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15-④ それぞれの相手

 <レン・ユウト>

 

 ユウトとレンが滑った先は奈落だった。


 2人とも、何とか指がかかる程度の突起にぶら下りながら落下するのを耐えている。


 ユウトが言う。

 

「すっごい怪しいけど、あそこしかないね。」

 

「…………ですね。」

 

 指をかけている出っ張り部分は横に長くなっており、5mほど先には人が1人立てるくらいのスペースのコンクリートの床が見える。


 その前には不自然な茶色い扉。まるでそこに誘っているようだった。


 罠にも見えるが、行く道はそれしか無い。


 ユウトは軽々と5m横移動すると、コンクリートのスペースによじ登って立ち上がった。


 その一連の動作を、ぶら下りながら見ていたレンは思う。

 

(指に全体重がかかった状態で約5m横移動!……。想像以上にキツい!この人、平然とやってみせたけど

………。)

 

 更にユウトは何の躊躇もなく、茶色い扉を開けて中に入った。その様子に見たレンは引いていた。

 

(わ……罠としか思えないその扉を前に、着いた瞬間開けるか?!普通!!…………見ためは普通そうなのに!…………絶対異常者だ!!)

 

 すると、ユウトは扉から出てきてレンに言う。

 

「うん。進めそうだよ。こっちこれる?まぁ。落ちたら死ぬから、死んでも来て。」

 

「…………わ……分かってます……。」

 

 長く宙吊りになれば、指先の力は無くなっていき、移動が絶望的になる。

 

 レンは一回一回、確実に横に移動していく。


 コンクリートの床に近づくと、ユウトがサポートするように、レンの衣服を上から鷲掴んで引き上げ、2人はコンクリートの床の上に到着した。


 ユウトによって、茶色い扉は既に開いている。


 中を見ると、それはまるでバックヤードのようで、細い通路の左右の壁には、配管やら電線やらが剥き出しの状態で複雑に通っていた。

 

「行こうか。」

 

 ユウトを先にしてレンが後をついていくような形で細い通路を進んでいく。


 床は金網で、カツンカツンと高い音が響いていた。


 金網の下にも、無数の電線のようなものが通っている。


 暫く歩いて、先頭をいくユウトが言う。

 

「うん。行き止まりだね。」

 

 ユウトの前は完全に壁になっていた。ここまで来る途中で、横に分かれる道もなかった。

 

(千里眼。)

 

 レンが能力を使って周囲を確認する。

 

「…………壁?だけ?……。」

 

「何か見えた?」

 

「いえ……。何にも……。この周りは分厚い壁です。ちょくちょく、ダクトのような物が通る穴はありますが……。人が行くには難しいと思います……。どーゆー構造なんでしょう……。無駄としか思えない……。」

 

「考えても仕方ないんじゃない?建築者しか分からないでしょ。…………上は?」

 

 細い通路の上は高く吹き抜けて、天井が見えないほどだった。レンは上に視線をやる。

 

「…………あ。部屋がありそうです。…………でも、あんな高い所……。そこまで行くのにどうやって……。」

 

「上に部屋があるんだね。よいしょっ。」

 

「え?」

 

 レンの言葉を聞いたユウトは躊躇う事なく、壁に伝ってる電線やらに体重を掛けて登り、すでに、少し上のダクトの上に立っている。


 ユウトはレンを見下ろして言う。

 

「登るしかないでしょ?結構高い場所に部屋あるの?足元気をつけてね。」

 

「足元…………って言うんですか?……それ……。」

 

「僕の行った所、後からついてきて。出来るだけ優しい道は選ぶから。」

 

(…………登る場所じゃない場所に躊躇なく登って……そもそも漏電とか、足元にした、配線やダクトが壊れる心配とかないのか?……あと、優しい道って何……。)

 

 レンが引いた顔をしてると先を行くユウトが言う。

 

「ん?行かないの?僕先に行って見てこようか?」

 

「…………いえ。……行きます。」

 

 そこから、ユウトが先を行く道順を後を追うようにレンが付いていく。


 暫くがたった頃、レンの息が少しあがってくる。

 

「大丈夫?……ここのダクトで一回休憩しよっか。」

 

「…………はい。」

 

 大きなダクトによじ登って座り込む。


 もう、落ちれば死ぬ高さまで来ていた。


 今も、あくまでもダクトの上にいるため、油断はならない。


 レンは思う。

 

(身体能力どうなってるんだ?!この人!……軽々先に行くけど、筋力もバランス感覚も、並みの人間じゃなかったら確実に落ちてる!……僕も……少なくとも数回、この人の助けが無かったら落ちてた!……。そもそも、こんな場所で、人の面倒見ながら登ってる時点で尋常じゃない……。…………まだ部屋は先だ……。気を引き締め……。)

 

 レンが思考している最中、ユウトがレンに話しかける。


「レン君って何で敬語なの?」

 

「………………………………え?あ。はい?」

 

「僕に対して敬語で喋るでしょ?」

 

「あ……。ああ。まぁ。年下……なので……。」

 

「いくつ?」

 

「…………18です。」

 

「ええー?意外ー。」

 

「…………別に意外では無いでしょ……。」

 

 レンのその言葉への返事はなく、またユウトの方からレンに声をかける。

 

「何で僕達に力を貸してくれたの?ユキハル様の命じゃないのに。」

 

「………………。」

 

「そもそも、ユキハル様、随分長いこと留守なんだっけ?何で?」

 

「…………知りません……。何も聞かされて無いですから……。ユキハル様が居ないので、僕の独断でやっている事です。それに僕、テンジョウ家の言葉も多少は使えますから……。貴方達からの依頼があったでしょ?……ユキハル様が居ないので、先延ばしになってましたが……。最悪、その依頼も、僕でこなせるので……。」

 

「ふーん。」

 

(……………………え?会話終わり?…………もっと聞くことあるんじゃないのか?この人……。)

 

 レンがそう思っても、ユウトが口を開く様子は無い。


 暫く沈黙が続く。


 そのまま数分がたった時、ユウトが言う。

 

「休憩できた?いける?」

 

(この人、会話の内容とかどうでもいいのか?)

 

 レンの返事を待たずにユウトが立ち上がる。


 レンも立ち上がって、意を決して様子でユウトに声をかけた。

 

「あ!あの!」

 

「ん?はい。」

 

 レンは少しだけ躊躇う様子を見せてユウトに言う。

 

「な、ナズナお母様に会いに来て下さい!!」

 

「…………………………。え?」

 

「あ、会いたがってます……。あなたに……。僕の前では隠してるようですが……。多分……。」

 

「ナズナお母様?君のお母様?…………ナズナさんが?」

 

「はい。そうです。」

 

「………………父親はユキハル様?」

 

「はい。そうです。」

 

「…………………………。僕の母もナズナで、父もユキハルなんだけど……。」

 

「知ってますよ。」

 

 レンは、『何当たり前の事を言っているんだ』という顔をしている。ユウトは徐々に言葉を理解して、驚きの表情に変わっていく。

 

「…………お………………。僕の……。弟?」

 

「そうです。え?知らなかったんですか?」

 

「…………………………いや……。知ってた……。」

 

「知らなかったでしょ。何の嘘なんですか。適当に返すのやめて下さい。」

 

「………………ごめんなさい。」

 

「いや。いいですけど。あと、お姉様が結婚しましたよ。ユウトさんも知ってる人です。」

 

「え。嘘。」

 

「うちは皆んな、核師を婿や嫁にしてるんですし、年頃だったら知ってる人になるでしょ。」

 

「……………………行こっか。」

 

「考えるの放棄しないで下さい。」

 

 レンの言葉に返事せずにユウトは登りはじめる。


 仕方なくレンもその後についていく。


 会話なく登り進める。


 雑談して進むほど、甘い道のりでは無かった。


 落ちたら死ぬ高さを感じながら、足場になりそうでならない場所を筋力と身体能力だけで進む。


 暫くたって、片手でぶら下りながら、レンの為の足場を確保しようと周囲を模索しているユウトが上に視線をやって言う。

 

「扉だね。」

 

 今いる場所よりも10mほど高い場所。


 配線などがひしめく壁に突如として不自然な扉が見える。扉の前に足場などなく、その扉に入るには、壁をよじ登ることが必須の構造。


 ユウトがレンに声をかける。

 

「あそこまで頑張ろうか。怪しいけど、登り続けるのも限界あるし、ここにいても出口ないしね。」

 

「…………はい。」

 

 扉が見えてからは更に過酷になり、ほんの僅かな突起にに指や足をかけて、殆ど身体能力を頼りに登る。


 扉の真横まで来る。

 

「これ。この扉開かなかったら最……悪……。」

 

 余裕綽々に登っていたユウトも、文句が出るくらいには過酷な道のりで、ユウトが扉のドアノブに手をかける。

 

 ガチャリ

 

 扉は簡単にあいて、体を滑り込ませるようにユウトが部屋の中にはいり、レンも、ユウトが部屋の中から引き込むような形で部屋の中に入った。


 2人ともが部屋に入った瞬間に地べたに倒れ込んで「「はぁぁぁあああ……!」」と大きな息を漏らす。


 手足の筋肉が震えるほどに疲労していた。

 

「はぁ……はぁ……。貴方が居なかったら死んでました……。感謝します……。」

 

 レンがユウトに声をかけてユウトが答える。

 

「結構無茶したよねぇ……。僕、クライミングとかパルクール得意な方だけど……。あー。しんどかった……。」

 

「…………自分でも無茶してるって分かってたんですね……。」

 

 そんな2人に、聞き覚えのある声が言葉をかけた。

 

「来たか。」

 

 その声に驚いて、まだ震える足など気にせずに立ち上がって振り返った。


 レンが呆然として言う。

 

「………………なぜ…………貴方が…………ここに……。」

 

 そこには。


 テンジョウ家の家紋の入った袴を着た。


 テンジョウ ユキハルが居た。

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