20-② 束の間の休息
物語に直接的には関わらない回となります
<キッズルーム1>
数時間前に遡る。
タイヨウカンパニー本社に入ってすぐ脇にあるキッズルーム。
靴を脱いで上がる仕様で、全面にひかれたクッションフロア。広い部屋の中は端に寄せるようにして子供向けの用具やオモチャが並ぶ。
その中央でトラヴィスとアエツが真剣な眼差しで相談事をしていた。その手には、折り紙で作られた、大量の輪っか飾り。
トラヴィスが言う。
「まじ!すげえ量あんじゃん!どーする?!どこ飾る?!」
「すげぇだろぉ!子供と作ったの取っておいたんだよ!お前が届く範囲でいいだろ!壁の高い所!どんどん飾ってくぞぉ!」アエツ
そのやり取りに、ニコが参加して言う。
『ホワイトボードに"祝!入隊!"って書く?!』
「おお!いいじゃねぇか!書け書け!」アエツ
「いや!そこは!"いらっしゃい!アンカおにぃちゃん!リンおねぇちゃん!"だろ!!」トラヴィス
『イイね!』ニコ
そこへ、若干狼狽えているケイトが言葉をかける。
「あ!あの!俺は何すれば?!何しましょう?!」
「お!ケイト君!それじゃあなぁ!一緒に買ってきたお菓子とジュース並べようぜぇ!!」アエツ
「う!うっす!!」ケイト
「あ!まて!ケイト君も入隊直後だろ?!」アエツ
「い、いや……。実は結構たってるんすよ……。事務職ついてから、結構すぐに、適合できる血清が見つかって……。」ケイト
「そーか!じゃあ……。お!ニコ!そこに、ケイトくん初任務、初討伐おめでとう!って書いてくれ!!」アエツ
『がってんしょうち!』ニコ
そのやり取りを、飾り付けの手伝いをしながらナユタとユウトが見ていた。
ナユタが言う。
「イーネとベリーがキレるのが目に浮かぶ……。」
「ほんとに歓迎パーティ実行するなんて思わなかったよね。」ユウト
「いや。言い出したらやるでしょ。絶対。また適当いって……。」ナユタ
「タイヨウにピザ配達させるように頼んだそーだよ。」ユウト
「えええ。会社のキッズルームだよ??いーの??」ナユタ
「理事長がイイっていってんだから、いいんじゃない?」ユウト
ナユタとユウトのやり取りに、マリがコンビニの袋を手に寄って入る。
「ほんと。入隊歓迎会なんて笑っちゃいますよね。誰もそんなのされたこと無いのに。」マリ
「イーネとベリーのきょうだいだからでしょ?仲間の身内が来るって聞いたら、あの人達ならやるでしょ。」ユウト
「マリさん……。それ、何持ってるの?」ナユタ
「あ。なんか、腕相撲大会の景品らしいですよ。勝った人にあげるのかなと思ったら、くじ引きの箱に入れて引くんですって。その順番を、腕相撲で決めるらしいですよ。」マリ
「うわぁ……。色々話した末にそんな事になったんだろうね。」ナユタ
ガラガラガラ
キッズルームの扉が開き、イーネとベリーが入ってくる。
イーネは部屋の中の様子を見て心の底から嫌そうな顔をしてるが、そんなイーネを気にも止めずにトラヴィスが肩を組みに行く。
「イーネ!ひっさびさぁ!!もぉいいのか?!任務の最中に寝たらしーなぁ!」トラヴィス
「……………………黙れよ。っつかなんだ。なんっなんだ、そのホワイトボードは…………!」イーネ
『良い感じ!ケイト君の文字メッチャちっちゃくなった!』ニコ
「イーネ。お前。15歳なんだってな。俺の娘とかわんねぇじゃねぇか。」アエツ
「てめぇの娘、小1くらいだろーが……。ふざけんなよ……。」イーネ
「イーネ。こっちの飾り付け手伝ってよ。」ユウト
「え?!ちょ!こっちによばないでよ!巻き込まれるだろ?!」ナユタ
「い、イーネさん!!どもっす!!お、俺も呼んで頂いて光栄です!!」ケイト
「………………………………もお能力つかえんだからな……?」イーネ
「殺傷能力高すぎて、僕らに使うわけないのに。脅しだけは一丁前だよね。」ユウト
「ユウトさん。それ言っちゃダメなやつですよ。」マリ
「………………。」イーネ
「…………………………ぶふっ……!」ベリー
ベリーがついに堪えきれずに、吹き出して笑っている。
「おお!ベリー!!体大丈夫か?!」トラヴィス
「おおおおおおおおおおおおお!!!!!!」アエツ
今度はアエツがベリーの前まで滑り込んで土下座をしている。
アエツが言う。
「ベリー!!!お前のおかげで俺は生きながらえた!!感謝してもしきれん!!ほんっっっとおーーに!!ありがとう!!!」
「あ!あんた何回お礼ゆーのよ!!病室でも散々!!こっちが恥ずい!!…………そ、それに……。わ、私1人じゃ勝てて無いんだから……。こっちも…………。お礼……。いわせてよ……。」ベリー
「もぉ大丈夫なのか!体は?!」アエツ
「お、お互い様でしょ?!」ベリー
そんなやり取りを続けながら、部屋の飾り付けなど、着々と準備が終わって行く。
暫くして、歓迎の準備が整った頃。コンコンコンとキッズルームの扉がノックされた。
「あ!どうぞ!」マリ。
マリの声かけで扉が開く。
入ってきたのはアンカと、アルバラを抱いた状態のリンだった。
メンバーがてんでバラバラに言葉を発する。
「おおお!はじめましてぇ!!」トラヴィス
「いらっしゃーい!ようこそー!」アエツ
『入隊おめでとう!』ニコ
「どうぞ。」マリ
「ど、どうもっす!!」ケイト
「えええ?!まって。何か決まってないの?!」ナユタ
「こんにちはー。」ユウト
キッズルームを開けた瞬間の騒がしさに、アンカとリンは呆気に取られているようだった。
ほんの少しの後、アンカが「はははっ。」と笑う。
「ありがとうございます。お邪魔します。」アンカ
アンカとリンが部屋に入ってくるのを、イーネ以外が歓迎していた。
するとトラヴィスが言う。
「よし!じゃあユウト!余興で組み手やろーぜ!!」トラヴィス
「余興って……。」ナユタ
「いいですけど、トラヴィスさん。負けるじゃないですか。」ユウト
「え?クッションフロアといえど、怪我しません?」マリ
「痛いのは大丈夫だろ!なっ!」トラヴィス
「うわぁ。核師の悪い所だぁ……。」ナユタ
「せっかくだから賭ようぜぇ!!負けた方がアイスおごりだぁ!!」アエツ
『全員ユウトに賭るにきまってるよ。』ニコ
そんなやり取りに、意外にも口を挟んだのはイーネだった。
「…………………………アンカにやらせればいいんじゃねぇ……?」
「俺?」アンカ
その発言にメンバーが湧き立つ。
「おおおおお!!いいじゃん!やろーぜぇ!!俺!ユウトに賭る!ユウトが負けるとこ見たことねぇもん!!」トラヴィス
「これは!!熱くなってきたなぁ!俺もユウトだ!!そりゃユウト一択だろ!!」アエツ
「ええ。じゃあ。私はアンカさんかな。」マリ
「え?!マリさん止めないの?!」ナユタ
「ナユタさんは?」マリ
「えええええ?!…………ゆ…………ゆ、ユウト……かな。組み手で負ける所、想像できないし……。」ナユタ
『僕もユウト!ケイトは?』ニコ
「お、おれっすか?!…………お、俺も…………この前の任務で一緒で……。ユウトさんがヤバかったんで。ゆ、ユウトさんですかね?」ケイト
「私はアンカ。こっちからしたら、アンカが負ける所が想像つかない。」ベリー
「ふふ。私も勿論アンカ。」リン
これで、投票していないのはイーネだけとなる。
マリがイーネに聞く。
「イーネは?どっちが勝つと思う?」マリ
それに対して、長い沈黙の後にイーネが答える。
「…………………………………………アンカ……。」イーネ
「おいいいいいい!お前!兄貴の事、あんだけ嫌いだ何だと言っといて、結局兄貴に投票すんのかよぉぉおお!!家族愛じゃねぇえかぁぁあああ!!」アエツ
「ええええ?!ユウトがやべーの知ってるくせにアンカかよぉ!!!」トラヴィス
「イーネも僕に組み手で勝ったこと無いくせにぃ。」ユウト
「ええ?!そーなんですか?!」ケイト
「うるっっっっっつせぇーんだよ!!!!てめぇら!舌きり落とすぞ!!!!」イーネ
「「「できないくせにぃ。」」」トラヴィス、アエツ、ユウト
「トラヴィス、アエツ、ユウト。お前らマジで死ねよ。」イーネ
そうして冒頭にもどり、アンカとユウトが激しい組み手を繰り広げているのを他のメンバーがやじを飛ばしながら見守っていた。
ヤジ組が言う。
『けっこう長いことやりあってるね。』ニコ
「ユウトがこんだけ苦戦してるの初めて見た!!」トラヴィス
「それはこっちのセリフでもあるかも…。」ベリー
「こんなの見てたら、能力無しでは核師に戻れねぇなぁ!」アエツ
「…………アンカが汗かいてる。」リン
「リンさん。何でアルバラと居るんですか?ってか、凄く毛並み艶々になってない?」マリ
「私が作る氷が美味しいみたい。」リン
『貴様らのような煩いやからと居るよりも、ここの方が心地よいからな。』アルバラ
「アルバラ、ずっとリンさんと居たの?……それで姿見なかったんだ。………………ユウトさん。職務怠慢ね……。」マリ
「ちょっ……!……うわぁ。ユウトの息上がってる。アンカって人も、ほんと、そーとー凄いんだね。」ナユタ
「………………………………まじか。」イーネ
ダァンッ
大きな音がキッズルームの中に響く。
「はぁはぁはぁ……。」「はぁはぁはぁ……。」
2人の荒い息づかいが聞こえる。
勝ったのはユウト。
投げ飛ばされた姿勢でアンカが居た。
「「「おおおおおお!!!」」」
歓声があがった後、ゆっくりとアンカは立ち上がっている。
ヤジ組はヤジ組で盛り上がって話している中、ユウトがアンカに言う。
「はぁはぁ…………。こんな苦戦したの……。初めてですよ。」
「…………………………凄いな。…………ほんと、驚かされることばっかりだ……。」アンカ
「………………?」ユウト
「…………ユウトさん。」アンカ
アンカがユウトの目を見て言う。
「勝ち逃げにしときますか?」
「…………………………結構負けず嫌い。……ですね。」ユウト
ヤジ組に相談なく、暫くたってからユウトとアンカの二戦目が始まった。
始まったら始まったでヤジ組は全力で応援する。
暫くして。
ダァンッ
今度はユウトがアンカに投げ飛ばされていた。
それに対してもヤジ組の歓声があがる。
「はぁはぁはぁ……。」「はぁはぁはぁ……。」
今度はユウトがゆっくりと立ち上がる。
アンカがユウトに声をかけた。
「…………どうします?」
それにユウトが素直に答える。
「……………………引き分け逃げにしときます。」
「ははっ。」アンカ
それで2人の組み手は終わったらしく、引き分けという結果に「もう一戦やろう。」なんかのヤジが飛んだが、それらはユウトが軽くいなして、今度はみんなでお菓子を食べたり、ジュースを飲んだりする流れになった。
皆んなそれぞれ、好き好きに喋っている中、ケイトがアンカに寄って声をかける。
「アンカさん!」ケイト
「…………はい。」アンカ
「あ、あの!イーネさんって!普段はどんな感じなんですか?!」ケイト
「…………どんな感じ?」アンカ
「あの!俺!イーネさんに憧れてて!」ケイト
「…………………………………………憧れ?」アンカ
「…ケイト!!てめぇ!何勝手なこと…………!」イーネ
ケイトが話しかけているのをイーネが止めようとしていた。
それを察知したユウトが瞬く間に、イーネを後ろからはがいじめにして静止させている。
ケイトはケイトで、「え?!今名前よんで……?!」と驚いていた。
イーネがユウトに言う。
「てめぇ……!何してんだよ……!」
「え。だってケイト君に話してもらった方が面白いじゃん。」ユウト
「イーネ。今、"ドブネズミ"って呼んだらアンカから面倒くさいこと言われると思って、"ケイト"って名前呼んだんだよ。」ナユタ
「ナユタてめぇ!余計なこと喋ってんじゃねぇ!!」イーネ
「ほぇええ!イーネ。意外と兄ちゃん姉ちゃんに逆らえないのな!」アエツ
「………………っ……!」イーネ
――。
「あ。」ユウト
イーネが能力を使ってユウトのはがいじめから抜けている。
イーネが言う。
「能力つかえるっつっただろーが。」
すると、そんなイーネにジリジリと、ユウトとアエツとトラヴィスが迫る。
「腕相撲大会前に鬼ごっこで肩慣らしだなぁ!」アエツ
「へっへっへー!ケイト君の邪魔はさせないぜぇ。」トラヴィス
「あ。キッズルームの外に出たら負けだからね。イーネ。」ユウト
「勝手なルールつくんな。それに、ほぼ一般人のお前ら3人で捕まる訳ねぇだろうが。」イーネ
パキッパキッパキッ
すると、イーネの足元に霜が降りたような現象が見られる。
「あら。じゃあ、協力しようかしら。」リン
アルバラを抱いた状態で座っているリンの周りに、キラキラと光る薄い氷が浮かんでいた。
「……………………は?」イーネ
「かかれぇぇえ!!!!」トラヴィス
リンのサポートのもと、イーネを追いかけ回すユウト、アエツ、トラヴィス。
ケイトはアンカに、イーネについてや、他の仲間達について熱く語っている。
リンはベリーの横に座って居てゆっくりしている。
マリはナユタとニコと話していた。
「賑やかですね。」マリ
「おおおおおお怒られない??」ナユタ
『もお通常業務終わってる時間だから大丈夫じゃない?』ニコ
「いやいやいや。でもぉぉおおお。さ、騒がしくしないでよぉおおおお。」ナユタ
丁度そんな事を話している最中だった。
ガラガラガラッ
キッズルームの扉。だけでなく、廊下側の窓も含めて全て、外側から開け放たれた。
突然のことに、キッズルームの中にいる全員が静止する。
(何……。これ……。)マリ
廊下には大量の人。
全員がこちらの様子を伺っているようだった。
「マリ!」
その人だかりの中から、ポッツォが顔を覗かせる。
「ポッツォさん!」
マリがポッツォに近づくと、人だかりから「おい。マリ・リルベラだ。」なんて声が聞こえる。
マリがポッツォに声をかける。
「ポッツォさん。これ……。どーしたんですか。」
「歓迎会に呼んでくれたじゃなーい♡」ポッツォ
「そうですが……。」マリ
「それでね。その事を皆んなに話したら。……きちゃった♡」
ポッツォが可愛らしい笑顔で続ける。
「それにほら。今、みんな暇してるでしょ?貴方達ってぇ、会社の中で、すぅっっっっごい有名人なのよ?みんな、一目見たいって♡」
よく聞くと、人だかりの中からボソボソと声が聞こえる。
「イーネ・フィズニアを見てみたいんだよ!」
「タカトさん、人間にもどったんだろ?」
「初任務でジャンク3体討伐したルーキーがいるらしい。」
「喋るジャンクを飼ってるらしいぞ。」
「アエツさんいるのか?」
何て声が次々に聞こえる。
マリがポッツォに言う。
「社内の核師って私達含めてですけど、40人くらい居ますよね?…………。もしかして、全員……。」
「そう♡全団員♡」ポッツォ
「こらぁぁああああああ!!!!お前ら何やってるぅぅうううう!!!!使用許可に乗ってないだろぉぉおおおおおお!!!」
遠くから向かってくるジーベルの声が響いた。
それを聞いて、キッズルームの外の人だがりは「やべ!ジーベルだ!」「捕まったらしつこいぞ!」なんて言いながら散り散りになっていく。
人のいなくなった窓際にジーベルが来る。
「お前ら!静かにやれ!!通常業務の時間外とはいえ、残って作業する研究員もいるんだぞ!!!!…………ポッツォ・グラニア!お前は……………………。使用許可証に名前乗ってるな……。いいから!!面倒事を起こすな!!分かったかぁあああ!!!!!」
そう言ってジーベルは、逃げた核師達を追いかけて去っていった。
ポッツォが言う。
「……っでね?!私はあの炎の人の正体を見たいのよ♡!!いるんでしょぉおお?!!」
「……。あ。ちょっと。」マリ
「あら……。なに!イケメン!」ポッツォ
マリが説明する間もなく、ポッツォはマリから離れてアンカの側にすり寄って声をかけている。
「はじめましてぇ♡ポッツォ・グラニアといいますぅ♡私、これでも組織種序列1位でしてぇ♡」
そこに他のメンバーが水をさす。
「えええ!腕相撲大会にポッツォいるのかよぉ!負けんじゃぁーーーん!」トラヴィス
「ポッツォさん。ジャンク亜種が出現してから序列の集計の仕直しまだですよね?」ユウト
「ポッツォぉお!まだ未成年だぞー!その子ー!」アエツ
「ポッツォ・グラニアさん?!す、凄い……!」ケイト
それにポッツォが言葉を返す。
「もぉなによ!!今イケメンと喋ってんだから!……って。あら。腕相撲大会なんてするの?面白いじゃない。やりましょうよ♡」
なんて、今度はどんどん腕相撲大会の流れに変わって行く。
「…………っふふ。ははっ。あはあはははっ。」
声に出して笑っていたのはアンカだった。
みんなの視線がアンカに移る。
「アンカぁ!どしたぁ?!」トラヴィス
「いやぁ……。ちょっと。……ふふ。ははははははっ。」
アンカは愉快そうに笑う。
それを見て、周りのメンバーは不思議そうに視線を向けるが。
アンカのきょうだい達だけは。
それぞれが何かを秘めながら、その様子を眺めていた。
束の間の休息が過ぎて行く。




