18-⑤ 主人公
<第八国天秤の国 "ゼッツ"に向かう途中の車内>
いつもの装甲車のような車に乗り、盟約関係にあるバランシア軍本部の軍事基地に向かっていた。
マリにとってはログス元帥に会いに行ったきり、2回目の訪問だった。
車は乾燥地帯に入っていった所で、周りの景色はどんどんと荒野に変わっていく。
ユウトが言う。
「イーネ。起きないね。」
マリの横にイーネ。イーネの対面にユウト、その横にケイトが座り、イーネとケイトの視線が合わないように配慮したつもりが、車に乗り込んで早々、ユウトのコートをイーネがぶん取ったかと思うと、コートを丸めて枕にして、そのまま横になって眠ってしまった。
隣に座るマリは、車の揺れでイーネが落ちないかが心配で、軽く手を添えている。
マリが答える。
「ほんとに。絶対体調、良くないですよね。ジーベルさんと口喧嘩して、殆ど無理やり任務に参加したんでしょうね。」
それを聞いて、ケイトが言う。
「それはその……。前回の任務での、後遺症……。みたいなものですか?」
「そうね。」マリ
ケイトも心配そうにイーネを見ている。根っこから良い子のようだ。
ユウトが言う。
「イーネが起きてからケイトくんの能力のことを聞こうかと思ってたけど、先に聞いておこうか。イーネなら、何かあっても初見で分析できるでしょ。」
「そうですね。」マリ
ユウトとマリの会話を聞いて、ケイトは思っていた。
(初見で分析……!なんてカッコいい響き……!!)
ケイトの思いは知らず、ユウトがケイトに向かって、「じゃあ、説明お願いしてもいい?」と言葉をかけて、ケイトが話しだす。
「あっ!はい!じゃあ……!お、俺の能力名はシンプル!"サイコキネシス"っす!組織種で、ほらここ!」
ケイトが髪の毛を掻き分けると、髪に隠れてしまうサイズの小さな角が2本、頭に生えている。
「ほんと、そのままの意味で、石とか……葉っぱとかは動かせます!…………それ以外は、ちょっとまだ操作できなくて…………。一応、出来るようになるだろうとは言われてるんですけど……。あとは、自分自身っすね!自分のことは浮かせたりできます!あと、パンチに能力を乗せれば、ドカーンッといきます!」
「…………。」ユウト
「……………………終わり?」マリ
「そっすね!」
説明は呆気なく終わり、十分に理解できるもので、質問することもない。
暫く微妙な空気が流れ、気まずくなったマリが言う。
「あ。……じゃあ、私の能力は……。」
「説明不要っすよ!他人の血液を摂取して、能力をコピーする能力ですよね!!血の女神!有名です!!」
「………………………………そう……。」
何故かケイトは眼を輝かせて前のめりで話していた。
(なんか……。こんな事……。前にもあったな…………。ポッツォさんの時だっけ……。)
マリがそんな事を思っていると、今度はユウトの能力について話題が変わり、何故かケイトが、ユウトに向かってユウトの事を説明している謎の状況がうまれている。それをユウトは面白そうに聞いていた。
(…………いい子なんだけど。大丈夫かな。ケイトくん。)
ガタンッ
走行中の車が激しく揺れた。
マリはとっさにイーネを支える手に力を入れる。
さらには、車はぐんぐんとスピードを上げているようだ。
運転席から事務員の焦る声が聞こえる。
「か、核師様!ジャンクです!後方!地中から現れたみたいで!今現在、大きな動きは見られませんがっ……!」
その言葉でユウトとケイトは車の窓から外の様子を見る。
マリはイーネの方を見ると、薄目を開けていて起きたようだった。
マリがイーネに声をかける。
「イーネ。ジャンクだって。」
「…………聞こえた。」
イーネがゆっくりと体を起こしながら言う。
「車止めろ。」
その言葉に事務員は「は、はい!」と返事をして車が停車し、カチャンと真後ろの開戸の鍵が解除される音がする。
ユウトが車の後方の扉を開ける。
そこには、数十メートル先に、クルクルと回るように動いている、ダンゴムシを長くしたような巨大な虫型のジャンク。
ユウトが言う。
「ジャンク亜種だね。イーネがロータスの谷で討伐したようなタイプのやつ。」
それにケイトが驚いて言う。
「ジャンク亜種!さ、最近通達された、ジャンクに似かよる別種ですよね!見ただけで分かるんですか……!す……。凄い……。」
(私達が上に報告してなかっただけだもんね……。)マリ
すると、イーネがゆっくりと立ち上がってヨロついた足取りでユウトの隣まで行く。
イーネがユウトに言う。
「……いけんのか?」
「うーん。外骨格がだいぶ硬いよね。普通のジャンクより嫌かも。まぁでも。1体だけだし。」
「あ!あの!!」
そんな相談をしているイーネとユウトの会話にケイトが割って入った。
イーネは嫌そうな顔をしながら、ユウトはキョトン顔でケイトの方を見る。
ケイトが言う。
「お、俺が行きます!!」
「………………。」
全員が沈黙する。
ケイトが続けて言う。
「お、俺は!このチームの前衛として配属されたんです!!俺が矛なんです!!…………俺に!やらせて下さい!!」
(確かに、今のメンバーで矛になれるのはケイトくんだけどけど……。)
マリが考えている最中、ユウトが言う。
「うん。いいんじゃない?」
「ほ、ほんとですか!」ケイト
「………………え?いいんですか?……また適当言ってます?」マリ
マリの言葉にユウトが返す。
「マリさんだって、こんなもんだったでしょ?いつまでも見学しててね。じゃ務まらないじゃない。それに、僕もサポートに付くし。」
「そ、そうですが……。」マリ
「ほらぁ。イーネも黙ってるし。ね?イーネ。」ユウト
「………………あ?なに俺を基準にしてんだよ。」イーネ
「え?だって、ここのリーダーでしょ?」ユウト
「ここのリーダー、マリになってんぞ。書面上はな。」イーネ
「は?え?!私?!」マリ
「うわぁ。ジーベルがやりそぉ。」ユウト
ユウトはニヤニヤと楽しそうに話しをしている。イーネは特に表情を変えていない。マリだけが疲れた顔をしていた。
[グギャギャギャギャ]
ジャンク亜種が大きな音を発した。
それを聞いたケイトの表情が強張る。
イーネがケイトに言う。
「おい。ドブネズミ。行ってこいや。良かったな。死体になっても拾ってくれる奴はいるぞ。」
「……………………………………うっす。」ケイト
[グギャギャギャギャ]
ケイトとユウトが勢いよく車の後方から飛び出した。
そのままジャンク亜種に向かって走る。
その様子をイーネとマリは車の中から見守った。
――――
<ケイト・ユウト>
(……能力発動!"サイコキネシス"!)
ジャンクに向かって走っている途中からケイトの体がふわりと宙に浮き、そのままジャンクに近寄っていく。
ジャンクの姿はもう目前。
ケイトが両手を真横に翳すと、荒野にある無数の石が宙に浮く。
(…………ロックバレット!!)
ドドドッ
宙に浮き上がった石がジャンクの体に命中する。
[グギャギャギャギャ]
だが、あまり効果はなく、ジャンクの注意をこちらに引き付けただけのようだった。
ジャンクの体がケイトとユウトに向く。
(そこそこ威力はあるけど、相手が悪いね。特に硬いからな。このタイプ。見て分かるけど。悪手かな。)ユウト
ドンッ
ジャンクが体を大きく持ち上げ、2人に向かってのしかかるような攻撃を繰り出し、2人は左右バラバラに回避する。
「ゆ、ユウトさん!!」ケイト
「こっちは大丈夫ー。自分のことだけ考えなぁ。」ユウト
そのやり取りを最後に、ユウトとは随分距離が空いてしまい、姿も見えなくなる。
(そ、そうだよな!……ユウトさんは感覚種といけど大ベテラン!…………俺は自分の最大限を出して、このジャンクを討伐するだけ!)
ケイトはジャンクに向き直り、更に上空の高い位置まで移動して、上からジャンクを見下ろす位置まで来る。
バンバンッ
ジャンクの近くではユウトが放つ発砲音が聞こえる。
ケイトは右の拳に意識を集中させていた。
そのまま、振りかぶり、真上から勢いよくジャンクに右の拳を振り下ろす。
「右!ストレートぉぉおおお!!」
「うわ。ださ。」ユウト
ドォンッ
真上からの攻撃に、ジャンクの体がVの字にへしゃげる。
そこそこの効果はあったようだ。
[グギャギャギャギャ]
だが、まだジャンクは機能を停止していない。
ジャンクは頭を左右に振って大きく暴れまわる。
その巨大な体は、ぶつかるだけでも相当な威力となる。
「おわわっ!」ケイト
ケイトは能力を使って空中を逃げ回るが、経験値の低さが出る。
避けきれずジャンクの体当たりを受けて大きくよろめく。が、腕をクロスにし、能力で守りを硬めて大事には至っていないようだ。
[グギャギャギャギャ]
ジャンクが更にも増して暴れ回る。
ユウトの発砲音、ケイトの、体を生かした攻撃音が響く。
――――
<イーネ・マリ>
車の中からケイト達の戦いを見守る。
マリが言う。
「ユウトさん。余裕そうね。」
「ケイトのこと様子見してんな。ジャンク亜種の方がイージーだからな。丁度いいだろ。」
戦いが始まってから暫くたった時だった。
突然イーネが「チッ。」と舌打ちする。マリが「どうしたの?」と聞くと、イーネは少し小さな声で答えている。
「あいつ…………。よりによって俺と同系統かよ……。」
「ケイト君のこと?……同系統?ってなに?」
「………………。」イーネ
(あ。わざと無視してる。)マリ
マリは早々に諦めをつけて戦いを身守る姿勢に戻った。
すると、また暫くしてイーネがマリに言う。
「ちなみにテメェは、アンカタイプ。」
「え?嘘でしょ?どこが?」
「………………。」イーネ
(答えないんだ。)マリ
「じゃあちなみに、ユウトさんは?」マリ
「………………さぁ?」イーネ
(あ。絶対また何か隠した。)マリ
2人のやり取りはそこで終わる。
戦いを見守りながらマリは思っていた。
(でも、前より……。色々話してくれてる気がする。)




