17-⑥ 可愛い子には旅をさせよ
<アエツ・ベリー・アルバラ>
ボウッ
炎が消えて、周囲の状況が見えるようになる。
少し離れた所にアルバラが丸まっている。
目の前には、横たわるアエツに向かって手を翳すベリーの姿。
ベリーの表情は、緊張した面持ちから、徐々に今にも泣き出しそうな表情に変わっていた。
ベリーが消え入りそうな声で叫ぶ。
「…………………………アンカっ…………!!」
「ベリーを最後にまわしたの、まずったな。」
アンカはそう言うと、すぐさまベリーの元へ駆け寄り、ベリーとアエツの様子を確認している。
ベリーが言う。
「…………もぅ、力が無い…………!治せてないの……!………………死んじゃ…………。」
ベリーが言い切る前に、アンカはベリーの頭に優しく手を置いた。
マリ、ユウト、ナユタも、少し遅れて状況を理解して、アエツのもとへ駆け寄る。
アンカが言う。
「頑張ったんだな。大丈夫。少し、お前の力借りるぞ。落ち着け。」
「………………う…………ん……。」
アンカが、アエツに手を翳しているベリーの手に、重ねるようにして手を置いた。
アンカとベリーが2人同時に言葉を発する。
「「滔々と 滔々と きのと ひのと の結ぶ華を 遍く 響け 対の理」」
傍目には何をしているのか全く分からない。
ただ、ベリーが翳す手に重ねるアンカの手は、ほんの僅かに動いていた。
「…………アエツさん。」
ユウトが思わず声を漏らす。
(………………あれ?…………ニコは?)
マリがそう思って見渡すと、トラヴィスの横に放置されたニコの姿があった。
(ユウトさんって、そーゆー所あるよね。)
すると、今度はナユタが何かに気づいてハッとした表情をする。
「…………アエツの……。思考の欠片だ……!…………戻ってきてる……!」
ナユタの言葉に全員の表情が緩んだ。
アンカが言う。
「取り敢えずは応急処置。ベリーもエネルギー切れ。他に治癒能力者がいるなら診て貰った方がいいし、居ないなら、すぐにでも医者に診てもらうべきだ。」
アンカの言葉にマリの中ではタトラスの顔が浮かんでいた。が、頼る訳にはいかない。
(…………弱い奴が、つべこべ言える資格は無い……。)
ガタガタガタガタッ
建物全体が大きく揺れた。
イーネが言う。
「……だいぶ暴れ回ったからな……。倒壊してもおかしくねぇか……。」
「倒壊ぃぃいい?!」ナユタ
大きなリアクションをしたのはナユタだけで、皆んな淡々としている。
アンカが立ち上がって言う。
「全員連れて移動となると、行ける所は一箇所だけだな。お前みたいに、便利じゃないからな。俺の力は。」
アンカの言う"お前"とはイーネを指しているようだった。
イーネが言う。
「………………分かってるよ。…………それしかねぇだろ……。」
「ブチキレるぞ?リン。まぁ。リンがいれば、もう少し怪我人を診ることができけどな。」
(………………リン?……)マリ
アンカの言葉に、イーネは顔を歪めると、少し間を置いてから答える。
「……………………俺から話す……。」
「当たり前だ。」アンカ
「…………っ……。」イーネ
トンッ
イーネはつま先で地面を叩いた。
それと共に、地面に魔法陣のような赤い光が浮かび上がる。
そこそこに大きく、仲間全員が魔法陣の上に乗っているような状態だった。
「なにこれ!なにこれぇ?!」ナユタ
「トラヴィス先輩が起きてたら喜びそうですね。」ユウト
「魔法みたい。」マリ
すると、それまで寝たまま、こちらに視線をやるだけだったアルバラが起き上がって言う。
『大盤振る舞いだな。』
それに対して、アンカは何の嫌味も含まない声と表情で返した。
「いや。ほんの一部だよ。」
ボウッ
周囲が炎に包まれる。
アンカが言う。
「飛べ。」
――――――――――――
<マーリアス>
ボウッ
全員が熱さを感じない炎に包まれていた。
徐々に自分を取り巻く炎が晴れていく。
「ここ……は……?……。」マリ
辺りを見渡すと、こじんまりとした木造一軒家の屋根裏のような場所だった。
部屋の隅に、多少の荷物は置かれてはいるが、基本的には何も無く、木製のフローリングの上に全員が居た。
アンカが言う。
「ヤバイのは、火傷の方と、胸に穴の空いたその人だな。……リン。呼んでくるか……。」
「もぅ居るわよ。」
女性の声がして、意識のある全員の視線がそちらを向く。
この部屋に繋がる階段から登ってきたのであろう、その女性は、片手は階段の手すりに置き、もう片方の手を本を開いて口元を隠すようにしていた。
殆ど黒に近い紺色の髪は胸の辺りまでストレートに伸びていて、切り揃えられた前髪は鼻の頭くらいまで伸び、目元が完全に見えない。
前髪と本のせいで、顔どころか表情も分からなかった。
その女性に、アンカが声をかける。
「ベリーがいなきゃ話しになんねぇ。力。分けてやってくれ。2人とも明の呪いつかってやがる。ぶっ倒れる前にな。」
女性が本を持つ手に、僅かに力が入ったようだった。
女性が言う。
「信じられない。……人で無いものまで連れて来て。お代は?誰が払ってくれるのかしら。」
(お代……。お店……?)マリ
「さぁ。イーネじゃないか?」アンカ
アンカはそれだけ言うと、仰向きで倒れているトラヴィスの横についた。そのトラヴィスの近くにユウトが寄る。
少し離れた所にアエツが仰向きで倒れていて、ベリーはその横についている。
「彼は、そこのソファに寝かしてあげて。」アンカ
アンカの声かけで床に倒れたニコを、ナユタがおぶって、部屋の隅にあったソファに横にする。そのソファの近くには、またまたレンが居て、レンとナユタは、そのままニコの側で様子を見るようだった。
そのソファとは反対側の壁にも、もう一脚別のソファがあり、イーネはそこにフラフラと向かうと、半分倒れ込むような形でソファに横になった。イーネが横になるソファの真横には窓があり、太陽の光が差し込んでイーネの体を照らしている。
アルバラは、堂々と部屋の中央あたりで丸まって眠り始めた。
マリはというと、たまたま居る場所が階段の近くで、どうすればいいか分からず棒立ちになっている。
「……はぁ。」
ため息をついたのは表情の見えない本を持つ女性で、その女性は、本を口元に当てたまま動き出したかと思うと、何故かマリと至近距離で向かい合って立ち止まった。
(…………………………え?…………)マリ
彼女の前髪で視線は見えないが、見つめ合っている状態だと言える。
(…………………………え?私…………?)マリ
マリが困惑していると、女性は本を持っていない方の手をマリに向かって伸ばした。
(え?…………な、…なに?!…………)マリ
スルリッ
女性はマリの首元に手をやり、そこから、首に引っかかったまま落ちていなかった、ネックレスのチェーンの一部を手に取った。
「あ。……それ。」
視線が見えないが、女性はそのチェーンの方を見つめている。
女性が言う。
「………………そう。」
「………………………………はい?」マリ
すると、アンカが女性に声をかける。
「リン。早くしてやれ。これでも死にかけてる。」
リンと呼ばれた女性が答える。
「譲歩してるでしょ?」
「……………………あの……。」マリ
マリの元から離れようとしたリンに、マリが何故か声をかけていた。
リンと呼ばれる女性が、再びマリの方に視線をやる。
(あれ……。私……。なんで声かけたの……。ばか……。)
リンがマリに言う。
「なにか?」
「あ……。いえ……。な、仲間を……お願い……します……。あの……。お、お医者……様ですか?……。」
(いや!違いそうだけど……!)
するとリンは、また僅かに溜め息を漏らしたようだった。
リンが言う。
「……あなた、ここがどこか知らないで来たの?」
「あ………………いや……。はい。」
「一度。来てくれてたじゃない。」
「………………え?」
「ここはマーリアスよ。」
「……………………マーリアス。」
マリは、初めての任務で訪れた街のことを思い出していた。
そこで訪れた場所と言えば、一つだけ。
マリは呟くように言う。
「…………………………呪い屋……。」
リンはマリの呟きには答えず、横たわるアエツの横につくベリーの横についた。
マリは、アンカ、リン、ベリーの3人が仲間を治療する様子を黙って見つめる。




