19-④ 招待状
最初の来客用の部屋でサイレンの音を聞いてから、早くも3時間がたとうとしている。
マリは空中で静止しながら状況を分析していた。
(カラス型のジャンクはぐっと数が減った。…………今だけかもしれないけれど、新たに襲来しているものは見当たらない……。さっきから機関銃の音も聞こえないし、内側は……。今は少し、落ち着いたのかな。)
するとちょうど、軍の広場の様な所で、周囲に指示を出しているリー・タンを見つけ、マリはその近くに降り立つ。
マリがリー・タンに声をかける。
「リーさん。」
それに気づいたリー・タンが振り返る。
リーの腕や顔には傷口があり、出血していた。リーが言う。
「マリさん!本当にありがとうございます。内側の状況は一旦は終息したようですね。……皆んな、貴方の無双ぶりに、空いた口が塞がってなかったですよ。」
リー・タンはほっとしてるのか、少し笑顔みせて冗談混じりに言う。
「いえ……。大したことは……。外側の状況はどうですか?」
「全てを狩れている訳ではないですが、大きく数を減らすことに成功しました。現時点では、内側の防護壁II型で進行を食い止めることが出来ています。」
「…………よかった。」
「今ちょうど、外周に出た部隊がここに戻ってくる所ですよ。」
リー・タンがそう言ったとおりに、遠くの方から迷彩柄の大きな装甲車が走ってきて、数台横並びになって止まった。
(ユウトさん……。ケイトくん……。)
装甲車から次々に人が降りて行く。
その様子を、ユウトとケイトの姿を探しながら心配そうに見守るマリの耳に、聞き覚えのある大声が届く。
「がははははは!!すげーだろぅがぁ!俺、今日はコイツらの担当なんだよ!!えぇ?!コイツらの手柄は俺の手柄みてぇなもんだろうがぁ!なぁ?!ユウト!!がはははははは!!!」
「そーですねぇ。」ユウト
どれかの装甲車から降りたのであろうユウトが、なぜかジョー・ベガスに肩を組まれた状態でこちらに歩いてくる。
ユウトの体はジャンクの血液にまみれてドロドロだが、ジョー・ベガスは、それを全く気にしていない。
そして、その後ろから、それほど汚れていないケイトがトボトボと自信なさそうに歩いてくる。
そんな3人にリー・タンとマリが声をかける。
「ジョー!何やってるんだ!」
「ユウトさん!ケイト君!」
その言葉で3人はこちらに寄ってくる。
最初に話したのジョー・ベガスだった。
「おお!リー!!聞けよ!!この地味な小僧すげぇぞ!!討伐数はぶっちぎり一位だろうな!俺が見ただけでも百は討伐してやがる!感覚種だぞ?!こいつ!すげーだろ!!」
(…………凄い。会った時と比べて、綺麗なまでの手のひら返しだ。)マリ
ジョーの言葉にリー・タンは困った顔をして返す。
「そ、そう。でも、その……。…………凄い……困ってそうですから、離してあげた方が……。」
「あぁ?!なに言ってんだよ!!俺ら同盟関係だぜ?!それに俺らは来客担当だろぉが!!マブダチみてぇなもんだ!!なぁ!ユウト!!」
「そーだねぇ。」
ユウトは心底どうでもよさそうに、面倒くさそうな表情をして答えていた。
マリも面倒くさく思って、それには触れずに、後ろに居るケイトに声をかける。
「ケイト君。大丈夫?無事?!怪我は?」
それにケイトは非常に悔しそうな顔をしてから答える。
「な、無いっす!………………大丈夫っす…………。お、俺……。」
「…………?」マリ
「…………さ、3体しか狩れませんでした!!…………ユ、ユウトさんの足元にも……。」
それに対して、マリは心の底からの言葉をかける。
「初任務で3体もなんて、凄いじゃない!」
「………………そ、そうっすか………………。みんな…………凄すぎて…………。自分が……。情けないっす……。」
そう言って肩を落としているケイトに、マリが優しく声をかける。
「気にしなくていいのに。生きて帰って来てくれるだけで十分よ。」
「…………………………う、うっす。」
すると、ジョーに肩を抱かれたままのユウトが言う。
「あれ?イーネは?」
「……………………あ。」マリ
――――――――――――
<救護室>
「イーネ。イーネ!」
ベッドに横になるイーネにマリが声をかけると、少し顔を顰めた後にイーネがゆっくりと目を開ける。
イーネが言う。
「……………………終わったかよ。」
「終わってないわよ。ちょっと落ち着いただけ。…………なんでそんな状態で任務に来たのよ。」
「…………うるせ。」
(…………子供みたい。………………いや。……そーいえば本当に子供だったんだ。)
なんて、マリが思ってた所にユウトが言う。
「あぁ。イーネ。15歳だもんね。そっかそっか。まだまだ子供かぁ。仕方ないねぇ。」
「…………………………あ?(怒)」
「じゅ、じゅじゅじゅ、じゅうごさいぃぃいい?!!」
それを聞いて、ケイトはのけ反るほど驚く。
イーネはゆっくりと上半身を持ち上げてベッドの端に腰掛けていた。
ケイトが言う。
「え?!まじ?!じゅ、じゅうご?!」
「ケイト君っていくつなの?」マリ
「………………に、26っす……。」ケイト
(憧れの人が15歳って。びっくりよね。)マリ
それにイーネは不満そうな顔をして言う。
「……………………だから何なんだよ。」イーネ
「ってか、何で年齢詐称してたの?」マリ
「さ、詐称?!」ケイト
「あれでしょ?核師になる為に、関連の大学に入る為にでしょ?」ユウト
「ああ。なるほど。…………イーネの頭なら、その年齢でも高卒とか大卒の資格取れそうなのに。」マリ
「めんどくさがって取って無かったんじゃない?で、すぐに大学に入ろうとしたら、年齢詐称するしか無かった。」ユウト
「…なるほど。やりそうですね。」マリ
「……………………………………お前ら……。黙れよ……。」イーネ
マリとユウトの考察は粗方はあっているのか、とくに訂正もせずにイーネが言う。
「…………今何時だ。」
「あ。えっと。もうすぐ深夜2時ね。」マリ
「…………じゃ。もお来るな。」イーネ
「え?…………援軍は4時でしょ?」マリ
それにイーネは視線も合わせず、当たり前のように言う。
「どーせはぇーから。……いつでも。あいつ。」イーネ
「………………あいつ?」マリ
その言葉にイーネは返さず、ウトウトとした表情のまま話しだす。
「……っで。この3-4時間の事話せよ。」
「話せって。特に何もないけど。」ユウト
「特に何も無いことは無いんじゃないですか?……。」マリ
「どっちでもいいんだよ。………………それ聞いてから、お前らに言いてぇことあっから。」イーネ
「「「………………?」」」
――――――――
そのまま救護室で1時間ほど過ごした後だった。
救護室のドアがノックされ、リー・タン、ジョー・ベガス、ウー・ミョリの3人が入ってくる。
リー・タンが言う。
「1時間早く、タイヨウカンパニーからの援軍が到着することになりました。今からヘリポートへ迎えにあがります。貴方達も一緒にどうぞ。」
それにマリが小さな声で「イーネの予想通り。」と言ったことは、リー達の耳には入っていないようだった。
リー達3人の後をついて部屋の外にでる。
向かう道中、ユウトがジョー・ベガスに向かって声をかける。
「ウー・ミョリさんはいつから耳が聞こえてないんですか?」
それにジョー・ベガスは素直に答える。
「ああ?産まれた時からだよ。」
「補聴器とかはしないんですか?」ユウト
「補聴器しても、ほとんど効果が無いんだとよ。」ジョー・ベガス
「じゃあ本当に、全く聞こえないんですね。」ユウト
その会話にリー・タンが割って入る。
「ジョー……。個人的な話しですよ……。ミョリに許可なく勝手に話すのは……。」
「ああん?!見て分かるから聞いて来たんだろーがコイツら。それにマブダチだっつってんだろ?!なぁ!ユウトぉ!!」
「そうだよねぇ。」
すると今度は、マリがリー・タンに言葉をかける。
「リーさんは、傷の方は大丈夫なんですか?」
リーの顔や腕には、簡易的な処置が施されていた。
リー・タンが答える。
「ああ。はい。大したものでは無かったので。」
そんな話しをしていると、いつのまにかヘリポートに繋がる扉の前まで来た。
援軍第二陣を乗せたヘリは、建物屋上のヘリポートに着陸するらしく、建物の屋上に出ると、軍事基地の内部が一望できた。
[グギャギャギャギャ]
そして、遠くの方からはジャンクの声。
目をこらせば内側の防護壁II型に進行を阻まれ、蠢くジャンクの様子が見て取れた。
(……あ。あれは。)マリ
マリは既にヘリポートに待機する1人の男に見覚えがあった。
190センチはある身長に黒い肌。軍服の上からでもわかる筋肉隆々の体。なんの勲章かは分からないが、服に沢山のバッチがついていて、偉い人だと見て分かる。
その人物に、リー・タン、ジョー・ベガス、ウー・ミョリの3人は、横一列に姿勢を正して敬礼する。
リー・タンが言う。
「ジェネレル大佐!皆様をお連れしました!」
ジェネレル大佐と呼ばれた人物がコチラを向いて言う。
「ご苦労。崩していいぞ。」
「「「はっ!」」」
(凄い。……軍って感じする。)マリ
すると、ジェネレル大佐はマリの方を見て言う。
「お久しぶりです。あの時はご迷惑をおかけしました。」
「あ……。いえ。…………そんな。」
そのマリの後ろでケイトがコソコソと「ま、マリさん!大佐と繋がりあるんですか?!やばすぎません?!」に対して、ユウトが「ねぇ。怖いよね。怒らせたらダメだよ?」に対して更にケイトが「ま、まじっすか……!き、気をつけます……!」なんて会話が聞こえてくる。
(………………ユウトさんの適当さがウザい、ナユタさんの気持ちが分かってきた。)
バババババババッ




