16-⑤ 副作用
<ユウト・レン>
(この2人……!ほんとに早いっ……!千里眼があって、何とかついていけるレベル……!ユウトさんは、地の身体能力のみでこれか……!)
ユキハルの能力は、その大きな筆で宙に描く不思議な文字であり、その文字から飛び出す攻撃もあるが、それよりも強力だったのは、その文字によって強化されたユキハル自身だった。
筆でさえも、そこらにある武器よりも、硬く鋭い刃のように強力だった。
ユウトとレンは初めてとは思えない連携を見せるが、二対一で、何とか戦況は拮抗しているように見える。
(いや……。手……。抜かれてるな。)ユウト
バンバンバンッ
拳銃の弾は、当たり前のように筆で弾かれる。
(だいぶ武器も使った。残りの武器で、この人を戦闘不能には出来ない。)ユウト
「天下流・浪志の太刀…………。」
キンッ
レンがユキハルに技を繰り出そうとした時だった。
レンの懐に先に入り込んだユキハルによって、レンの刀が根本から折られる。
ドッ
そのままユキハルの蹴りがレンに入り、レンは大きく吹き飛ばされた。
「……がはっ……!」レン
(やば……。2人とも丸腰になる……。)ユウト
それは、感覚種である2人には致命的とも言えた。
2人の能力は矛にはならない。
(いや……。ユキハル様の狙いはそれか?……)ユウト
ユウトは伸縮して槍になる棒を二本取り出して接合させ、両端が尖った一本の長い棒にすると、それを振り回しながらユキハルに攻め入る。
キンッ キンッ キンッ ドッ
筆と槍がぶつかり合う音が響く。
ユウトが更に深くユキハルの懐に入った瞬間だった。
「レrzボv。」
(またかっ!)ユウト
ボンッ
ユキハルの懐に入れば、カウンターのような形で衝撃波の攻撃を受け、大きく遠くへ吹き飛ばされる。
ズザザッ
ユウトは地面に華麗に着地し、体制を立て直す。
今だけは戦闘音が止んでいた。
ユキハルが言う。
「ユウト。貴様の力は認めよう。だが、私の相手にはならん。諦めろ。レンの刃も刀身を折った。貴様ら2人共、もう手数は無いだろう。」
その言葉にユウトが返す。
「わざわざ僕らの攻撃の手を無くして戦闘不能とするなんて、回りくどいことするんですね。」
「…………。」ユキハル
「イーネに言われましたよ。"お前が思ってる程、人間味の無いやつでは無い。"ってね。」ユウト
「…………。」ユキハル
「それは、貴方なりの優しさですか?でも。だったら……。」ユウト
ユウトは両端の尖った槍を構え直して言う。
「そこを通して下さい。僕の仲間も戦っています。僕だけ戦闘から降りる?冗談じゃない。」
ユウトの言葉を黙って聞いていたユキハルは、一度目を瞑ってゆっくりと開く。
この動作は、ユキハルの癖のようだった。
ユキハルが話し出す。
「貴方らの母親。ナズナは、ある病にかかっている。」
「…………………………?」ユウト
(………………ユキハル様。今このタイミングで語りだしたよ……。そーゆー所あるんだよな……。この人……。)レン
ユキハルが急に語り出した理由は謎だが、ユウトとレンは黙ってユキハルの話しを聞いた。
「ユウト。お前も覚えがあるか。私の結界の中に隔離された母親の姿を。」
「…………あぁ。まぁ。覚えてますよ。病気で触れ合えないって言われて、母を囲む結界の外で、よく遊んでましたね。」
ユキハルが言う。
「今、ナズナは結界無しで自由に子供達と触れ合える。だが、それは、私の力に、マシロの力を足す事で成り立っている。」
それはレンも初耳だったようで、驚いた顔をしている。
ユキハルが続ける。
「マシロの能力があって完成される私の術だ。マシロの力が無ければ、またナズナを結界の中に閉じ込めるしか無い。この戦争で、お前らに軍配が上がり、マシロが死んでも同じ事。そうなれば、ナズナは永久に結界の外に出られなくなる。」
ユキハルの言葉を聞いたユウトが返す。
「……それ。ちょっと嘘。ついてます?」
「……何がだ。」
「とぼけないで下さい。僕はタトラスって奴に会ってます。マシロからの協力が得られるなら、その病気じたいをタトラスに治して貰えばいい。そーゆー能力ですよね?あの人。」
「…………。」
ユキハルは答えない。ユウトが詰める。
「病気……。じゃないんですね?……母さんは何故、貴方とマシロの力が必要なんですか。」
「病気…………じゃ……。無いんですか?」レン
レンは驚いた表情のままユキハルに聞いた。
ユキハルは暫く黙っていたが、ゆっくりと口を開く。
「…………………………詳しいことは、ナズナが子供達に言う事を拒んでいる。だが……。そうだな……。病気。…………ではない。」
「…………。」ユウト
「…………。」レン
「………………"異質症"だ。それだけは教えてやる。」
「"異質症"?…………!」レン
"異質症" 。それは、血清適合において、非常に稀な副作用の事だった。
想定していた能力が発言せず、元々のジャンクがもつ特質の中で、予想とは全く別の能力が発現する症状。
レンが言う。
「母さんも核師……だったんですか?」
「…………核師として活動したことは無いがな。異質症のせいで、普通の生活もままならなくなった。」
これまでにユキハルが話した内容をユウトがまとめる。
「つまり貴方は、"血清"の受け渡しに関する盟約をタイヨウと結んでいて、タイヨウに力を貸している。反面、マシロから力を借りている変わりに、マシロ達にも力を貸している。って事ですか。なんだったら、マシロ達が負けたら困る。と……。」
「…………。」
「とんだ八方美人ですね。つまり、貴方は、今現在はマシロ側の人間として、そこに立っている訳だ。」
「……いや。今ここにいるのは。私の意思だ。」
トンッ
ユキハルは構えていた筆の、かけひものある方を地面に付けた。
それは、まるで戦闘の意思が無いようにも感じる。
ユキハルが言う。
「もおとっくに。脅せば引くような歳でも無くなったな。」
すると、ユキハルはクルリと筆を半回転させて穂先の方を地面につける。
そのまま地面にスルスルと文字を書いていくが、だいぶと長文のようで、レンとユウトは暫くその様子を見ていた。
地面に書いた文字が青白く光る。
ユキハルが言う。
「ジェjxdiリvir。」
シュルリッ
「……は?」ユウト
ユウトとレンの足元から青白い紐が飛び出すと、2人の胸から腰まで、グルグルと巻きついて拘束した。
ユキハルが言う。
「お前達。何故、執筆の邪魔をしない?油断か?」
ユキハルは若干引いたような表情をして言っていた。
ユウトが文句のように言葉を返す。
「……………いや、もう戦わない感じだと思いましたよ。…ってかそんな雰囲気だしてましたよね?」
「……僕も……もう終わったんだと思いました…………。」
「そんな事は一言も言ってないだろう。人のせいにするな。」
ユキハルは何食わぬ顔で言うと、筆が元の大きさにスルスルと戻っていく。
テンジョウ ユキハルの能力による拘束は、筋力だけではどうすることも出来なかった。
「何これ?負け?」
ユウトが言うと、ユキハルが答る。
「負けでは無いだろう。私がここに居る理由を聞き出し、(聞き出したんじゃなくて勝手に話しだしたんだけど。/ユウト)それから、先の事についても、私が何を言おうとも聞く耳を持たんのだろう。…………私の能力でどうとでも出来るが……。」
「お母様に怒られますもんねぇ。」レン
「…………。」ユキハル
レンの言葉にユキハルはほんの少しだけ気まずそうにしているように見える。
(え?……ユキハル様ってそーゆー感じ?妻の方が立場上なあれ?)ユウト
暫く微妙な雰囲気が漂っていたが、ユウトとレンは諦めたように地面に胡座をかいて座った。
テンジョウ家である2人が、この拘束に抗えないことを何よりも理解していた。
ユキハルが言う。
「だからだ。今はもう心配することはない。ユウト。ナズナに会いに来い。」
「……………………。僕、トラヴィス先輩やナユタに、散々会話が下手だって言われて来たんですけど、貴方の方がもっとヤバいですね。何言ってんのかのか分かりません。」ユウト
ユウトの言葉に、ユキハルが顔を顰めて言葉を返す。
「私の事を言ってるのか?」
「……ユウトさん。それ、皆んな思ってるけどユキハル様に言ってないやつです。」レン
「……察しろ。じゃ難しくない?」ユウト
「僕はもう慣れました。」レン
「何コソコソ話してる。」ユキハル
ユキハルは不服そうな顔をしている。
そこにレンが説明を加えた。
「お母様とユウトさんの事です。病気じゃない。ってのは、僕も今知ったんですけど、お母様の状態は非常に安定しています。もう、ユウトさんに会っても大丈夫な状態ですから、是非、会いに来て下さいって話しです。」
ユウトは何も理解していない顔をしている。
ユウトが言う。
「………………ごめん。………………何の話し?」
「え?ユウトさんがテンジョウ家に近づけなかった理由が、取り除かれたって話しですよ。」
レンはレンで、『何で分からないだろう。この人。』といった顔をしている。
ユウトが言う。
「僕は……。昔、九尾を逃して、テンジョウ家から追い出されて……。それで、タイヨウさん達の核師の集団に入ったんだ…………よね?」
「追い出され…………。まぁ。はい…………?九尾を逃してしまった時に、九尾が言い逃げたんです。……よね?"ユウトさんに、ユキハル様の呪いが効かないように細工をした"って。それが嘘か本当かは分かりませんけど、当時のナズナお母様の状態とユウトさんは、お互いがお互いに悪影響を及ぼす危険があったんです。九尾の言う事が本当ならね。でも、ユキハル様の能力が完成されたことによって、ユウトさんがテンジョウ家に来て、ナズナお母様の側にいても、恐らく今なら大丈夫だろう。って。」
「……………………。」
「ユウトさん?」
レンの話しをユウトは脳内でまとめていた。
九尾を逃した仕打ちとして、家を追われたとユウトは思い込んでいた。
しかし、レンの話しを聞く限りでは、九尾が何かしらの細工を施した。それ事態も定かではないが、ユウトはそれによって、テンジョウ家に居られなくなった。という解釈の方が正しいようだった。
すると、ユキハルが思い出したかのように言った。
「そういえば、幼いお前がそっちで生きやすいように、適当に説明してくれと。タイヨウに言ったな。」
「……………………。それでしょ。絶対。」ユウト
ユキハルも地面に胡座をかいて座った。
長く長く長い沈黙が流れる。
何分たっても、誰も何も話さないことに引いていたのはレンだった。
(……え?……ユキハル様。もう説明おわり?……ユウトさんも…………え。色々聞きたくならないの?……え?)
すると、ユウトがユキハルに声をかけた。
「ユキハル様。」
「なんだ?」
(あ!やっと……!2人の過去のすれ違いが紐解かれ……!)レン
「この拘束、解いてくれませんか?」ユウト
「解けば先に進むだろう。今後どうするかは勝手にすればいい。が、この先には進ません。」ユキハル
「…………トイレとかどーするんですか?」ユウト
「…………行きたいのか?」ユキハル
「いや。まだ。」ユウト
「ならいいだろう。」ユキハル
「あと、どーせ暇なら武器の手入れしたいです。」ユウト
「もうお前が今日、戦うことはない。」ユキハル
「いや。戦わなくても、使った武器は整理しとかないと。科学班にも怒られるんで。」ユウト
「…………。怒られるのか?」ユキハル
「ええ。はい。まぁ。だいぶヒステリックな感じで。」ユウト
「…………。もう少し後にしろ。」ユキハル
「じゃあ、いい時言って貰えます?」ユウト
「…………。そうか。…………。考えておく。」ユキハル
(……………………終わり?)レン
2人の会話が終わって、また長い沈黙が続く。
ユキハルとユウトは、瞑想にでも入ったのかと思うくらいに微動だにせず静かにしていた。
唯一レンだけが、気まずい時間を過ごしたという。




