18-① 主人公
アンカがトラヴィスの体に手を翳していて、トラヴィスの体は淡いオレンジ色の光に包まれていた。
ベリーがアエツの体に手を翳していて、アエツの体は淡い緑の色の光に包まれていた。
先に手を下ろしたのはアンカで、トラヴィスを包んでいた淡い光が消える。
ユウトがアンカに声をかけた。
「どう……ですか……。助かりますか……。」
それにアンカが優しく答える。
「一命は取り留めています。切り傷も酷いですが、命を脅かしていたのは火傷です。そっちは、俺の方で対処できるので。跡は残るでしょうけどね。体。拭いてあげて下さい。赤黒い物が見えてますけど、治療できてあるので。拭いてあげれば、見た目にはマシに見えますよ。タオル。持って来ますね。」
「……………………ありがとう。……本当に。」ユウト
そう言って立ち上がったアンカは、まずはベリーの方に近寄った。
アンカはベリーの横にいるリンに声をかける。
「どう?」
リンは相変わらず、口元を本で隠したまま答える。
「大丈夫よ。……少し、目が覚めるのに時間がかかるかもしれないけれど。」
それを聞いたアンカは、ベリーの頭に優しく手を置いた。
「俺が導を引いておくから。お前も休め。」
「…………うん。」
するとアンカは、アエツの額に中指を置いて言う。
「左にロウバイ 右にジンチョウゲ 灯と共に。」
ピリピリリリッ
「うわっ!」マリ
アンカが言い切ったタイミングで、マリのポケットの中で着信音がした。
マリが急いで取り出したのは、会社から支給される通信端末。
(…………タイヨウ……さん?)
マリが電話に出ると共に、タイヨウの声が聞こえる。
'お!やっとや!マリ?!マリやな?!'
その声色は焦っているようで落ち着きが無い。
マリが答える。
「タイヨウさん。どうしたんですか?」
'イーネもアエツもユウトも誰も連絡つかんのや!って、それはええとして!!そっち!マリが今居る場所に、そいつらいるか?!!'
「あ……。はい。居ます……。」
'良かった!!すぐに会社に戻れへんか?!イーネも一緒か?!悪いけどイーネの能力でどうにかっ……!![ゴゴゴゴゴゴゴゴッ]'
どこか聞き覚えのあるジャンクの咆哮のような音が、タイヨウの後ろの方で聞こえた気がきた。
その音に、マリは緊急の事態を察して、自分にだけタイヨウの声が届いていた状態から、スピーカーに切り替えて、ここにいる全員にタイヨウの声が届くように操作する。
タイヨウが言う。
'会社の上空や!いきなり!!アホみたいにでかい!!なんや!肉の塊みたいな化け物!!ジャンクか?!これは?!そんなんええ!!とりあえず!各地でのジャンク発生で、会社におったのはポッツォのチームだけやって!今!ポッツォ達が立ち向かってくれてるけどなぁ!!……………………正直厳しい……!周囲の避難も進めとるけど、こんなもん確実に死人が出る!!誰か!頼む!!こっちにこれへんか?!アエツはどうや?!!!'
タイヨウの切羽詰まった発言が響き、この場の空気が凍りついたようだった。
マリが言葉を返す。
「た…………タイヨウ……さん…………。こっちも……みんな……重症で………………。誰も………………。行けません…………。」
'……………………。'
電話越しでも、タイヨウが絶望感を抱いている様子が手に取るように分かった。
(肉の塊みたいなって……。さっきの巨大なジャンクだ……。……………………麒麟の血清のこと!…………。麒麟の血清じゃなくても、何かの血清を打ち込めば……もしかして…!)
「…………あのっ!……」
マリがタイヨウに話しかけようとした時だった。
イーネがソファから立ち上がって、ヨロヨロとこちらに向かってくる。
イーネがたどり着いたのはアエツの隣でしゃがんで居るアンカの隣だった。
「………………。」
イーネは黙ってアンカを見下ろしている。
アンカも何かを感じたのか、立ち上がってイーネを見る。
イーネが言う。
「……………………………………頼む…………。」
「あらっ。」リン
茶々を挟むように小さな声を漏らしていたのはリンだった。
それには気にもとめず、イーネは難しい表情をしたまま、アンカに向かってゆっくりと頭を下げた。
イーネの事を知る全員が驚いてその様子を見ている。
アンカがイーネの頭に手を置く。
その後にイーネが頭を上げ、アンカも手を下ろした。
アンカがイーネに言う。
「頼まれなくても。お前の仲間なんだろ。」
「………………。」
「ただ。核師でも何でも無い俺が行くのはどーするんだ?」
するとイーネは自分が来ていた団服を脱ぎ始める。
イーネの団服はパーカー型で、上のパーカーを脱ぐと下には白いTシャツを来ていたようだ。
脱いだパーカーを、イーネはアンカに差し出す。
「……下は黒だしいいだろ。」イーネ
「核師のフリかよ。いけんのか?」アンカ
「……知るか。」イーネ
そんなやり取りをしながら、アンカは素直に自分が来ていたパーカーを脱いで、イーネの黒のパーカーを身につけた。
イーネが着ていた時はダボついてゆとりがある感じだったが、アンカが着るとピッタリサイズといった所だ。
アンカが言う。
「あと、俺は会社って場所。知らないけど?どーすんだ?」
「俺が演算補正する。」イーネ
「それ以上"力"使うと、一月以上動けねぇぞ。」アンカ
「……いい…………。あと、マリ連れてけ。1番元気だしな。」イーネ
「わ、私?!」
突然名前を呼ばれてマリは困惑する。
それを気にも留められてないのか、アンカはパーカーを着終わると、マリの方に近づいて行った。
「じゃあ、ご指名ってことで。」アンカ
「え?!私?……い、…………いりますか?」マリ
その問いにはイーネが答える。
「敵がジャンクだけか分かんねぇだろ。アンカだけじゃ、敵と味方の区別もつかねぇよ。あとは、アンカって事がバレねぇように、適当にしといてくれ。」
「…………そんな権限。持ってないんだけど……。」
どこか身に覚えのあるやり取りだとマリは思った。
イーネはイタズラが成功した子供のような笑顔でマリに言う。
「イエスかはいの2択なんだよ。」
「………………わざとじゃない……。」マリ
マリとアンカが横にならぶ。
アンカはフードを深く被ってマリの方を向き、爽やかな笑顔を見せた。
(トラヴィスさんとはまた違った、光属性だ……。)マリ
アンカとイーネが同時に言葉を発する。
「貴に優る白檀の葉 貴に劣る栴檀の香 毫釐の差 雲泥の隔たり 愚かな理知に 薄氷の帯を掛けよ。」
「イーネが教えてくれるって ……………… 片翼を地に ………… 大丈夫 …………。」
マリとアンカの周囲が炎で包まれる。
アンカが言う。
「飛べ。」
アンカとマリの姿は炎に包まれ、その炎が消えると共に姿を消していた。
ユウトが言葉を発する。
「今の技で何度も移動した身だけど、こうやって客観的に見ると、魔法使いとしか思えないね。」
イーネは2人の姿を見届けててから、またヨロヨロとした足取りで元居たソファに戻っていくようだった。
歩きながらユウトの発言に言葉を返している。
「レベチなのはあいつだけだから。安心しろ……。」
すると、「うぅ……。」と呻き声のような微かな声が聞こえる。
「あら。頑丈な人ね。」
そう言ったのはリンで、アエツの方を見ていた。
「アエツさん……!」ユウト
「アエツっ!」ナユタ
それに反応して大きな声を上げたのはユウトとナユタだった。
イーネも一度足を止めてアエツの方をみる。
アエツは顔を何度か顰めて、目は開けないままだが、かすれた声で言葉を発した。
「…………イー……ネ……。敵は…………。強いぞ…………。」
「ははっ。聞いてたのかよ。起きた早々、他人の心配か?」イーネ
アエツはやっとの様子で言葉を続ける。
「………………敵……は……。個……じゃない…………。集団……だ……。削りきるしか…………方法は……ない……。」
「お前も戦ったのかよ。安心しろ。俺とトラヴィスも戦って、痛い目みてるよ。その上で言ってやる。」イーネ
イーネは少し笑顔を見せて言った。
「何の心配もいらねぇよ。言ったろ。レベチだって。……あいつが登場した時点で。物語は終わってんだよ。」
イーネはまたヨロヨロと歩きだしてソファに横になった。




