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17-① 可愛い子には旅をさせよ

 <イーネ・トラヴィス>

 

 エレベーターは上昇し、四方(しほう)が剥き出しだったエレベーターは嵌まり込むように部屋の中で止まった。


 部屋の中は薄暗く、足元もおぼつかない。

 

「ッチ。……んだよここ。」イーネ

 

「見えないなぁ!」トラヴィス

 

 それでも気配を頼りに進む。


 少し目が慣れてくると、ホルマリン漬けにされた瓶などが部屋の端に並んでいるのが見えた。

 

「結構広い?この部屋。」トラヴィス

 

「みたいだな。」イーネ

 

 [チチチチチチチチ]

 

 周囲から嫌な気配がする。

 

「ジャンク?」トラヴィス

 

「小型のネズミが大量に。だな。……またこれかよ。」イーネ

 

 イーネは1本のナイフを取り出す。


 団服でもないトラヴィスは、ポケットから両手に何か取り出し、カチャカチャと扱うと一対のトンファーとなった。


 イーネがトラヴィスに言う。

 

「それ、ナユタのやつだろ。」

 

「へへん。いいでしょー。霊安室に籠る時に、ちょっと抜けてお願いしたんだぁ!」

 

「は?誰に。」

 

「え?ジーベルに。」

 

「………………作ってくれたのかよ……。」

 

「これだったら作れるからー。って!めっっっちゃ文句言ってたけど。」

 

(お前がトラヴィス・ゼイリー・アッシュカスターだってバレてんじゃねぇか……。戦闘を見越して、作成許可を上に取らずに作れそうなのを即席で用意したのか……。機転効くな。あいつは。)

 

 すると、イーネはトラヴィスに片手を差し出して言う。

 

「それ、1本寄越せ。」

 

「ええ?何でだよー。俺のおニュー武器だぞぉ?」

 

「俺はここまで、会社でラスターとやり合ってから連戦なんだよ。あとナイフ1本。しかも、この暗さじゃぁ……。」

 

「あ。能力まともに使えないんだろ。ったく。しゃーねぇーなぁ。ほらぁ!俺も一緒に来て良かったでしょ?!」

 

「………………。分かった。黙れ。」

 

「イーネって黙れって言い過ぎじゃないー?」

 

「……………………っ。黙れ……。」

 

 トラヴィスからトンファーを1本受け取り、2人は戦闘姿勢に入る。


 あっという間に周囲をネズミの群れに囲まれた。

 

[チチチチチチチチ]

 

 1匹のネズミが飛びかかってきたのをかわきりに、次々とネズミ型のジャンク亜種が襲いかかってくる。


 鋭く尖った爪、牙、角。


 小さなネズミの威力とは思えない攻撃が2人を襲う。


 それをトンファー1本で、回避と反撃を同時にこなす。

 

 ドシャッ

 

(あれがトンファーの威力かよ……。)イーネ

 

 イーネの振るうトンファーは、良くてネズミを気絶させる程度のものだが、トラヴィスが振るうトンファーは、当たりどころが悪ければ、ネズミの内臓が飛び出てグチャグチャになっていた。

 

 ネズミをいなして部屋中を駆け回り、たまたま中央で2人が落ち合う形になった時、イーネがトラヴィスに言う。

 

「お前、ユウトと完全に同じタイプになってんな。身体能力だけで化け物かよ。」

 

「お!褒めてる?!でも、俺、ユウトに勝ったこと無いんだよね!いっつもブン投げられる。」

 

「は?その図体で?」

 

「ユウトって、普通の顔してヤバいよね!」

 

 またネズミが襲いかかってくる。


 2人は散り散りになって避けながら、小型のジャンクをとにかく削る。


 イーネは思考する。

 

(何だこれ……。これで俺ら2人がヤラれるとでも?……俺らの体力を削ってる……。か、時間稼ぎか……。クマのぬいぐるみがほざいてたな。……後者寄りの、両者か……。だったらラスターが嫌がるのは……。)

 

 ネズミ型のジャンク亜種を捌きながら、イーネはトラヴィスに声を掛ける。

 

「おい!進むぞ!」

 

「ん?!おう!え?!どっち?!」

 

「知るか!」

 

 暗く、全体像が把握できない部屋の中をジャンクを討伐しながら進む。


 壁に当たっては方向を変えるくらいしか策は無い。


 こちら側も、ジャンクも、派手な大技があるわげでもなく、ジリジリと消耗しながら、進む先を探す。


 トラヴィスが大声で話し掛けてくる。

 

「やっぱりさぁ!」

 

「何だよ!」

 

「イーネって、戦闘タイプじゃ無いよね!マリの方がマシ!」

 

「………そーだよ!今更だろ!」

 

 [チチチチチチチチ]

 ガガガガガガッ

 

 数だけ多いジャンクの攻撃は、時として雪崩のように飛び込んでくる。


 トンファー1本ではどうする事もできない。


 避けるだけでも大きく体力を消耗した。


 トラヴィスは余裕があるのか、イーネに話しかけてくる。

 

「あと、あんま体力も無いよな!」

 

「あぁ?!ディスってんのか?!」

 

「いんやー?何で戦闘キャラっぽくしてんだろうって思って!」

 

「ディスってんだろ!それ!」

 

 ズドドドドッ

 

 だがまだ、会話しながらジャンクを捌ける程に余裕があった。


 また、トラヴィスが大声で言う。

 

「なんでぇ?プライド?」

 

「はぁ?!」

 

「誰かに憧れてたりするの?」

 

「何が言いてぇんだよ。お前の首飛ばすのは余裕なんだからな?!黙ってろ。」

 

「あ!また黙れって言ったぁ!」

 

「だーまーれー!」

 

「ああー!いっけないんだー!いけないんだぁー!」

 

 まるで子供のような喧嘩を繰り広げながら進む。


 いつしか、向かってない方向は一点のみとなった。


 この暗闇で、戦闘をこなしながら方向感覚を見失わないでいるのは、イーネが居てこそなのだが、トラヴィスは分かっていない。


 イーネが大きな声で言う。

 

「あっちの壁!いけるならぶちやぶる!」

 

「え?どーやって?」

 

「こいつらぶつけるぞ!」

 

「……あーねっ。」

 

 イーネとトラヴィスは息ぴったりに動いていた。


 目指す壁の前でジャンクの大群を充分に引き付ける。


 トラヴィスが言う。

 

「俺が掛け声いっていい?」

 

「あ?……あー。頼むわ。丸出し幸運男。」

 

 ジャンクの大群が雪崩のように襲いかかる。

 

「せーのっ!!」

 

 ドドドドドドドドッ

 バァーンッ

 

 残りの一点の壁は、イーネの予想どおりに大きな扉だったらしく、ジャンクの大群が突っ込んで外開きに開く。

 

 [チチチチチチチチ]

 

 ネズミ型のジャンクは隣の部屋に雪崩れ込んで散り散りになっていった。

 

 扉の向こうは大きなホールの様な形で、丸い大きな支柱が円状に並び、中央はステージのように、何もなくだだっ広い。


 あまりの広さに、これまで相手にしていたネズミ型のジャンクの数が少なくなったかのように錯覚するほどだった。

 

 イーネとトラヴィスは、その部屋の中に足を踏み入れる。


 何故かネズミ型のジャンク亜種は襲ってこない。


 それは、そこに(あるじ)となる人物が居るからなのか。

 

「はぁ……。もぅ来たの。……この建物にさえも嫌われちゃったら、どーしようも無いね。」

 

 ホールの中央に佇むラスターが言った。

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