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19-⑤ 招待状

 少し離れた所からヘリが向かってくる音が聞こえる。


 少しずつヘリの全容が見えて来たが、どう見ても沢山の人は乗れなさそうな小型のヘリ。

 

 バババババババッ

 

 ヘリポートに着陸し、暫くしてから完全にエンジンが停止する。


 中から1人の女性が降りてくる。

 

(あ……。ハナさん!)

 

 ベージュのスーツを着た、タイヨウの秘書であるユウビ・ファイブ・ハナだった。


 抹茶色の髪に抹茶色の瞳。赤いフレームのメガネ。高い位置で結んでいるポニーテールは、毛先がぴょんぴょんと跳ね上がっている。


 そして、その後から、1人の青年が降りてくる。


 緋色の髪に緋色の瞳。黒の団服は、少しゆとりのあるシャツに細身のズボンという、オシャレだが何の機能性も持たなそうな仕様。

 

(……………………アンカさん。…………さん?え。年下よね?そーいえば、何て呼んだらいいんだろう。)

 

 ハナとアンカがこちらに歩いてくる。


 ハナがジェネレル大佐へ言葉をかけた。

 

「大変お待たせ致しました。また、本日、タイヨウは別件で席を外せず、秘書である私が代理を仰せつかっております。ご無礼をお許し下さい。」

 

 それにジェネレルが言葉を返す。

 

「いえ。とんでもない。こちらこそ、緊急に対応頂き感謝致します。…………ほんとうに。1人で……。」

 

 そのやり取りは気にしていないのか、アンカは少し離れた所に居たイーネに近寄っている。


 アンカがイーネに声をかける。

 

「お前、だいぶ無理したらしいな。」

 

「…………………………うるせぇ。………………ルアは?」

 

「この1ヶ月かけて説得してマザーの所だよ。それが聞きたかったのと、俺のこと心配して来たのか?」

 

「…………ちげぇよ。……ろくに分かってねぇテメェに、好き勝手にされたくないんだよ。」

 

 それぞれが、それぞれのやり取りをしている最中に、水を差すようにジョー・ベガスの声が響いた。

 

「……………………ジェネレル大佐ぁぁあああ…………。まさか……。このヒョロガキ1人が援軍第二陣だとでも言うんですかねぇええええ。………………タイヨウカンパニーは、俺らバレンシアを苔にする気ですかぁぁぁあああ。」

 

 全員がジョー・ベガスに向き直る。


 ジョー・ベガスが続ける。

 

「……おい。クソガキ。このジャンクの鳴き声が聞こえねぇのかぁ?あぁ?!……あの防護壁の黒い筋が見えねぇのかぁ?!……俺らがどんな思いでジャンクを削ったと思ってやがる………………!ジャンクは数を増やしてやがる!内側の防護壁が破られるのも時間の問題だ!!!!この援軍によって、事態が終息するこを目標に動いていた俺らを…………馬鹿にしてやがんのかぁぁああ?!!!!軍を舐めんのも大概にしろ!!俺らはガキの寝ションベン拭いてやるほど、暇じゃねぇぇえええんだよ!!!!!」

 

 ジョー・ベガスの言葉に、イーネが「こいつっ……。」と、怒りを込めて言葉を返そうとした時だった。


 イーネの背後からアンカが抱きつくように絡む。

 

「どーどーどー。」アンカ

 

「……あぁ?!」イーネ

 

 次に言葉を発したのはジェネレル大佐だった。

 

「ジョー・ベガス。上官の許可無しでの発言。盟約関係にあるタイヨウカンパニーへの態度。看過できんな。」

 

「…………ですが!大佐!!」ジョー・ベガス

 

「……………………。」ジェネレル

 

 ジェネレル大佐の毅然とした態度にジョー・ベガスは黙り込んだ。


 ジョー・ベガスにだけに向けられている威圧感にも関わらず、それが周囲に漏れ出て緊迫した空気になる。

 

(さ……。さすが大佐…………。)マリ

 

 ジェネレル大佐はアンカに言葉をかける。

 

「申し訳ない。私がかわりに詫びよう。」

 

 それにアンカが答える。

 

「いえ。ジョー・ベガスさんの言う通りだと思いますよ。」

 

 アンカが続ける。

 

「実は俺、核師になって1ヶ月たってなくて。これが初任務なんですよね。そんな奴が来たら不安ですよね。」

 

 アンカがさらりと言った言葉に、ジェネレル大佐もほんの僅かに顔を強張らす。ジョー・ベガスに至っては「なっ?!」と思わず声を漏らして驚いていた。そしてケイトも「ええ?!こ、後輩…………?!」なんて言いながら驚いている。

 

 アンカはイーネに絡んでいた腕を下げると、全員に背を向け、1人、ヘリポートの端に歩いて行った。


 ケイトはたまらず、イーネの側に寄って行ってコソコソと質問している。

 

「い、イーネさん。あ。え、あの人……。お、俺より歴短いし……。そ、それに、多分ですけど、お、俺より年下…………で、ですよね?!い、いくつなんですか?!」

 

「あぁ?…………アンカか?…………19くらいだったんじゃねぇの。」

 

「じゅじゅじゅじゅじゅ、19?!…………ま、まじで1人でどーにかしちゃうんですか?!」

 

「………………。」

 

 ケイトの言葉にイーネが返す。


 それは、何の感情もこもっていない。乾いた表情と声色で。


「………………見とけよドブネズミ。…………テメェが言うヒーローだの憧れだの。…………かっこいいの代名詞には、あーゆー奴がなるんだよ。……かっこいいヒーローになりたきゃ、あいつを目指して、あいつについていけ。」

 

 アンカはヘリポートの縁からジャンクの様子を伺っているようだった。

 

 [グギャギャギャギャ][グギャギャギャギャ][グギャギャギャギャ][グギャギャギャギャ]

 

 ジャンクの声がここまで響いてくる。


 アンカはジェネレルの方に視線をやって、声が届くように少し大きな声を出す。

 

「あそこに誰も居ませんよね?」

 

「あ……。ああ。部隊は一度、全員引き上げている。」

 

 それを聞いて、アンカがジャンクの方向に向き直る。

 

「………………くんぞ。」イーネ

「…………え?」ケイト

 

炎地(フレア)。」アンカ

 

 ボウッ

 

 時間が変わって夕暮れ時になり、夕焼け空が広がったのかと錯覚した。


 バレンシア軍、本部の周囲を円状にジャンクが押し寄せていた。その部分が真っ赤に燃えている。


 つまりは、この広大なバレンシア軍の周囲を取り囲むように、空の色も変えてしまうような火が燃え上がっていた。

 

「はい。お終い。」

 

 そう言ったのはイーネだった。

 

 誰もまだ、その光景を信じることが出来ずに呆然と眺めている。


 暫くしてから言葉を発したのはジェネレル大佐だった。

 

「ほ、本当に……。これで……。終わりか……?」

 

 それは現状を確認するような呟きだった。


 バレンシア軍は、ジャンクが地上から出現しだした時から長期的に戦って来たのだろう。これまで手をこまねいた相手が、こんなにも呆気なく終わることに、驚きを隠せないようだった。


 イーネがアンカの近くに寄って、言葉をかけている。

 

「どーせ。お前。火見てんだろ?」

 

「まぁ。燃やし尽くすまでは一応ね。」アンカ

 

「俺ら先に戻んぞ?…………何の動きも無かったしな。」イーネ

 

「誰か気にかけてたのか?」アンカ

 

「…………まぁな。」イーネ

 

 アンカとイーネのやり取りとは別で、マリ達の居る場所ではジョー・ベガスが絵に描いたように口を開けてその光景に驚いていた。


 その横ではユウトが興味なさそうに欠伸をしている。


 ケイトも、ジョー・ベガスとユウトの居る場所に足取り重く戻って来て、肩を落としているようだった。


 その近くに、ウー・ミョリも佇んでいる。

 

 マリは呆然とするリー・タンに近づいて声をかけた。

 

「多分これで終わったので、戻ってもらっていいと思いますよ。」

 

 リー・タンが、マリに視線をやって言葉を返す。

 

「す……………………凄いですね…………。こんなにも。呆気なく終わるとは……。思っていなかったです。」

 

「短い間ですが、お世話になりました。」

 

 マリはリー・タンに片手を差し出して握手を求める。


 リー・タンもそれに気づいて、2人は握手を交わした。


 リー・タンが言う。

 

「いえ。お世話になっているのはこちらです。ジョーの……。仲間の発言もお詫びさせて下さい。…………そして、今後も宜しくお願いします。」

 

「…………………………。」

 

 マリが握手をしたままリー・タンに言う。

 

「リーさん………………。怪我。…………してないですよね?」

 

「………………………………はい?」

 

「…………血の匂いがしないんですよね。やっぱり。貴方から。」


 ――――――――

 <アンカ、イーネ>

 

「で。この手首に巻きついた"蜘蛛の糸"みたいなのは、誰の能力なの?」アンカ

 

「……………………は?」イーネ

 

 アンカは何も無い左手を気にするようにして言った。

 

「ちなみにイーネとマリさんにもついてるよ。」アンカ

 

「…………おい。それ。いつだ。」イーネ

 

「俺のはヘリから降りた瞬間に。罠だった?何の為だろーって思って。」アンカ

 

 アンカは何でも無いように言い、イーネの表情だけがみるみるうちに強張っていく。


 イーネが大きな声をあげる。

 

「…………先言え!!ばか!!」イーネ

 

「…………ばか……。」アンカ

 

 イーネが叫ぶ。

 

「ユウト!!!女!!!!!!!」

 

「…………やっぱり。」マリ

 

 ガブリッ ダッ

 

 マリは握手を交わしたままリー・タンの首筋に噛みついた。


 イーネの叫びと共に、ユウトはウー・ミョリとの距離を一気に詰めながら拳銃を取り出し、ウー・ミョリの下腿を狙って今にも発砲する所だ。

 

「…………!リー?!……どうなってる!!」ジョー・ベガス

 

 リー・タンにマリが噛みついた事で首筋から血飛沫が上がっている。それを見たジョー・ベガスが咄嗟に動こうとしたのを遮るようにケイトが前に出る。

 

「動かないで下さいっすよ!」ケイト

 

「…………?!何なんだ!!」ジョー・ベガス

 

「アンカ!ハナと大佐頼むぞ!」イーネ

 

「………………おー。」アンカ

 

 ブチッ

 

 マリはそのままリー・タンの首筋から肩にかけてを噛み切った。


 それに合わせてリー・タンは傷を押さえながらバックステップでマリと距離をとる。

 

(…………?!動けない?!)ユウト

 

 ミョリの目前まで来ていたユウトの動きが完全に止まっていた。

 

「……ま、間に合った…………!」

 

 それはとても可愛らしい。ミョリの声だった。

 

(話せるのか。聞こえてるんだな。)ユウト

 

「そんな姿してたんですね。」マリ

 

 そう言ったのはマリで。周囲からはリー・タンに見えていた人物は、マリにだけは全く別人に見えていた。


 褐色の肌に黒のコーンローをオールバックで後ろに1つに束ねた若い男性。高身長に丹精な顔つき。茶色い皮のコートを羽織っている。

 

(顔つきだけじゃなくて、服装まで全く別物。……この味……。ナユタさんみたいな……。精神作用系の能力……。…………幻覚のようなものね。……もっと摂取できれば分かるんだけど。)

 

 マリの周囲に6つの弾丸が浮かび、逃げようと距離をとるリー・タンとウー・ミョリを狙う。

 

(何が優しくて可愛い子。ですか。タトラスさん。……………………獣の様な目してますよ。彼女)

 

 リー・タンだったはずの男が大きな声を出す。

 

「ミョリ!!!」

 

(狙うなら足。)マリ

 

 ドッ

 

 マリが放った6発の弾丸のうち、二発がリー・タンだった男性の足に。一発がウー・ミョリの足にあたる。

 

「おお。結構正確。」ユウト

 

 しかし着弾とほぼ同時にリー・タンとウー・ミョリの体が、見えない糸に引っ張られるように急激に加速して、あっという間にヘリポートの縁まで移動した。


 マリは放った弾丸を回収するように操作している。

 

(間に合わない……。)マリ

 

 リー・タンだった男とウー・ミョリが並んでコチラを見ていた。


 リー・タンだった男が言う。

 

「それは僕達からの招待状です!また会いましょう!」

 

 リー・タンだった男は、今度はマリだけを見て言った。

 

「タトさんが寂しがってました。あんまり、僕の家族を悲しませないで下さいね。」

 

 タンッ

 

 リー・タンだった男とウー・ミョリが一緒にヘリポートの縁から落下していった。


 2人が地面に叩きつけられるような音も何もなく、静かな時間が流れる。


 イーネがアンカに言う。

 

「………………追えるか?」

 

「いや。移動系の能力者がいるのかな?落ちたと程同時に消えたよ。」アンカ

 

「……………………ってかなぁ…………。」イーネ

 

「ん?」アンカ

 

 イーネはアンカの胸ぐらを掴んで言う。

 

「言えよ!!おかしいだろーが!事前に説明してねぇのに到着と同時に能力ふっかけられる訳ねぇだろーが!!!!」

 

「あー。わるい…。」アンカ

 

「わるいじゃねぇんだよ!!!自分の力にたか括ってんのかしらねぇけど!テメェの!そーゆー危機感ねぇ所が嫌いなんだよ!!!!!」イーネ

 

 そのやり取りで、緊張感のあった場の空気がいっきに解けたようだった。


 ユウトも、おそらく、ミョリの能力だと思われる拘束が解けて自由になっていた。


 ジェネレル大佐やジョー・ベガスは、まだ現状の理解が追いつかずに呆然としている。


 ユウトが言う。

 

「…………正直、結構やばいんじゃないの?また呪いでもかけられた?」

 

「どーなんでしょ。ウー・ミョリさんの能力を聞くしか無いですね。」マリ

 

「み、みなさんの動きが早すぎて……。」ケイト

 

「いやいや。ナイス判断。助かったよ。ケイトくん。」ユウト

 

「うん。いい動きしてたと思う。」マリ

 

「…………………………お、おれ。…………これから、このレベルについていけるのか不安っす……。」ケイト

 

 アンカが放ったジャンクを燃やす炎は、朝日が昇るまで燃え続け、太陽がのぼりきった頃に徐々に鎮火していき、最後はジャンクの欠片も残らない焼け野原が広がった。


 さらには、焼けて黒くなった地面からは赤い蓮の花のようなものが咲き誇り、花からでる火の粉のような輝きは、軍事基地から見る者達が釘付けになるほどに美しかった。


 アンカは言っていた。

 

「花が咲くのも込みでこの力なんです。鎮魂みたいなものですね。花が咲き終わるまでは近づかないように。」

 

 そして、アンカ、イーネ、マリ、ユウト、ケイト、ハナは、ジャンクの完全な討伐を確認後、タイヨウカンパニーに戻った。

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