20-① 束の間の休息
タトラスがオープンキッチンのカウンターに腰掛けていた。
オープンキッチンの中ではライナックスが作業をしている。
ライナックスがタトラスに声をかける。
「昨日はミョリちゃんとお楽しみだったんでしょ?」
それに対してタトラスは真剣な眼差しで答える。
「かぁちゃん。…………やっぱり。………………若い女の子は……イイ!」
「きも。あと、かぁちゃん呼ぶな。」
「軍仕込みで鍛えられて引き締まったボディに焼けた肌!なにより!若い子はお肌スベスベ!!!」
「きも。」
「はぁ。おじいちゃん。久々にはっするしちゃった。」
「あんた、一回寝た子に興味ないでしょうけど、あの子の能力に頼ってんでしょ?暫くは彼女扱いで大事にしなさいよ。」
「へーへー。分かってますぅ。それに俺も、昔ほど酷くないから。」
タトラスは昼間から酒を飲んでいる様で、ウイスキーのロックのグラスをカラカラと回した。
「でも。核師も凄いよねぇ。馬鹿にならないっていうかさ。…………今まで、俺らは強くて、何でも出来る気でいたのに。……痒いと所に手が届く能力を持っていたのは、俺らの誰かじゃなくて、まさかの核師だった。」
「私達は神でもなければ万能でもないわよ。ただ、今までなら、持ち合わせていたもので困らなかっただけ。……そーいえば、…………えーっと。ミョリちゃんの能力って確か……。」
「"女王蜘蛛"。体から蜘蛛の糸を生成できる。……でさ。それも凄いエロかったんだけど。」
「きっしょ。」
「凄いよね。目視で確認できない程に細くしなやかで強固な糸を生成できる。罠を張るのにうってつけ。」
「長く伸ばせないんでしょ?確かに断ち切りにくいけど、皮膚も傷つかないほど柔らかくて、武器にはならないし。」
「"切れない"に特化だからね。」
「本当に切れないの?」
「まぁ、無理だろうね。…しかも、万が一に切れたとして。それがミョリちゃんの許可無しに切れた場合は、糸同士が引き寄せあって修復され、また一本の糸に戻るんだと。まるで糸が意志を持ったかのように。」
「…私達が言うもんじゃないかも知れないけれど。不思議な力ね…。結局、長く伸ばせない分の欠点はどーやって補ってるわけ?」
「ある一点から、ミョリちゃんが特殊な編み方をすれば長く伸ばせるだと。…編んだといっても、それすら目に見えないほど細くできる。ただ、時間がかかるし、編み始めた開始地点を動かせない。糸を回収したり、伸ばしたりはミョリちゃんの自由だけど、使う場所は限定されるよね。……やっぱり軍では、即席のトラップを作ったり、捕虜の確保がメインだったみたい。」
「でも、今回はその能力が丁度よかった……ってわけ。」
「丁度いいかは別だけどねぇ。本音を言えば、もっと急かせる能力が良かったんだろうけど。そーゆーのをアンカって子に仕掛けるのには、難易度が高すぎたんでしょ?知らないけど。…………ミョリちゃんの能力は、確かに逃げられはしないだろうけど、何せ、すんごい距離の場所から繋いでるから"あそび"がこれでもかってほどあるしね。向こうは自由にできるから、準備整え放題ー。」
「それじゃ、糸なんかほっといて、そのまま一生暮らす。もできる訳?」
「いやいやいや。誰が首輪繋がれたままを良しとするんだよ。後それと、こっちから糸引こうと思ったら出来るんだから、ほっときはしないっしょ。」
「ふーん。よく分かんないけど……。まぁ、よーするに、糸を辿って向こうが来るの待ちってこと?」
「そーゆーこと。それに……。」
タトラスとライナックスの話しに割って入って行くかのように、黒い肌の男性が近づく。
黒髪のコーンローをオールバックにして一つに束ねた男性は、タトラスの横の席に座りながら言った。
「タトさん。今、僕の悪口言おうとしてました?」
「悪口じゃねぇーよー。アンカって子に仕掛けられただけで十分だって。マシロも言ってたじゃねぇか。」
「ほんとはリンって子にも仕掛けたかったのに、僕がヘマしたせいで、向こうに自由に動かせる駒を作ったから、まだまだ暫くかかるだろ。って言うんでしょ?」
「ひがいもーそーだ。」
コーンローの男に冷たいお茶をだしながら、ライナックスが言う。
「ボルドー。……怪我は大丈夫なの?……」
「大丈夫だよ。かあさん。」
「大丈夫じゃねーだろ。骨見えてたぞ?俺が治してやるっつってんのに。」タトラス
「治したお礼に女の子せびってくるでしょ?」ボルドー
「人聞きわるー!紹介してね。って言うだけだろ?しかもそれも、軽い挨拶みたいなものだってーの。」タトラス
「そうよ。……タトに治してもらったら?」ライナックス
ライナックスの言葉に、ボルドーと呼ばれた男性は少し考える素振りを見せて答える。
「うーん。……じゃ、後でね。」
「後でって、俺にも予定があるんだからなぁ……?!」タトラス
タトラスの言葉は気にする様子無く、ボルドーが話しだす。
「そもそも。どこが、可愛くて優しい子。何ですか?あのマリって人。骨見えるほどの肉持ってかれて、ムシャムシャ食べてましたよ?……獣かと思いました。」
「俺には優しくていい子なんですぅ。」タトラス
「それに。喰われた後、僕の幻覚から1人、完全に離脱してました。"能力のコピー"の中に、"能力の分析"が含まれていて、"直感的に扱えるように昇華"してる。……聞いてた以上にヤバい能力じゃないですか。あれ。」
ボルドーの言葉を、タトラスとライナックスは黙って聞いていた。
ボルドーが続ける。
「ワンチャン。僕らの力もコピー出来ない仕様だったらいいな。と思いましたけど。そうじゃないみたいですし。……"僕ら程度の力"はコピー出来ちゃうんですよ。」
「…………。」
「もし、コピーした能力を、複数同時に扱えるとしたら……。考えたく無いですね。……何て女、狙ってるんですか。」
それに対して、タトラスは悪戯っぽく答える。
「でも、顔は可愛いかったろ?」タトラス
「僕はもう少し可愛らしい感じの人がタイプです。」ボルドー
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「っで、最強さんは僕が勝ったら何してくれるんですか?」ユウト
「アイスだー!アイスー!!」トラヴィス
「いんや!やっぱり尻文字にしよーぜ!!!」アエツ
「最強…………って。他人と比べたことは無いですよ。きょうだいには負けた事が無いってだけです。」アンカ
「いけぇ!ユウト!!ぶっとばせぇ!!!」トラヴィス
「アンカさーん!頑張って下さーい!」マリ
「じゃあ、僕が勝ったら、イーネに、僕に跪いてるポーズで写真撮らせろって言って下さい。」ユウト
「わぁ。ぶんなぐられる。」アンカ
「ちょちょちょ、ほ、ほんとやるのぉ?!!後で怒られないぃぃ?!」ナユタ
『ユウトいけ!頑張れ!』ニコ
「きょうだいには、負けたことないんでしょ?」ユウト
「ははっ。適当な人だって聞いたのになぁ。」アンカ
ユウトとアンカが、キッズルームの中で向かい合って構える。
ドッ
お互いが一気に距離を詰め、素手の状態での激しい組み手が始まった。




