16-① 副作用
<ベリー・アエツ・アルバラ>
「大天使の注ぐ矢。」
『瑠璃天惺羅。』
ドドドドッ
アエツとアルバラの攻撃は確実に化け物の体を削っていた。しかし、化け物の体積が減っている様子は無い。
アエツもアルバラも、化け物の攻撃を受けて全身が薄黒く汚れていた。
更に、後から分かったことだが、僅かに前に進む化け物の背後は、異様な瘴気に満ち、化け物が触れた上下左右の壁にはへドロのようなものが媚びり付いて、そこに触れるとジュッと音を立てて皮膚を焼くようだった。
ベリーの呪いがあっても長時間触れると危険な物であり、つまり、化け物が対面の行き止まりにつくまでがタイムリミットだった。
まだ残り半分くらいの通路を残しているが、そのタイムリミットまでに化け物を倒しきれるかと考えると。
非常に厳しい現実があった。
アエツは思う。
(ヤバいな……。攻撃の手応えは充分にある……。だが、終わりが見えねぇ……。敵さんの攻撃も激しさを増している……。躱わしながらじゃ数が打てねぇ……。)
アルバラも珍しく真剣な面持ちで思考していた。
(ラスター……。無能の中でも、さすが、マシロの下に付いただけの事はある……。なんと奇怪な化け物か……。アエツ・ダイヤモンド……。レティを倒したと言ったが、大したことの無いやつよ。奴より強い技を使う気は無い。このままだと……。皆、仲良くここで散るか……。それもやむなし。)
アルバラに乗って、2人の攻防を見ているだけのベリーは苦い顔をしていた。
(このまま…………じゃ………………。でも…………。でも…………。)
すると、僅かに前に進んでいた化け物が完全に静止する。
化け物の変化にアエツもアルバラも身構えた時だった。
[グチュチュチュチュ]
四足歩行の姿をしていた化け物は、収縮と拡散を繰り返してボコボコと歪な形をしだす。その最中は、敵の攻撃が止んでいた。
(様子見……。何かしませんよ!っと!)アエツ
「大天使の裁き。」
『瑠璃羅燈妖。』
ドドドドッ
攻撃が敵に当たる。
爆発などによる煙が晴れ、敵の様子を確認する。
そこには、大きな卵形に変形した肉の塊が宙に浮いていた。
すると、卵形のてっぺんから肉のリボンのような物が伸び、卵形の周囲をクルクルと周り出す。そしてそれは、素早さと激しさを増していく。
ガガガガガッ
卵形の周囲を肉の竜巻のような物が渦を撒き、それが当たった壁は、獣の爪で引っ掻かれたかのように削れていった。
そして卵形は、そのままゆっくりと前進しだす。
「大天使の裁き。」
『瑠璃羅燈妖。』
ガガガガガガッ
アエツとアルバラの攻撃は、これまで確実に化け物の体を削っていた。しかし、今は卵形の周囲を取り巻く渦に攻撃があたって防がれているようだった。
(ここに来て、回避が簡単になったが、攻撃と防御を兼ね備える敵さんの技に阻まれるとはな!…………想像以上にヤバいぞ……。)アエツ
アエツは翼を広げて飛行し、敵の渦に当たらない場所で静止した。
アエツの周りの銃火器は一つの大きな大砲のような形に変形し、キリキリと音をたてて光を集めている。
アエツが言う。
「んじゃあ、思う存分、時間使わせていただいて、ここらで一発デカいのいきますよ?」
アエツは、アルバラとベリーに視線をやって言う。
「今まで以上に強烈に光っから、注意してねぇ!」
アルバラはそれを聞いて、アエツと化け物から少し距離を取った。
アエツは化け物に向き直る。
ジレは光を溜めている。アエツが言う。
「愛を司りし者。」
チュンッ
ほんの一瞬だけ、部屋の中が白くなったように感じた。
アエツの攻撃は化け物の体を貫いた。
化け物が静止する。が、卵形をとり巻く渦は止んでない。
「んじゃあ、もっぱつ!」アエツ
ドスッ
「……っ!アエツ!!!」ベリー
ベリーが叫んだ。
(焦ったな……。)アルバラ
卵形の中心部から肉の槍が真っ直ぐに伸びて、アエツの腹部を貫いていた。
「……っ!」
敵の肉の槍がアエツの体から引き抜かれて、アエツの腹部から多量の出血が確認できる。
アエツは翼をはためかせて、化け物と距離をとる。
化け物はまた、周囲に渦を巻きながらゆっくりと前進しだした。
「アルバラ!アエツの所に行って!」
「いんや!大丈夫だ!」
ベリーの言葉を遮ったのはアエツだった。
アエツは化け物と距離をとって地面に降りたっている。
みると、ジレの一部がアエツの傷口から体内へと侵入していた。
「どてっぱらに風穴あいて死んでちゃぁ、二児の父親なんて務まらんよ!!」
アエツの傷口からの出血は少しずつマシになっているようだった。
またアエツが言う。
「あー!あー!ひっさしぶりだねぇ!こんなに能力に浸かるのはぁ!!……お嬢さん!君は核師になったばっかりだって?核師OBの俺がプチ講習しようじゃないか!」
「はぁ?!アエツ。あんた何言ってんの?……今、そんな状況じゃぁ……。」
(ちょっとハイになってる?……)
確かにアエツは底抜けに明るい性格だが、メリハリもある男だった。そんな男が、この場に似つかわしくない発言をする。アエツが言う。
「"誘暴症"ってのは知ってるか?血清適合においての副作用の一種だ。こいつは基本的には悪い副作用だが、いい面もある。」
卵形の敵は渦を巻きながらジリジリと近寄ってきている。それを気にも止めずにアエツは言う。
「能力が飛躍するんだよ。簡単に言ったら強くなれる。…………ただし。」
アエツの瞳は、獣のように瞳孔が細くなり、体内に侵入したジレが皮膚の内側から鱗のように浮き出ていた。
「ジャンクの本能が優位になることで引き起こる興奮状態。教科書にも乗ってただろ?…………ジャンクが持つ。凶暴性だ。」
アエツのジレは常に銃火器の形をしていたが、今はアエツの体と半分融合しているようにも見える。
背中に大きく広がる天使のような翼、その頭上には、銃などに付くスコープが巨大化したようなリングが浮かんでいた。
キリキリキリ
リングの中央にむかって光の粒が溜まっていた。
アエツが言う。
「ゼゼ第五。獣光射。」
キィィィィンッ
光線が敵に向かって放たれた。
敵が静止する。さらには、常に敵の周囲を渦巻いていた、竜巻のような攻撃も止んで静かな時間が流れた。
[ビチビチビチビチ]
卵形の敵の下から、粉々の肉塊が流れ出る。
卵形の敵は、表面がモゾモゾと動くように波打つと、再び前進し、更には
ガガガガガガッ
卵形の周囲を渦巻く竜巻、中央付近から伸びる肉の鞭が数本から数十本、肉の柱が飛び出し、アエツとアルバラを襲う。
敵の怒涛の攻撃を反撃の余地もないまま、とにかく躱わす。
アエツが言う。
「敵さんも第二形態!俺も第二形態!やりあおあじゃあないかぁぁああああああ!!!!」
アエツは空中で大きな翼を広げ、翼を使って、見えない丸太を抱えているような仕草をとると、その中に光の球体が現れる。
「ゼゼ第ニ、球抱光破!!」
アエツが抱える光の玉は、それほど早くはない速度で敵に近づき、敵と接触した瞬間、
パァァアアアアッ
破裂音と眩い光に包まれる。アルバラとベリーも思わず目を瞑っていた。
光が収束し、敵を確認すると、敵の動きが再びとまっている。
[ビチビチビチビチ]
卵形の下から肉塊が流れ出てて、卵の表面は波打っている。卵形は少しだけ小さくなった気もした。
「ゼゼ第一……。」
アエツは地面に降りたっていた。翼が無い。アエツのもつ全てのジレを使って、地面に設置型の大砲を構えていた。それは、今までの比較にならないくらい大きい。
「光咆哮。」
ドッ
(元々の…………ジャンクの…………本能……。)
ベリーは、アエツがどんなジャンクの血清に適合しているのか知らない。ましてや、討伐されたジャンクの姿を見た事なんてあるはずがない。
けれども、アエツの放った攻撃は、まるで白い獣の咆哮のように見えた。
卵形の敵の姿はアエツの攻撃にのまれて完全に見えなくなる。
(やった?……)
少なくとも、ベリーの目には敵の肉塊を完全に蒸発させたように見えた。
トスッ
アエツの放った光が収束しきる直前だった。
卵形から伸びた細い肉の槍が、アエツの胸元を貫いていた。
「…………っ!」アエツ
『油断しよったな。』
「………………うそっ……!……。」ベリー
大砲の形をしていたジレがバラバラになって崩れ去っていった。アエツが背中から地面にゆっくりと倒れていく。
[キィァァアアアアアアアッ]
敵の姿はバスケットボールくらいの球体に変わっていて、甲高い悲鳴のようなものをあげた。




