15-⑤ それぞれの相手
テンジョウ ユキハルが言う。
「レンまで何をしている。その怪我は何だ。」
レンの両足には、ベリーに治してもらうはずだったジャンク亜種による噛み傷が放置されていた。
レンはしどろもどろに答える。
「……あ…………。いや…………。あの…………。」
すると、レンの足を見たユウトは「あ。」と気の抜けた声を出すと、コートの中から何かを取り出してレンに差し出す。
「そういえば、化膿止め持ってたの忘れてたよ。」
「…………え?……今ですか?」
すると、ユウトとレンのそのやり取りに便乗するようにユキハルが言う。
「小さな傷でもジャンクによるものなら、後に重大なことになりかねん。ありがたく受け取っておけ。」
「はい。どうぞ。」ユウト
「………………は…………はい……。ありがとう……ございます。」
レンは(何故このタイミングなんだ……!)と1人まともなツッコミを心の中で入れながら、ユウトから化膿止めを受け取り両足の傷口に塗り込む。
その最中にユウトがユキハルに言葉をかける。
「どうして貴方がここに?」
(それ!さっき僕が聞いたよね?!)レン
ユウトの問いにユキハルが答える。
「お前達が知る必要は無い。」
「ここにいるってことは、貴方はラスターと繋がってますよね?つまりはマシロとも繋がっている。…………自分をタイヨウ側の人間だと言い切ったのは貴方ですよね?……あれは嘘。それとも裏切りですか?」ユウト
「………………。」
ユウトの問いにユキハルは答えない。
ユウトが言う。
「だんまりですか。ラスターを殺すことが、この慄華を消す唯一の方法なんです。僕達……。いや、レン君を除いたとして、少なくとも僕はラスターの居場所に向かいたいんです。………そこに居るということは、邪魔されるおつもりですか?」
「…………。」
少しの間をあけてユキハルが言う。
「レン。ユウト。お前達2人とも。この戦線から降りろ。」
「………………。」
「………………。」
その言葉にユウトが返す。
「僕には戦う理由があります。レン君は巻き込んでしまっただけなので、今この場でお返ししますよ。」
すると、傷口に化膿止めを塗り終わったレンは、ユウトに薬の入れ物を差し出しながら立ち上がって言う。
「いや。…………僕も、ユキハル様。貴方がここに居る理由が知りたいです。それに僕は…………。」
「………………。」
ユウトはレンから薬の容器を受け取ってコートの中にしまった。
レンが言葉を続ける。
「ユウトさんに死んで貰いたくありません。…………お母様が…………。お母様に、会わせたいんです。」
「………………。」
「その為に、僕はユウトさん達に協力します。」レン
黙って聞いていたユキハルは一度目を瞑って開くと、懐から竹で出来た筒を取り出す。
その筒の蓋を開け、筒をひっくり返して取り出したのは、テンジョウ家の言葉が側面に書かれた一本の筆。
レンはそれに見覚えがあるようだった。
驚いた表情をしながら「お父様……。」と呟く。
ユキハルは竹の筒を投げ捨てると小さな声で言う。
「リrズジィiアu。」
すると、ユキハルが右手に持っていた筆は約80㎝ほどに巨大になり、その筆の柄の部分を肩に掛けながらユキハルが言う。
「ならばよい。無理やりにでも。この戦線から離脱させてやろう。」
それを見たユウトは、コートの中から両手に拳銃を取り出して構えた。
「じゃあ、僕達が勝ったら、貴方がここに居る理由を教えて貰えますね。」
(この人、今、僕"達"って言った?!)レン
ユキハルとやり合うつもりはなかったレンも、緊迫する場面に流されるように鞘から剣を抜く。
そのまま両者睨み合う。
戦の火蓋をきったのは、ユウトの発砲音だった。
バンッバンッバンッ
ユキハルに向かって撃たれたそれは、ユキハルが懐から出した紙切れから展開されたバリアのようなものに阻まれる。
(やっぱり。護符も準備してますよね。)ユウト
その最中にユキハルは筆で空中に文字を書いており、その文字から光の玉のような攻撃が複数個、湾曲して向かってくる。
ドンッ
それをユウト、レンがそれぞれ躱わし、ユウトは避けながらもユキハルに向かっての発砲をやめない。
バンッバンッバンッ
全ての射撃が護符のバリアに阻まれるが、その間に
(ユキハル様!……すみません……!!)
身を屈めてユキハルの側まで距離を詰めたレンが更に踏み込む。
「天下流・浪士の太刀・懺悔!」
しかし、それを高く飛んで躱わしたユキハルは空中にいながら筆を動かすと、青白く光る文字の上に降り立ち、空中に留まりながらユウトとレンを見下ろした。
ユキハルが言う。
「天下流など、くだらんものまで覚えよって。」
「………………。」
ユウトが特殊な拳銃を構える。
バシュッ
拳銃から射出された物は、電気を帯びながら広がり、まるで銛の先のように繋がった状態の3本の槍がユキハルを狙う。
ユキハルが懐から護符を取り出す。
ガチンッ
護符からバリアが展開される。そこに突き刺さるようにして槍が残る。
「?!」ユキハル
ビリリリリッ
ユウトが射出した特殊な銃弾は稲妻のような電気を周囲に放出してユキハルの周りが強烈な光を放つ。
その様子を、レンは少し焦ったように、ユウトは真剣な面持ちで見つめる。
「………vヴmレrizミcs。」
光に目が慣れてない中、ユキハルの声が聞こえる。
次の瞬間、カチンッと金属が壊れる音と、上から真っ直ぐ下に細い光の線が複数伸びて地面に突き刺さると、縦横無尽に動き出した。
ユウトとレンが、光の線を躱わす。
避けきれずに服に当たると、その部分がまるで薄い紙きれのように裂けた。
暫く逃げ回ると光の線は更に細くなって消えていく。
ユウトとレンが見上げる。
ユキハルは変わらず、青白く光る文字の上から2人を見下ろしていた。
ユキハルが言う。
「そんなものか?」
それにユウトが、コートの中から新たな獲物を取り出しながら答えた。
「まさか。まだまだこれからですよ。」
こちらの戦いも、始まったばかり。
――――――――――
<マリ,story>
お洒落なカフェは混み合っていたが、座れないほどでなく、コーヒーを2人分頼んで2人掛けの席に座る。
マリはコーヒーに口をつけてからタトラスに言った。
「聞いてもいい?」
「何でも聞いてぇ。」
「ラスターさんとは知り合いだったの?」
「あぁ。いんや。僕は知らない。繋がってるのはマシロだけだよ。」
「……。ラスターさんは、ジャンクを自在に操っているようだった。それって、何でだと思う?」
「………。」
「………。」
「………。」
「……何かあるんだ。」
マリの言葉に、タトラスの肩が跳ね上がった。
あまり、隠し事なんかは得意では無いらしい。
珍しくタトラスがマリから視線を外して言う。
「僕は知らない。本当に。まじで。」
「でも、検討ならついている。」
「………。」
マリが言う。
「…………テンジョウ ユキハル。」
ガタンッ
「ああ!ご、ごめ!」
「大丈夫です。」
タトラスがビクついた振動でテーブルが揺れてコーヒーが少しこぼれた。
タトラスはそれを丁寧に拭き取りながらマリに言う。
「え?……なんで?マリさんもしかして、あのナユタとかいうやつの力、コピーして使ってたりする?」
「違います。これを言ってたのは、イーネです。」
「あはは……。観察、分析、仮説…。たまたまだろうけど、良く当たるね。あの子は。」
「当たり。なんですね。」
「うぐっ……。」
それを見たマリは、ここが押しどころだと言わんばかりに、イーネとした会話をタトラスに説明する。
「イーネは、私とイーネが最初に出会った、出会い方から疑問を持ちました。ラスターが仕組んだ事じゃないかって。私とイーネは、ジャンクに襲われている場所で出会ってます。つまり、誰かが意図的に私とイーネを合わせたのだとすると、ジャンクをコントロールできる必要がある。」
「………。」
「その後で、イーネはテンジョウ家に行っています。テンジョウ家には、生きたまま捉えられたジャンクがいたそうです。それは、テンジョウ ユキハルの力で捉えられていた。実際、九尾。アルバラもテンジョウ ユキハルの力に捉われていました。最低でも、テンジョウ ユキハルの力は、ジャンクに対して無傷での影響を及ぼすことが分かります。」
「………。」
「元々テンジョウ家にいた人からも聞きました。テンジョウ家の言葉と呼ばれているものは、他者への強化、捕縛、服従などに向いているそうですね。」
「………。」
マリの言葉に観念したのか、タトラスは「はぁ。」と短い溜め息をついて答える。
「マリさん。詰める時だけ敬語やめて?怖いから。」
「そんなつもりは…。ごめんなさい。」
タトラスが話す。
「……。僕は仲間内で争うのは嫌いだ。でも、マシロとタイヨウは喧嘩してるし。喧嘩っていうより、タイヨウが一歩的に怒ってる気もするけど…。」
「……。」
「まぁ、タイヨウとマシロが喧嘩してて、タイヨウが、グループ作ったでしょ?タイヨウとユキハルとログスで。"血清の代わりに、タイヨウに力を貸すように"って。」
「話しは聞きました。」
「分かる?"血清の代わりに、タイヨウに力を貸すように"。」
「…?。それがどうし…。」
タトラスが不自然に繰り返した言葉に初めは気づかなかったマリがハッとして表情をして言う。
「………。"マシロさんにも、協力してはならない訳じゃない"……?。」
タトラスがうんざりしたような顔をして言う。
「ユキハルも不器用だよねぇ…。ほんと。……。そんな契約の穴をついて、ユキハルに迫ったのはマシロだよ。それに当時、ユキハルも困ってたみたいだし…。ユキハルとマシロは取引したんじゃない?。知らないけど。」
「取引…ですか……。つまり、ユキハルさんはマシロさんに協力するかわりに、マシロさんからも何か貰った……。」
「え?ユキハルの奥さんの事しらないの?」
「えっと…。知りません。」
「あー。なるほどね。ま、そこは僕の口から話せないけど。プライベートな事すぎるしね。」
「……。」
コーヒーを啜るタトラスの様子をマリはじっと眺めていた。




