16-③ 副作用
ガラガラガラガラッ
「やばい!!」
スクラップの山が音をたてながらゆっくりと傾きだした。
2人の戦いが影響し、バランスを保っていた山を崩したようだった。
凄まじい音を立てて瓦礫の山が崩れていく。
ナユタはそれに巻き込まれないように必死で駆け抜けた。
ドォォォオオオオオンッ パラパラパラ
瓦礫の山は完全に崩れ去った。
細かい瓦礫がパラパラと落ちる音だけが響いて、静かな時間が流れる。
「…………ほんと……死ぬってば……。」
ナユタが瓦礫の中から何とか這い出てくる。それに対して
ドンッ
ニコと大男の2人は瓦礫の中から突き抜けるようにして出てきた。
『---♪♪--♪♪----♪。』
ニコの歌声と同時に、ニコと大男の2人は再び接触し、金属と破裂音のような音がこだまする。
(ニコ…………声が……。)
全力で歌い続けるニコの声は枯れていた。
濁声の状態でも、ニコは全力で歌っている。
声の質が、ニコの能力の質に影響するのか、これまでそういった場面が無かった為わからなかった。が。
ガチンッ ドンッ
ニコが僅かに優勢だった戦況が、また完全に拮抗していた。
(記憶も流れてこない……。)
それは確実に、ニコの能力の質が落ちている証拠となっていた。
ユタは近くの廃材を手に取る。
「僕で役に立てるか分からないけど、見てるだけにはいかないよね……!」
ナユタも2人の戦闘に加わる。
ガチンッ ゴンッ ドンッ
拮抗した戦闘が続く。
ナユタは大男を見て思う。
(こいつ……。痛みや疲労が無いのか?……。)
大男のパフォーマンスは当初からまるで変わらない。一方こちら側は。
『---♪♪--♪…♪---……-♪♪。』
歌えば歌うほど、ニコの声は枯れていき、疲労も蓄積しているようだった。ニコの能力の質が落ちていく。
ザクッ
大男が振るった斧が、ニコの腕に深く入り込んで血が飛び散った。
「……ニコ!」
ドンッ
その様子に僅かに気をそらしたナユタに大男の拳が入り、大きく吹き飛ばされる。
「……がっ!……。」
ナユタは瓦礫に背中を打ち付け痛みに悶える。
その間もニコと大男の戦闘音が響く。
(まずい……このままじゃ……。)
こちら側がジリジリと削られ、最後は大斧で命を削がれるイメージが往々にして想像できた。
パラッ……
ナユタの視線が上に向かう。
そこには、瓦礫の山が崩れた時に、中途半端に引っかかって落ちて来なかったのであろう、巨大な鉄柱がグラグラと揺れていた。
今にも落ちそうな鉄柱は、ちょうどニコと大男と真上にある。
「ニコ!上!!」
ナユタが叫ぶ。
ニコは視界の端に、落ちてきそうな鉄柱を捉えた。
鉄柱が大きく傾いて地面に落ちていく。
ドォォンッ
鉄柱が落ちた周囲に煙が立ち込め、ニコと大男の姿が見えなくなった。
戦闘音が止み、また静かな時間が流れる。
少しずつ煙が晴れていく。
「………………っ!」
ナユタの目に映ったのは。
背中から腹部にかけて、鉄柱が縦に貫き突き刺さり、大量の出血で今にもこと切れそうな大男の姿だった。
ナユタはゆっくりと大男に近づく。
「…………オ、オ、オレ。死ヌ。ノカ。」
「………………痛みが無いの?」
腹部が貫かれているにも関わらず、淡々とした感情の大男にナユタは思わず呟いていた。
大男の視線がナユタに向き、2人の目が合う。
大男が言う。
「オマエ。ココロ。ヨメル。ヤツカ。」
「……え?」
大男の感情がナユタに流れ込む。
「オレ。死ヌ。カラ。マシロ様ニ。伝エテ。欲シイ。」
"ありがとう。大好き。いつもありがとう。側にいてくれて。神様。大好き。マシロ様の為に。マシロ様がいてくれて。ありがとう。こんな僕に。いつも。ありがとう。ありがとう。ありがとう"
それは崇拝にも近い。
マシロへの感謝の感情。
「オレ……。ソノ。ナマエヲ……。知ラナイ……。カラ……。」
ガラガラガラ
後ろから、何かを引きずる音にナユタが視線を向ける。
『……♪♪…♪…♪……♪♪。』
そこには、男が使っていた大斧を引きずりながら近づいて来るニコがいた。
声にもならないような、かすれた声で歌っている。
「ニ……、ニコ……!待って!何しようとして……!彼はもぉ、何もしなくても……………!ニコ!正気じゃない!!」
ニコは止まらない。
ナユタの言葉は届いてない。
(殆ど暴走状態だ……!無理に止めに入れば、僕とニコで戦闘に…………それだけは避けたい……!)
そう思うと、ナユタはニコを止めることができなかった。
ニコが男の元へ向かう。
男が言った。
「オマエ。ショウキ。ナイ。ノカ。…………ワカル。オレモ……。ヨクアッタ……。ソンナ時ハ……。マシロ様……。コウシテクレル……。」
ニコが大斧を振り上げる。
『……♪……♪……♪♪……。』
ジャキンッ
大男の手は最後。ニコの背中をさすっていた。
男の首が切断されて地面に落ちる。
『……………………。』
ニコは口をパクパクとさせているが、既に声は出ていない。
声が出ないのに、まだ歌っているようだった。
ニコは斧から両手を離し、フラフラと目的もなく歩き出す。
「…………ニコ……。ごめん……。」
ドスッ
ナユタがニコの腹部に一撃を入れ、ニコの意識が飛び、ナユタが抱き抱えるような形で膝をついた。
「…………………………ありがとう。」
瓦礫の山が崩れて、この部屋の出口は完全に埋もれてしまっていた。
――――――――――――――
<イーネ・トラヴィス>
「解除コードは10110。だ。」イーネ
ピー カチャン
『わぁ!ありがとう!』
「お前、動かねーのにどやって出るの?」トラヴィス
子供部屋の中。
大きな横長の四角いガラスから、中にいる、小さな木の椅子に座るテディベアをトラヴィスとイーネは並んで見つめていた。
テディベアが言う。
『うふふふー。ちょっと待ってね。』
ポンッ
『ばぁあ!』
「…………。」イーネ
「すげー!どーやってんの?!」トラヴィス
『凄いでしょー?』
ガラスの中に居たテディベアは消え、今はトラヴィスとイーネの目の前にフワフワと浮いていた。
またテディベアが言う。
『じゃあこれ、約束の飴ちゃん!』
すると、トラヴィスの目前に白い飴玉が現れる。
「お!さんきゅー!」
「は?お前!待て!ちょっと!」
イーネの静止を待たずにトラヴィスは勢いよく、その飴玉を口に含んだ。
「……………マジでこいつの脳内信じられねぇ………。」
トラヴィスはイーネの事は気にも止めずに、飴玉をコロコロと口の中ので転がしている。
少したってから、トラヴィスの表情が険しくなった。
「ん゙ん゙?!…………ん゙……んん……。」
「は?!結局なんか仕掛けあんのか?!おい!大丈夫……か……。」
「はっか味だぁ……。くっそぉ……。イーネ食べる?」
半泣きでトラヴィスは口を開け、口の中の飴玉を指差している。
「…………。いるわけねぇだろ。あと死んでくれ。」
「えぇー。勿体ないから食べるけどさぁ。」
すると、テディベアが話し出す。
『お家で使えるチケットは、君たちが来てくれた時に用意するね。それと。はい。』
テディベアの前に少し錆びれた鍵が現れる。
『エレベーターの鍵だよ。本当は別の場所に繋がるんだけど、あの人に愛されてる君達だから、特別に行きたい所に連れてってあげる。』
「…………。」
「行きたい所?ってどこ?」
『イラつくだろうなぁ。あいつ。ふふ。ふふふふふ。ふふふふふふふふ。』
イーネはテディベアの前の鍵を手に取った。鍵が持っていた浮力のようなものが消えてイーネの手の中に収まる。
トラヴィスが言う。
「鍵ゲットじゃん!じゃあ先に行こうぜー!」
「…………そーだな。」
『もーバイバイ?残念だなぁ。お家ではもっといっぱい遊ぼうね。』
そうして、トラヴィスとイーネは子供部屋を後にした。
子供部屋には宙に浮くテディベアだけが残る。
テディベアは独り言を呟く。
『これであの方の力は回収っと。殺しそびれちゃったけど仕方ないよね。お家に招待したから、ま、いっか。家に来たら皆んな死んじゃうんだから。あー。楽しみだなぁ。賢いあの子の恐怖に歪む顔が。ふふ。ふふふふ。ふふふふふふふふふふふ。』
バンッ
テディベアは内側から破裂して粉々になり、同時に赤い塗料が周囲に飛び散っていた。




