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20-③ 束の間の休息

  <理事長室>

 

 真ん中のテーブルを囲んでロの字に置かれた高級そうなソファに、アンカ、リン、ベリー、イーネ、マリ、ニコ、ポッツォが座り、理事長専用の椅子にタイヨウが座っていた。

 

「そもそも。死んでますからね。」

 

 アンカの言葉に、アンカとリンを除いた全員が驚いていた。


 タイヨウがアンカに言う。

 

「…………は?…………え?…………ちょ?…………ほんまなんか?…………それ……。」

 

「本当ですよ。ただ、死んでる所を直接見た訳じゃないんですけどね。でも、信頼できる奴から聞いた話しです。」

 

「………………あ、あの人が…………し?あの人……、死なんやろ?…………そんな……死んでるなんて……。」

 

 一番受け止めが追いついていないのはタイヨウだった。


 アンカは重ねて言う。

 

「なんで、こんな戦争ごっこしても、皆さんが探してる"あいつ"は出てきません。そもそも死んでるんでね。」

 

 それにポッツォが言葉を返す。

 

「……な、なら……。この前の大型のジャンクだって無意味で……。今からマシロが行おうとしてる争いも……。無意味……なんですわよね?…………そんな……何の為に…………。そしたら!その探してる人が死んでいるって事を、マシロに伝えたらいいんじゃないですの?!」

 

 それにはタイヨウが答える。

 

「いや…………。あかんやろ……。マシロは特に、あの方の信者みたいなもんや……。崇拝し、神格化してる……。そんな奴に、死んでるなんかゆーても……。火に油注ぐだけやわ……。」

 

 タイヨウも、どこか覇気を失ったようだった。


 次にイーネが口を開く。

 

「聞いてねぇよ。そんなこと。」

 

「言うタイミングを逃しただけだよ。…………そもそも、あいつの話しはしなかったろ。俺ら。」アンカ

 

「…………。」

 

 少し重たい雰囲気が流れる。


 その空気を切り替えるように話し出したのはマリだった。

 

「あの……。そもそも、アンカさんの炎で、この糸って燃やせるんですよね?…………。燃やしたらいいんじゃないですか?」

 

 それにアンカが答える。

 

「凄く火力がいるんです。本当に強固な糸だと思いますよ。俺のは完全に燃やし尽くせるかもしれないけれど、他の皆んなのを燃やそうと思ったら。……手首の方が先に燃え落ちますね。」

 

 その言葉に、マリは少しぞっとした顔をした後に言う。

 

「でも……。切れればいいんじゃ……。」

 

 それにはイーネが言葉を返した。

 

「糸には引き合う性質があるんだよ。……試しにマリの燃やしてやってくれ。」

 

「んん?」アンカ

 

 ボッ

 

 マリの側の何も無い空間に火が灯る。


 誰にも何も見えてないだろうが、アンカだけが糸を知覚していて、マリの手首から繋がっている糸を10センチほど燃やす。すると。

 

 グイッ

 

 炎が消えた瞬間に、マリの手首が、何も無い方向へ引っ張られるようにして伸びた。

 

「うわっ。」

 

 マリが驚いて、上半身の体勢を崩す。


 イーネが言う。

 

「糸を燃やしたり切ったりしても、即座に引き合って繋げ直す。手首に絡まる糸がある限り、それから逃れられないんだよ。」

 

 次にアンカが言う。

 

「それに、術者からしたら、自分の手元や、設置地点となる糸は、切ったり、燃やしたり出来ないように、より強固にかためるでしょうからね。だいぶの距離を繋いでる。……ここから設置点の糸を確実に燃やし尽くせるかと聞かれたら……。微妙な所ですね。」

 

 それに続くようにイーネが言う。

 

「もし、燃やし尽くせなかったとしたら、ゴール地点まで引かれ続けて止まれない。爆速列車に成りかわんぞ。」

 

「……………………怖。」マリ

 

「だから、糸を切ったり燃やしたりするっていうのは、自分達の行動範囲を狭めることにしかならねぇんだよ。」イーネ

 

 次に話し出したのはポッツォだった。

 

「それじゃあ、こちらから向かうのは確定なのよね?それじゃ、それこそ、核師総出!全団員で突撃してやったらいいんじゃないですの?!」

 

 それにイーネが答える。

 

「お前が戦った、あのデカい化け物ジャンククラスがウヨウヨいる可能性が高いんだぞ。弱い奴を連れてけば犬死にするだけだ。」

 

「えっ?!…………あ、あのレベルが……。ウヨウヨ……。ですの………………?」ポッツォ

 

 イーネが言葉を続ける。

 

「糸のマーキングが施された奴は強制参加。俺、アンカ、ベリー、マリ、ニコは確定。」

 

 そこにニコが口を挟む。

 

『俺とベリーは、いつ糸付けられたんだろ?』

 

「向こうには空間移動系の能力者がいる。病室に侵入するなんて容易いだろ。」イーネ

 

『そーか。』

 

 次に話し出したのはリンだった。

 

「糸を回収しに行くのは当事者達。不測の事態に対応できるように、私を含む、第二陣を準備しておく。って感じかしら?」

 

「そーなるな。……ま。…………。」イーネ

 

 イーネは何故か言い渋っているようだった。


 変わりになのか、リンが口を出す。

 

「アンカがいるから大丈夫でしょ?」

 

 それにアンカが答える。

 

「そー言ってやりたいけど。他の能力者とやり合うなんてしたことないからなぁ……。まずそもそも。"戦う"って事象が初めてなんだけどな。」

 

「え?そうなんですか?」マリ

 

 マリの言葉にアンカが返す。

 

「マリさん。普通に生きてて、能力者と戦ったことあったんですか?」

 

「………………無いですね。」マリ

 

「ははっ。俺もです。」アンカ

 

「平和脳だから気づいてたトラップに引っかかるんだよ……!」イーネ

 

 イーネはどこか不服そうにアンカに言う。


 マリが話す。

 

「そーいえば、アンカさんは自分の糸は燃やせるんですよね?ってことは、もう外せてるんですか?」

 

「いや。俺からしたら、皆んなを人質に取られてるみたいなもんなんで。事を荒げることはしたく無くて。糸はそのままですよ。」

 

「あー。なるほど。」マリ

 

 次にポッツォが話す。

 

「じゃあ、私が呼ばれたのは、リンさんと一緒に、第二陣の指揮を取るのね。」

 

「そーゆーこった。」イーネ

 

 次に言ったのはニコだった。

 

『で。いつ出立するの?』

 

 それにイーネが答える。

 

「明日だ。」


 ――――――――――――――――――

 話し合いが終わって理事長室の外に、タイヨウを除く全員が出て廊下を歩きながら少しずつ散り散りになる。


 マリがアンカに声をかけた。

 

「アンカさん。」

 

「……はい………………?」アンカ

 

 2人が立ち止まる。


 マリは少しだけ考える素振りをして、アンカに質問を投げかけた。

 

「…………アンカさんは。………………どうして、タイヨウ理事長が死んでしまわないと思いますか?…………その…………。貴方達きょうだいに、深く関与してるじゃないですか……。」

 

「………………。」

 

 暫く沈黙の時間が流れる。


 マリは1人気まずそうにしている。


 アンカが言う。

 

「んー。そーですね。」

 

「………………。」マリ

 

「見てるからじゃないですか?」アンカ

 

「……………………見てる?…………。」マリ

 

「……皆んなが探してる。"あいつ"が。」アンカ

 

「………………………………死んでるんですよね?って。…………アンカさんが言ったんですよ?」マリ

 

 マリの怪訝そうな顔に対して、アンカは笑顔を見せる。

 

「好き勝手してるんだと思いますよ?」アンカ

 

「……………………どーゆー意味…………ですか?……。」マリ

 

「説明するのが難しくて。でもまぁ。」アンカ

 

 アンカは少し考えて言葉を選ぶ。

 

「……俺らはいいオモチャにされてるんです。俺らきょうだいも。貴方達核師も。マシロやタイヨウさんといった、始祖幻種?の皆さんも。」

 

「…………オモチャに……ですか?」マリ

 

 ほんの一瞬だけ、アンカから笑顔が消えたのをマリは見ていた。


 アンカが言う。

 

「……死んだ……。正確には、殺されたらしいんですけど……。あいつは、一回殺されるくらいなら足りないと思いますよ。」

 

「……………………。」

 

 アンカがその場から去るのをマリは眺める。

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