっている気がする。

 

「あ。」

 

 先頭をすすむアンカが小さな声を漏らした。


 そのまま続いて、糸を頼りに真っ直ぐ進んでいく。


 すると突然、森が開けて巨大な建物が露わになった。

 

「……………………これって……。」

 

 その規模にマリが驚いて呟いた。


 高くそびえる塀に囲まれているにも関わらず、中央の大きなタワーはよく見える程に大きい。


 上へ行くほどわずかにすぼまる逆円錐のシルエット。外壁は鈍い鉄色と黒い石材が混ざり合い黒く重たい。

 

「行くか。」

 ――。

 

 イーネが呟いたと思ったら、瞬時にタワーを囲む塀の上に転移されていた。


 突然のことに、高い塀の上でベリーとマリがバランスを崩してしまったのを何とか耐える。

 

「ちょっと!先言ってよ!」ベリー

 

「言っただろーがよ。」イーネ

 

(……また、きょうだい喧嘩してる……。)マリ

 

 塀に上に移動したとこで、塀の中の様子が一望できる。


 中央にそびえるの最大の主塔。それを囲むように、一番外側には、小さなタワー群。背丈は低いが数が多く、黒い石柱のように地面から突き出している。

 

 その内側には、中位のタワーが円を描くように配置されている。小塔よりも太く高く、外壁には回廊や橋が張り巡らされ、互いを繋いでいる。

 

 小塔と中塔が幾重にも連なり、段階的に高さを増しながら、最終的に中央の巨大な一本へと収束している構造のようだった。遠目に見れば、小・中・大の塔が波のように高まりながら中央へ集まり、巨大な黒い城塞群を形作っている。

 

「………………これ。…………ピ・チティモが残した、可笑しなタワー?」

 

 マリの言葉にイーネが返した。

 

「そーみたいだな。あの時は、中に直接転移させられて、帰る時もアンカの力で、外を経由してないからな。外観を拝むのは初めてだな。」

 

「…………………………こんな大きい場所だったんだ……。」マリ

 

『またここぉ?』ニコ

 

「あいつらにとっちゃ都合いいだろ。身内が作った、高強度のデッカい空き家。」イーネ

 

 ――。

 

 イーネの能力で塀の内側の地面に降り立つ。


 また勝手に転移させられた事に、ベリーは不快感を露わにしていた。

 

「言って!って言ったでしょ?!」ベリー

 

「ああ?!なんで地面に降りんのに言う必要あんだよ!」イーネ

 

「何かあった時に対応しにくいでしょ?!」ベリー

 

「ベリーの運動神経がポンコツなんだよ!文句いわねぇでテメェが改善しろ!」イーネ

 

「一言いうのが、何でそんなに配慮できないわけ?!」ベリー

 

「………………やめな。2人とも……。」マリ

 

『今から戦いにいくんだよ?』ニコ

 

「………………ふふっ。」アンカ

 

 イーネとベリーの緊張感の無い空気に、マリとニコが白けた視線を送る中、アンカはクスクスと笑っている。

 

「………………何笑ってるんですか……。アンカさん……。」マリ

 

「いや。……そいつらが貴方達の前でケンカしてるのが可笑しくて。」アンカ

 

「…………?」マリ

 

「余計なこと言わないで。」「余計な言うな。」

 

 ベリーとイーネの言葉には反応せず、アンカが数歩、歩みを進めて立ち止まる。

 

「ここから、糸の導く先が別れてますね。俺は右。」アンカ

 

「私は左。」ベリー

 

『俺は真っ直ぐ。』ニコ

 

「私は…………え……?上……?」マリ

 

「俺も上だな。」イーネ

 

 すると、アンカは4人がいる方を振り返り、右手で自分の耳たぶに触れて擦るような動作をする。

 

結べ(むすべ) 解けても(とけても) せめて(あかり)を」

 

 チリッ

 

「熱っ……!」

 

 マリが思わず声を出す。


 4人それぞれが右の耳たぶに熱さを感じたようだった。


 アンカが言う。

 

「じゃあ。迎えに行きますから。……それまでに。……死なないで下さいね。」

 

 そして、それぞれが自分の糸を回収しに散り散りとなっていった。


 ――――――――――

 <イーネ・マリ>

 

 イーネの能力でタワーの中腹まで登り、中位のタワーの内部に入り込んでいた。


 そのまま、糸を辿って、長く続く廊下を進む。


 暫くは、外壁と同じ鈍い鉄色と黒い石材で出来た道を進んでいたが、いつからか、近未来のような白いタイルで覆われた明るい内装に変わっていた。

 

(……ほんと……。構造がよく分からない……。)マリ

 

 マリはもう既に、自分がいる位置感覚が分からなくなっていた。


 まだ暫く蜘蛛の糸は続いている。


 黙って歩いていたが、マリの方からイーネに声をかけた。

 

「……ねぇ。」

 

「あ?」

 

「…………貴方達、きょうだいって何者?」

 

「……………………は?」

 

 マリの突然の質問に、イーネは思わず立ち止まって怪訝な表情でマリを見る。

 

「……………………今更かよ?……ってか何で今なんだよ。」

 

「…………なんか。…………話してくれるかなって。」

 

「……………………。」

 

 イーネは引いた表情でマリを見た後、また歩き出す。


 それにマリがついていくように進む。


 少ししてから、イーネが口を開いた。

 

「……俺らも知らねぇよ。俺らは自分の親を知らねぇ。マーリアスの孤児院で出会ってる。」

 

「え?…………じゃあ、血は繋がってないの?」

 

「まぁ。そうだな。」

 

 少しの沈黙が流れ、またイーネの方から話し出す。

 

「…………多分、産まれた時から力を持ってた。……能力って言った方が分かりやすいのか?………………何でこんな力があるのかは知らねぇよ。」

 

「…………タイヨウさん達が探してる、"あの人"との繋がりは……?」

 

「急にズケズケ聞くな。」

 

「…………何となく。」

 

 また暫く静かな時間が流れたが、それは答えないという訳ではなく、イーネの中で何かを整理しているような時間だった。


 イーネが話す。

 

「……俺とベリーは。……正直あんま知らねぇ。……そいつと暫くの間、一緒に暮らしてたのは、アンカとリンだ。」

 

「…………暮らしてた……。」

 

「………………………………そいつは……。"こころ"を探してた。…………まぁ……。アンカによると……。だけどな。」

 

「…………………………こころ?」

 

「……俺も知るかよ。………………………ただ。」

 

 イーネが、言葉に詰まりながら話していた。

 

「………………俺らはそいつに"呪い"をかけられた。一生解けない呪いを。」

 

「…………そ…………う……なの……?」

 

「………………"こころ"を分断する呪いだ。……善と悪。光と闇。…………人が混じり合って持つべきものを、分断して見ようとした。」

 

「………………。」

 

「意味わかんねぇって顔してんだろ。」

 

「………………ま……あ……。そうね。」

 

 糸を辿って進む。


 沈黙が混じりながら会話をする。


 いつしか2人は、まるで決戦の舞台の為に用意されたような、白くて広い空間に出ていた。


 マリが言う。

 

「何をどうやって進んで、どうなったら、こんな広い場所に出るの?…………外観からみて、外から入っても訳分かんないんだけど……。」

 

「建物の物理法則無視だ。それがピ・チティモの能力なんだろ。考えるだけ無駄だぞ。」

 

 まだ糸は続いていて、広い空間の中央を進む。


 縦に長い、長方形の広い空間が長く続く。

 

 またマリがイーネに聞く。

 

「……じゃあ、イーネ達は、呪いをかけられて、その人のことを恨んでる……の?」

 

「…………………………恨んでる……。……何てもんじゃねぇ。」

 

 イーネのトーンが、少し下がったように聞こえた。

 

「………………何回殺しても殺したりねぇよ。」

 

「………………。」

 

 ギャガァギャァアアアアアアアアッ

 

 進む先の方向からジャンクのけたたましい鳴き声がする。


 イーネが言う。

 

「やっぱ。俺とマリにはジャンクをあててくるよなぁ。対人じゃあコッチが優勢になっちまうもんな。」

 

「……イーネは分かるけど。私も?」

 

「お前も十分イカれてるよ。」

 

「…………………………え。まって。心外なんだけど。」

 

 ギャガァギャァアアアアアアアアッ

 

 だが、声はするがジャンクの姿は一向に見えない。


 それほど遠い所から聞こえている訳では無い為、巨大なジャンクの影が見えてもいいはずが、この見通しのいい直線上の明るい空間で一向に見えてこない。

 

「………………姿が見えない敵…………とかじゃないわよまね?」マリ

 

「………………。」

 

 バサッ

 

 翼の音がした。


 それは飛んで近づいてくる。


 人が、白いローブを身に纏っているような形で、背中に大きな肌色をした羽。羽というよりは、羽のように見せた肉の塊。


 それは、イーネとマリのいる場所から50mほど離れた所に着地した。


 本当にローブを羽織っていたようで、ローブの中がもぞもぞと動いている。


 大きくはない。むしろ、人の中でも小柄な方の部類。


 イーネが呟くように言う。

 

「………………ラスター……。」

 

「え?!まって?!嘘でしょ?!」

 

「嘘だよ。さすがに死んでんだろ。」

 

「……………………。……何でそんなこと言うのよ……。」

 

 イーネは、それに真剣な眼差しで答えた。

 

「マシロは人に力を授けられなかった…………。だがそれを…………ラスターが歪な形で実現した。」

 

「……………………嘘でしょ……?じゃあ…………。人間を…………ジャンクに………………?」

 

 ローブの中がもぞもぞと動いて、ゆっくりローブが落ちていった。


 何とか人の形を保っている肉が、ボコボコと浮いたり沈んだり、膨張したり収縮したりしている。


 たが、まだその顔に見覚えを感じるくらいには原型を保っていた。


 見覚えのある男が口を開く。

 

[フザけるなフフフフザけるな……。カエセ返せカエセ返せ返せぇぇえぇえぇえぇええぇ!!!]

 

「………………………………寿命屋の……。誰だっけ。」マリ

 

「マイケルだよ。」イーネ

 

 どう頑張っても不細工としか言えない顔。重たい瞼に、大きな唇、上を向いた鼻、薄い髪の毛。小さめで小太り。


 それは代償のミコを保護する名目で、自分の私利私欲に染めていたマイケルだった。


 マイケルの体は歪に変形しているが、その表情は一目で分かるほど怒りに満ちていた。

 

[ボボボボボボぼ僕の、ののののののの全て……すすす全て…………すすすすす好きスキ好きスキ…………。かえせ…………かかか、かえし……て。]

 

 ズルッ

 

 マイケルの上半身が長く伸びてきてイーネとマリに噛み付いてきた。


 それを左右に交わしてイーネが能力を発動する。

 

 ――。

 

 マイケルの首が分断されて、頭が落ちたが、それは頭というよりは肉の塊で、首の横から、また新しい頭らしきものが生える。


 新しく生えた頭が首を伸ばすようにイーネに接近する。

 

 ――。

 

 イーネが能力をつかってマイケルと距離を取ると、頭はイーネを見失ったのかキョロキョロと周りを見ている。

 

「きっしょくわりい。」イーネ

 

 ドッドッ

 

 ケイトの血液を摂取したマリが、マイケルに向かって弾丸を飛ばした。


 全弾当たり、マイケルの体にめり込むように弾が進んでいったかと思うと。


 そのままマイケルの体に取り込まれてしまったようだった。

 

「嘘でしょ……。武器とられた……。」マリ

 

 ギャガァギャァアアアアアアアアッ

 

 マイケルの体が膨張していく。


 イーネが言う。

 

「俺らでこのタイプを討伐するのはほぼ不可能だ。マイケルを回避して奥にすすめば糸は回収できるだろ。糸回収した後は、アンカ来るまで耐えるぞ。」

 

「………………分かった。」

 

 ギャガァギャァアアアアアアアアッ

 

 きょうだいを巻き込んだ戦いが始まる。

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