表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/134

20-④ 束の間の休息

 深い森の中に足を踏み入れている。


 高く太い樹木が林冠を形成し、光が届かず、薄暗くて薄気味悪い。


 手首に巻きついた糸を辿って進み、終着点が近づいてきているのか、アンカにしか知覚出来なかった糸は、他のメンバーも目視で確認できるくらいには細い糸になっていた。

 

 アンカ、イーネ、ベリー、マリ、ニコ。たった5人。


 少なくとも、マリは、もっと攻撃に特化した核師を入れるべきだと思っていた。

 

(ユウトさんとか……。能力的にあれなら、ポッツォさんとかさ…………。)マリ

 

 マリが、他のメンバーに聞くように言う。

 

「…………なんか……。作戦とかって……。あるんですか?」

 

 それに答えたのはベリーだった。

 

「さっさとアンカが、フリーで動ければいいんじゃない?」

 

「…………つまり……ノープラン?」マリ

 

「違うわよ。事実よ。」ベリー

 

「………………ふーん……。」マリ

 

 [カリカリカリカリ]

 

 少し遠くの方で、微かに聞こえた不気味な音に、アンカ以外の全員の歩みが止まった。


 何故かアンカだけは歩き続けて、他のメンバーの様子に不思議そうに振り返る。

 

「どした?」アンカ

 

「どしたって!……ジャンクの音しましたよ?!」マリ

 

「………………。」アンカ

 

 アンカが目を丸くして言う。

 

「……ずっといるけど…………。襲ってこないんですよね。確かに。だいぶ距離は縮まってきましたけど。」アンカ

 

「……知ってたんですか?」マリ

 

「まぁ……。とっくに囲まれてますよ。凄い数いる。でも。先に進ませてくれるうちに進んだらいいんじゃないですか?…………目的地に近づいたら嫌でも襲ってくるんでしょ。」アンカ

 

 アンカの発言に、イーネが嫌そうな顔をして言う。

 

「……言えよ!!それ!!」イーネ

 

「…………知らないって。……知らなかったから……。ごめん。」アンカ

 

「……………………テメェのそーゆー……!煽るつもりのねぇ発言が一番腹立つんだよ…………!!」イーネ

 

(…………1人だけレベルが違う…………か……。)マリ

 

 [カリカリカリカリ]

 

 また少し近くでジャンクが発する音がする。


 イーネが言う。

 

「ニコもマリも力使うなよ。温存しとけ。そこにアホ面クソ兄貴いんだからな。俺の近くいとけ。最悪、アンカに押し付けて距離とんぞ。」

 

「……いや。それでいいけど。……後でクソ兄貴って言った分お前に返すからな?」アンカ

 

 それに対して、イーネはアンカに舌を出して中指を立てている。

 

(…………きょうだい喧嘩してるし。)マリ

 

 [カリカリカリカリ]

 

 少し離れた木の影にジャンクの姿が複数体見える。


 どれも中型の虫のような形。


 地を張っているジャンクもいれば、飛んでいるジャンクもいる。

 

 [カリカリカリカリ][ブーンブーン][ヂヂヂヂヂヂヂ]

 

 不快感を感じる音が周囲から大量に聞こえ、それは徐々に近づいているようだった。

 

(音だけで……!凄い数いる……!)マリ

 

 アンカが言う。

 

「変に力使ったら森が燃えるからなぁ……。」

 

 そう呟いた後、アンカが手の平を胸の前で向かい合わせると、その間に炎が灯る。それは少しずつ大きく成りながら形を形成し、アンカが片手を炎の中に入れたかと思うと、引き抜く動作と共に炎は剣のような形に変わる。


 炎が消え、剣の姿が露わになると、それは剣とは言い難い形を成していた。


 完全に三日月の形をしたそれは、中心に持ち手があり、半円状の刃は仄かに赤みがかっている。

 

「…………破邪の月 (はじゃのつき) ハレヤ。」アンカ

 

 三日月型の刃が空をきると、通った筋がジリジリと燃えているようだった。


 アンカが三日月型の刃を片手に踏み込む。


 と同時に、周囲から大量のジャンクも襲ってくる。


 フッ ドサッ

 

 それは殆ど音もなく。いとも簡単に。


 既に、最初の虫型のジャンクが分断されて横たわっている。その断面は、焼けただれたかのように煙を出していた。


 そして次に。次に。次に。


 バタバタとジャンクが機能を停止していく。


 マリが言う。

 

「………………アンカさんって……。戦ったことない……って言ってなかった…………?」

 

 それに誰も答えない。マリが続ける。

 

「…………………………どーみても……………………。戦闘に特化した能力…………と技…………でしょ…………。」

 

 それに少し間をおいて、イーネが答えた。

 

「…………あのなぁ。マリ。」

 

「……なに……。」マリ

 

「あいつの言うこと、8割は信じるな。あいつの目算ほどガバいもんはねぇよ。」イーネ

 

「……………………………………そうみたいね……。」マリ

 

 ダァンッ

 

 ジャンクの山の上に、汚れてもいないアンカの姿。


 アンカはまだ森の先を見つめていた。

 

[ヂヂヂヂヂヂヂ][ブーンブーン][カリカリカリカリ]

 

 次のジャンクの群れが押し寄せる。

 

(……核師の遺体が使われているジャンク亜種……。か……。でも、多分、一度上手く適合したジャンク亜種をクローンのように量産したような感じだな。巨大化や怪力。どれも単純な力をベースに昆虫類に組み込んだ。……そんな都合よく、同じ能力者も何人もいないだろうから、1人の核師の遺体から複数体のジャンク亜種を作成して、さらにクローンで量産……。生物とは呼べない……かな……。)

 

 アンカは三日月の刃、ハレヤを構える。

 

(…………こんなのでも、一般人には脅威だし、数が多けりゃ核師も困る。…………いい使い捨ての駒として作られたのか。)

 

 ジャンクが次々と機能を停止していく。

 

(……ジャンク品……。だとしても。……冥福を祈るよ。)

 

 [ヂヂヂヂ……] ドサッ

 

 大量のジャンクの山々が森の中に出来ていた。

 

 ガァァァアアアアアアアッ

 

 森の中からけたたましい咆哮がする。

 

(……で。あれがジャンクね。……マシロって人が作った。)アンカ

 

 アンカの後ろの方では、マリやニコの焦る声が聞こえる。それに対してイーネが何か言葉を返しているようだった。

 

(……また変なこと言ってるなイーネのやつ。……"俺"には突っかかってくるからな。あいつ。)アンカ

 

 ガァァァアアアアアアアッ

 

 森の奥からジャンクがゆっくりと姿を表す。


 マンモスと言うには短い鼻。皮膚というよりは甲羅に近い肌。鹿というには複雑な角。動物というには、巨大で禍々しい姿。それは紛れもないジャンク。

 

(これがジャンク……。)

 

 アンカはハレヤを構える。


 ジャンクは瞳孔を光らせて、肌の表面が淡く発光していた。

 

(…………"あいつ"に近い力を持ったマシロさん…………ねぇ…………。)

 

 アンカの構えるハレヤが赤い光を放つ。

 

「…………………………だとしたら。あまりにも……ジャンク品だな。」

 

 ガァァァアアアアアアアッ


月炎(げつえん)。」

 

 チリッ

 

 火の粉が舞うような音が聞こえた。

 

 ボッ

 

 高く高く。綺麗な円柱状の火柱が上がる。


 ジャンクを燃やし尽くし、森のごく一部だけが焼けて、少しずつ柱は細くなって消えていく。


 これまで、ジャンクの討伐に、多くの核師が命をおとし、多くの核師が時間と労力を割いてジャンクの討伐を担ってきた。


 最低でもそれは半世紀。


 血清の確立。血清への適合。ジャンクとの対峙。


 ジャンクによって大切な人を失った者も、数多くいる。


 そんな事実が馬鹿らしくなるほどに。


 何とも呆気なく。

 

「…………………イーネ言ってたね。…」マリ

 

「あ?」イーネ

 

「………………物語は終わったって。」マリ

 

「……あー。いったなぁ。」イーネ

 

「…………………………本当だね。……だって……。」マリ

 

 火柱が完全に消えて、アンカが持っていたハレヤも、煙のように消えていく。


 灰も残らなかったジャンクと、ジャンク亜種の山だけが残る。

 

「……………すっっごい強い人が。全部1人で解決しちゃうんだから。」マリ


「…………。」


「もう誰も必要ない。……これから、派手な物語を望む方が辻褄が合わない。………周りの苦労なんてのは。……その人を、より魅力的する為だけの……。かませ犬……ね。」マリ

 

「だから、このメンバーでいいんだよ。勇者様とその他の4人だ。」イーネ


「…………。」

 

 アンカは、イーネやマリ達のいる方を振り返って言う。

 

「先。進もうか。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ