18-② 主人公
<タイヨウバイオカンパニー>
タイヨウバイオカンパニーがあるガルダには強い雨が降っていた。
ポッツォをリーダーとする部隊は、ポッツォを含めて5人編成。全身が雨に打たれながら、タイヨウカンパニーの中でも端に位置する、大型倉庫が連なる屋根の上に居た。
[ゴゴゴゴゴゴゴゴッ]
(まだ山手側からジャンクが来て良かったですわっ……!でも、これ以上の進行を許せば、会社は壊滅どころか、街も無茶苦茶に……!死人もでる……!ここで!ここで!食い止めないと………………!でも………………!)ポッツォ
巨大な鳥のような形をしたものが、上空で羽ばたきながらこちらに近づいていた。
全体的にゴミの様な色をし、蠢うごめく紐状の物を連らならせて体が出来ている。顔面がなく。大きな口が蛇腹のように3つ連なっていた。
(どれだけ攻撃しても、攻撃したそばから再生しますのよ……?!…………こんなの…………どうやって……!)ポッツォ
[グチュグチュグチュ]
化け物は3つの口を大きく開けた。
それぞれの口の中に紫色の球体が見え、球体から紫色の線が発射される。
(…………!またですわっ……!)ポッツォ
チュンッ ドンッ
3方向に伸びた紫の線は、大型倉庫に当たると、いとも簡単に倉庫の殆どを壊滅させた。
ポッツォ達は紫色の線を避けながら、爆発して飛ぶ無数の瓦礫からも逃げる。
(……一撃の威力が高い……!まともに受ければ死にますわ?!……敵の攻撃だけじゃなく、これから建物も巻き込まれていくなら……!………………建物が盾になるレベルじゃないですの……!むしろ、瓦礫に巻き込まれれば、それも死…………っ!)ポッツォ
すると、今度は化け物の体の至る所から、細長くしなる肉が何本も伸び、ポッツォ達を目掛けて伸びる。
ドォォォオオオオオンッ
それはさながら鞭のようで、倉庫をさらに粉砕しながらポッツォ達に振り下ろされる。
チームの中では、ポッツォが最も機動力がある。
そのポッツォが躱わしきれずに攻撃を受け、手足に擦り傷を作っていた。
傷口は、焼かれたかのように赤黒い。
(み、皆んな…………し、死なないで…………!)ポッツォ
ポッツォは他のメンバーの身を案じる気持ちと絶望感に泣き出しそうな顔をしていた。
必死に逃げている鞭の様な攻撃に、更に加えるように、化け物が再び大口を開け、3つの紫色をした球体が徐々に大きくなっていく。
(こ、こんなの……!誰も相手にできない…………!………………こんなの……!こんなの……!)ポッツォ
ポッツォの顔が恐怖に歪んだその時だった。
ボウッ
突然、化け物の目の前に炎の球体が現れたかと思うと、すぐに消えて無くなり、中から団服を来た核師2人が、空中に静止したままの状態で現れた。
見覚えのある団服。
見覚えのある背格好。
「火の華。」
ボッ
強い雨で薄暗かったはずが、辺り一帯が優しいオレンジ色で照らされる。
化け物とポッツォ達が居る場所との中間地点に、薄いガラス細工のような、赤色からオレンジ色をした、花や草の模様が沢山浮かんでいた。
キンッ
そのガラス細工の様な物に、敵の鞭の様な攻撃は弾かれ、化け物の体に向かって戻っていくようだった。更には
チュンッ
敵の口から放たれた紫色の攻撃も、そのガラス細工にあたって、まるでポッツォ達の元へ届かない。
(………………それに…………。何て綺麗ですの…………。)
それはまるで、満点の星空に勝るとも劣らない、輝きと美しさを持っていた。
ポッツォは棒立ちのまま、空中で静止する核師を観察する。
(雨のせいで、よく見えないですの……。でもあれは……。…………マリかしら。…………横に居るのは…………イーネ?…………ですの?…………フードを被ってて顔が見えませんわ……。でも、あの服装……。イーネのもの…。)
ポッツォ達のチームは、ただ呆然と、突然現れた2人を見ていた。
―――――
<マリ・アンカ>
(……うわ。雨。)
マリがそう思ったのも束の間、アンカが言う。
「火の華。」
周囲が淡いオレンジ色の光で照らされる。
(うわ。凄い…………。綺麗…………。って、目立ち過ぎじゃない?……)
チュンッ
風の流れを感じる。
見ると、目前にはあの肉の塊のような化け物。
「大丈夫ですか?」アンカ
「あっ。だ、大丈夫。…です。」マリ
マリを見ていたアンカは微笑んで化け物に向き直った。
マリは漂ってきたガラス細工のような花に触れる。
手に取ることができるような物ではないらしく、指の間を透けて通っていくが、触れた指先は温かさを感じていた。
アンカが言う。
「これ。さすがに目立たずにってのは無理かな。」
[グチュグチュグチュ]
敵が肉の鞭のようなものを振り下ろす。
だが、全てがこのガラス細工のような物に阻まれ、その振動だけがマリ達の元まで響いていた。
「さっき倒した奴は、見た時には随分不安定だったけど。あれはマリさんの仕業だったんですかね?」
アンカは少しイタズラっぽい表情をして言っていた。
マリは麒麟の血清の事を伝えそびれたと今気づき、でも、それをどう伝えたらいいのか分からず。ただ「そ、うです。」とだけ答え、続けて言う。
「……あの……。倒せるの……?こんな……化け物……。」
「イーネが頭下げて頼んだのに。出来ないじゃ格好つかないですよ。」
するとアンカは敵に向かって片手を差し出し、手を拳銃のようにして向けた。
(………………たまに……。イーネがやってた……。)
アンカが言う。
「獄車一輪。」
ボウッ
敵が炎に包まれる。
その炎の形は昔の船の舵のように、中央が丸く、蜘蛛の糸を張る様に四方にひろがっていた。
その熱気がマリ達の元まで届く。
「…………熱い……。」
マリが呟くように言うと、アンカが言う。
「すみません。さすがに熱く無くは出来なくて。でも、中の方が温度が高いんで、これでもマシな方で。ちょっとだけ、我慢して下さいね。」
「……………………勿論。」
(なんか。久しぶりにまともな人と喋ってるし、むしろ、こんなイケメンに優しくされて……。え。得した?)
[グチュグチュグ……]
化け物が肉片も残らず焼けていく。
強い雨にも関わらず、その炎が弱まることは無かった。
つまり。
――――――――――――――――
「…………………………一撃。か……。」
マシロはオープンキッチンのカウンターに腰掛けている。
右手の平には、回収したラスターの目玉が二つ並び、それを弄ぶようにコロコロと転がしていた。
マシロが半分独り言のように呟く。
「想像以上。舐めてはかかれないね。今、アンカ君1人、人手の無いタイヨウの所に居て、他はマーリアス。その子達も、殆どが戦闘不能。ここで追い討ちを掛けたかったんだけど……。このレベルじゃあ、持ってる駒ではダメだね。……試したい事はあるけど、時間がたりないなぁ。」
マシロが座る場所から、何席か空けた横にラランが座っていた。
ラランがマシロに言う。
「だったら私達が行けばいいじゃない。アンタと私。充分でしょ?」
その言葉にマシロはニヤニヤと笑いながら答えた。
「いーや。死ぬよ?ララン。」
「はぁ?マジでいってんの?」
「少なくとも、無策でいけば、無傷では済まない。最悪、殺せないまま、互いに重症で終わる。向こうにはベリーって子が居る。こっちにもタトがいるけれど、ちょっと不利かなぁ。」
「………………。嘘でしょ?」
「ほんと。」
「…………。」
ラランが黙り込む。
マシロが言葉を続ける。
「ま。一旦休戦かなぁ。仕方ないね。」
その言葉にラランは嫌そうな顔をして言った。
「冗談でしょ?!時間がかかるのはともかく、慄華も消されたんでしょ?!どーすんのよ!逃げられたら!」
それにマシロが、何でもないように答える。
「大丈夫だよ。ラスターは本当に、いい仕事をしてくれたんだから。」
「はぁ?何言ってんの?」
マシロが話しを続ける。
「ラスターは、彼ら、きょうだいの誰かを、どうしても核師に引き入れようとしてた。どうしてだと思う?」
「は?何でよ。」
「…………"大切な仲間"だよ。戦華は消えた。けれど、彼らは逃れられない。何故かって?彼らが逃げるなら、僕は彼らの"大切な仲間"を一人一人殺していくからさ。それはもう。残酷な方法で。そしたら最低でも、イーネとベリーは出てくるだろうね。つまりは、彼らきょうだい、皆んなでてくることになる。」
「………………。」
マシロは続ける。
「もっと言えば、テステオーレ。……タイヨウか。タイヨウとユキハルにも、彼らは強くは迫れないと思うよ。ログスの死が効いてるからね。」
「…………。どーゆーことよ。」
「タイヨウとユキハルに、立場を明確にさせることは簡単だろう。彼らには答えに辿り着く材料が揃ってる。タイヨウの目的は僕と同じ、僕らの"神"に行き着くことだ。僕ほど、強引な手段をとる予定は無かっただろうし、今でも僕の反対派には変わりないだろうけど、"神"に行き着ける可能性が高い、この策を手放すことは出来ないんだろう。でも、それを問い詰めて吐露させれば、タイヨウは"神"の禁忌に触れて命を落とす。それは出来ないんだ。彼らは。だってタイヨウは、ナユタ君やユウト君、他の核師にとって"大切な人"だから。」
「…………。」
マシロの話しに、納得はしたのか、ラランは思い出したかのように言う。
「そーいえば、マリって子に、ログスもタトラスも平然と"あの方"のこと喋ったそうじゃない。なのに、何でログスだけ死んでんのよ。」
「ああ。それは"意識"の問題だね。」
「…………意識……?」
「僕らに懸けられた契りは、個人の意識を基準にしてるんだ。タトラスはそれを分かってて、自分の能力も悪用しながら、ノラリクラリと立ち回ってるんだよ。反対に、ログスは真面目だからね。」
「…………意識……ね……。何て不確定な要素なのかしら……。あの人らしいわね……。」
ラランは独り言のように言った。
またマシロが話す。
「彼らは逃げる事ができず、自分達の根城に一抹の不安を抱えながらも、そこに身を置くしかないんだよ。」
マシロは右手の平の目玉をコロコロと弄っている。
ラランは席から立ち上がると、この場を離れようとしているのか、その前にマシロに質問する。
「あいつら、このアジトの事知ってるんでしょ?攻めにくるとかは?」
「無いかな。僕、ララン、ライナックス、タトラス、その他の仲間の存在、もしかしたら、ユキハルがこっち側につく可能性だって知ってる。後そもそも、あのきょうだいは好戦的では無ようだからね。戦力を考えると、すぐには来れないさ。タイヨウは攻めに行こうと準備を進めるだろうけど。残念。それよりも、こちらが動くのが先だよ。」
「マリって子のことは?いいの?ほっといて。色々気づいてるんでしょ?先に殺してもいいんじゃないの?」
それにマシロは余裕の笑みで答えた。
「マリさんも何も話せないさ。そーゆー子だと思うね。」
「はぁ?何で?…ってか、気持ち悪いこと言うわね。」
マシロは表情を変えず、ラランの質問にだけ答える。
「……マリさんが導き出している答えは、イーネ達が秘密にしたい事だと気づいているからだよ。ゆったろ?"大切な仲間"になったんだ。」




