15-⑥ それぞれの相手
<トラヴィス・イーネ>
バフッ
ドサッ
「……………イーネ。もうちょっと食った方がいいぞ?軽すぎねぇ?」トラヴィス
「分かった。お前はもういいから死んどけ。」イーネ
「俺はぁ!生きる!!」トラヴィス
「……………。」イーネ
2人が滑った先は、小さいベッドの上だった。
先にトラヴィスがベッドの上に仰向きで落ち、トラヴィスの上にイーネが落ちてのやり取りだった。
イーネが先にベッドから降りて周囲を見渡す。
トラヴィスもベッドから立ち上がって周りをキョロキョロと見ている。
そこはワンルーム。
子供部屋の様な装飾だが、子供部屋にしては少し広いくらいの部屋だった。
勉強机に子供サイズのベッド、ラグが引いてあって、その上にローテーブル、よくあるカラーボックスに、クローゼット。
あとは、あちこちに、ボールやポスターやオモチャら。とにかく子供っぽいものが所狭しと並べられている。どちらかと言えば、男の子の部屋のような装飾だ。
「…………閉じ込められたのか?」
イーネが呟くと、トラヴィスが部屋の扉まで歩いてドアノブを回す。
ガチャリ
「あいたぞ?」
「開くのかよ。あと、一般人は危ないから勝手に行動すんな。」
子供部屋の扉は簡単に開いて、子供部屋の外の様子を伺う。
そこは広くて薄暗い空間が上に高く吹き抜けており、中央には上下に伸びるケーブルが見える。
床は鉄板で、中央のケーブルを囲むようにロの字に柵が施してあった。
どうやら、中央にあるのは大きな工場用の大きなエレベーターらしかった。
すると、何故かトラヴィスはパタリと扉を閉じ、子供部屋の中でトラヴィスとイーネ。謎の沈黙が流れる。
イーネが言う。
「………………進めよ。」
「ここの部屋。なんの為にあるの?」
「知るかよ。」
「俺たちは、何かを見逃しているっ!」
「…………。」イーネ
「まずは、この部屋を調べよう!!」トラヴィス
「…………。お前。鷹のままが良かったろ。絶対。」イーネ
一度言い出したトラヴィスは止まらない。
トラヴィスは一点を指差す。
「あそこが怪しい!!」
「そこはずっと怪しいんだよ。」
子供部屋の壁。一箇所だけ、大きな横長の四角いガラスが嵌め込まれていた。
窓ではないようで、まるでそこだけ博物館のような雰囲気を醸し出す。
パチン
イーネが四角いガラスの横にあったスイッチを入れたようだった。
ガラスの中の電気がついて、中が見える。
『わぁ!誰かが電気をつけてくれたの?ありがとう!』
「…………。」イーネ
「お!どういたしましてぇ!」トラヴィス
ガラスの中の中央には、小さな木の椅子に座るテディベア。赤の様なピンクの様なライトで照らされ、ガラスの中の部屋はポップで可愛らしい雰囲気を醸し出す。
テディベアの周りの壁や床にはハートなどのステッカーが沢山貼られ、いくつかの宝箱のような物も置いてある。
また可愛らしい声がガラスの中から聞こえる。
『僕、ここに閉じ込められちゃったんだ!お願い。助けてくれない?』
「クマの人形が喋ってんの?」トラヴィス
『そうだよ!僕はテディ!お願い!助けてぇ……。そこの扉を開けて欲しいんだ!』
「俺はトラヴィス・ゼイリー・アッシュカスター!あんまり他人に頼るのは良くないぞ?!まずは自分で頑張れ!」
『な、なに?!こんな愛くるしい見た目の僕にそんなこと言うの?!そのでっかい目ぇ腐ってんだろ?!ほじくりだして…………あ。違った。えーん。助けてよぉ。』
「…………。」イーネ
小さな木の椅子に座るテディベアに動きは無いが、トラヴィスの言葉に反応してしっかりと返事が返ってくる。
ガラスの中を覗き込むと向かって右手に扉があり、その横には電子キーのような物が備え付けられていた。
ガラス越しでは良く見えない場所に、沢山のメモ書きもあるようだった。
またテディベアが話す。
『この部屋には、扉の鍵になる問題が沢山あるんだ!僕が読むから、考えてくれない?難しくて分からないんだよぉ……。多分、君たちのいる部屋にもヒントがあるはずだから!』
「何でそんな所に閉じ込められてんの?」トラヴィス
『こんのやろぅ。言いたい放題話しやがって……。あ。違った。僕にもわからないんだよぉ。』
「俺、なぞなぞは好きだから!一緒に考えてやるよ!」トラヴィス
『ほんとぉ?!ありがとう!』
トラヴィスとテディベアのやり取りにイーネが苦言を呈す。
「勝手に話し進めんな。」
しかし2人の会話は止まらない。
テディベアによると、テディベアが居る部屋には、テディベアからしか見えない場所に沢山の問題があるらしく、それを可愛らしい声が読み上げていく。
それを聞いたトラヴィスは考える様子も無く言う。
「ん!分かんない!別のやつ読んで!」
『え?……………………わ、わかったよ……。』
またテディベアが問題を読む。そしてまた、
「分かんない!次!」
『ええ?…………。』
そしてまた、
「分かんない!次!」
『…………。』
テディベアは次々と問題を読み上げる。
問題は最初が一番簡単な内容で、読み上げる度にどんどんと難易度があがっていく。最後の方には、
『第五層:構文再構成。得られた要素を、以下の演算で並べ替える。\text{Sentence} =(\text{be}_{-1})\oplus(\text{D}_{pp})\oplus(\text{C})\oplus(O)。ここで:\oplus:英語語順結合演算子。\text{D}_{pp}:第三層で得た語の過去分詞形。最終問いこの数式暗号が表す英文を答えよ。条件:余分な語を加えてはならない。大文字小文字・語順を含め完全一致。解は一意である。』
と何を言っているのか分からない物になっていた。
トラヴィスが言う。
「分かんない!次!」
『これで全部だよ!!』
「…………。」イーネ
「じゃあ分かんない!ごめん!」トラヴィス
『こんのやろぅ!てめぇ!その喉掻っ切って!……あ。違う。そんなこと言わずにお願いだよぉ。』
その様子を黙って見ていたイーネは、やっと口を開いた。
「お前をその中から出さないのが正解か。」
『…………。』
「そーなの?」トラヴィス
テディベアが珍しく黙っていた。
イーネが言う。
「お前が筋肉バカである意味助かったな。最初の問題が1番簡単で電子ロックの解除キーだ。残りの問題は警鐘、警告。全部聞かずにロックを解除すれば、その人形に俺達は殺されていた。」
「ええ?!怖!!」
『………………。』
(解はwas killed by teddy。"テディに殺された"。ガラスの中の照明が赤いのは比喩か……。)
すると、イーネの言葉を聞いたテディベアが言う。
『ふふふ。君って賢いんだね。でもどうだろう。その部屋の中にヒントがあるから、見てみるといいんじゃない?』
「…………。」
イーネが子供部屋の中を散策する。
良くみると、机の照明の当て方を変えると浮かび上がる文字などが存在していた。
一通り部屋の中を見回ったイーネが言う。
「お前を作った主人は哲学者か何かか?くだらねぇ。」
「なになに?何の話し?」トラヴィス
『ふふふ。でも、君達は僕をここから出すしか無いんだよ?この先の部屋を見たでしょ?あのエレベーターを動かすには、僕が持ってる鍵が必要なんだ。ふふふ。だからさ。……さぁ。ここの扉をあけてよ。』
「ええ?!でもその人形出したら死ぬんだろ?!ヤバいじゃん!どーする?!イーネ!!」トラヴィス
「………………………………馬鹿か?」イーネ
余裕のある話し方をするテディベアと、焦るトラヴィスを見てイーネは引いた顔をしていた。
イーネがトラヴィスに言う。
「お前、俺の能力忘れてんのか?」
「ん?イーネの能力?瞬間移動!!」
「うん。厳密にはちげぇけどな。で。エレベーター要るのかよ。要らないのかよ。」
「……………………はぁあ!!要らないわ!そーいや!!だってぴゅーんっ!て飛んでいけるじゃん!」
『ええええ?!い、要らないのぉ?!!』
(トラヴィスに対して俺の能力が正常に作動するかは不安要素だけどな。……ま。黙っとくか。)イーネ
すると、それを聞いたテディベアが焦った様子で言う。
『まってまってまって!!まってってば!置いていかなあで!』
「じゃーなー!テディ!またなぁ!」トラヴィス
『ちょ、ちょ、ちょっとまって!まって!分かったよ!殺さないから!殺さないから!ここからだしてぇ!』
「殺さないなんて当たり前だろ。何言ってんだよ。あ!殺す気だったんだな?!やーい!誰が出すかよ!べぇ!」トラヴィス
「…………。」イーネ
『ううぅ!分かった!じゃ、じゃあ、特別なチケットあげるからぁ!あと飴ちゃんもぉ!』
「え。飴ちゃんくれるの?そーいや腹へったなぁ。どーする?イーネ。」トラヴィス
「アホか。殺さないなんて口約束、誰が信じるんだよ。あと、多分、物理的な戦闘じゃないぞ。ある意味で呪いみたいやもんだろ。"人形を出した時点での死"の可能性が高い。抗えるものじゃないかもしれねぇ。やめとけ。」イーネ
「あ。ちょっと難しくてイーネが何言ってんのか分かんない。」トラヴィス
「………………。」
イーネが心底めんどくさそうな顔をしてると、またテディベアが話す。
『信じてよ!本当の事を話すからぁ!』
「本当のこと?なになに?何のことー?」
テディベアが言う。
『僕はピ・チティモが最後に完成させた"家"から来たんだ!ピ・チティモはこことの関係性を少しでも持たせたかったんだ!だから僕は、最後の"家"で使える特権を君達にあげるよ!きっと役に立つ!信じてよ!僕の創造主、ピ・チティモの名前にかけて誓うからぁ!』
「どーするー?イーネぇ。」
「…………。」
その話を聞いてイーネは思考する。
(馬鹿馬鹿しい。こいつの創造主であるピ・チティモは確実に捻くれ屋だ。哲学者きどり。量子力学の学者気取り。ゲームマスター気取り……。どーでもいいが、先に進めるのに乗ってやる必要はない。そもそも、そーゆー駆け引きありきで作ってて、結局言いくるめられれば死ぬ。ってギミックかもしれねぇ。俺の判断はフル無視一択。…………だけど。)
イーネはトラヴィスに言う。
「お前はどー思うんだよ。」
「ん?出してやったら?」
トラヴィスは考える素振りもなく答える。
イーネは顔をしかめてトラヴィスに聞く。
「何でそー思うんだよ。」
それに対しても、トラヴィスは顔色一つ変えずに言った。
「だって、自分の大切な人の名前出して言ってんだよ。大切な人の名前ってゆーのは。ここぞって時しかだせないだろ?」
「…………そうか?……。」
「そーだよ!それに。」
トラヴィスはニヤリと笑って言った。
「どーなるか、見てみたいじゃん!」
「…………。」
――――――――――
<マリ,story>
マリとタトラスのデートは続いていた。
カフェでコーヒーをゆっくりとしたペースで飲む。
タトラスはテンジョウ ユキハルの話しから話題を別のものにすり替えていた。
「なんで、ピ・チティモも俺らと同類ですよ。ここの建築なんか凄いっすよね。後でオススメの場所あるんで行きましょ。」
「そうだったんだ。凄いね。天才建築家まで、タトラス達の仲間なんて。」
「言っちゃ悪いですけど、捻くれ者で面倒臭いやつでしたけどねぇ…………。あ。マリさんには言っとこ。」
「何ですか?」
「俺ら、ピ・チティモに直接忠告されてるんですよ。"喋るクマのぬいぐるみには気をつけろ"って。この街で見たことは無いですけど、マリさんも気をつけてくださいね。」
「何ですか?それ。」
「いや。分かんないっす。あいつが死ぬ前、最後に完成させた建築に関わるらしいんですけど。何せ、誰も見たことも聞いたことも無いんですよ。」
「へぇ……。どこにあるかも分からない?」
「そうそう。ただ、だーいぶヤバいもの作ったっぽくて。せめて仲間が犠牲にならないように。って事で、そんな忠告をして死んでいったんですよ。この街もピーちゃんが作った物だから、一応言っておきますね。」
「ピーちゃん……。」
タトラスがまた一口コーヒーを啜り、マリも自分の物に口をつけた。




