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15-③ それぞれの相手

 <マリ,story>

 

「ご馳走様でした。美味しかったです。」

 

「いいえー。簡単なものだから。」

 

 マリがカウンターから、オープンキッチンの中にいるライナックスに声をかけると、ライナックスはマリの食器を下げながら優しい笑顔を見せる。そのやり取りのすぐそばで

 

「いいから黙って一曲聞きなさい?!それでチャラにしてあげんだから!!あー!!なんて優しい私!!さっさとそのマイク返しなさいよ!!」ララン

 

「ごめんってばー!やめて!ギターで叩こうとしないで!大事なものでしょ?!」マシロ

 

「あんたぶったたけるなら、この子も本望よ!!」ララン

 

「もー!マイク無しでラランが僕に勝てる訳ないでしょ…………って。あ。やば。」マシロ

 

「きぃぃいいいいい!!!なんてムカつく奴なのかしら!!逃げてばかりじゃないで向かってきなさいよ!!!核師に恐れられてるマシロ様なんでしょ?!!こっちこいやーーー!!!」ララン

 

「きゃーーー。やめてー。怖いよー。誰か助けてー!」マシロ

 

 床と空中をフラフラと移動するマシロをラランが追いかけ回しながら大きな声での口喧嘩が止まない。


 (いつまでするんだろう……。)なんてマリがその光景をぼーっと見ていると、マリの視界にタトラスが顔を覗かせて入り込む。

 

「あ!マリさんここに居たんだ!こんにちは。昨日は眠れた?」

 

「…………。いつもこんな感じなの?」

 

「ん?何が?」

 

 タトラスの反応を見る限り、ラランと呼ばれるゴスロリ風女性とマシロの喧嘩はいつもの事のようだった。


 何も気にしていないタトラスは、許可もなくマリの真隣の席に腰掛けて言う。

 

「その服選んだんだ!すっごく似合ってる!マリさん好きそうだなぁって思ったんだよね。」

 

「ありがとう。わざわざ買いに行ってくれて。助かりました。」

 

「いやいや。いいのいいの。……あ。……やっぱりよくないかも?」

 

「え?」

 

 タトラスがニヤリと笑うと、ライナックスが会話に先回りするように釘をさす。

 

「タト!あんた!そーゆー感謝につけ込んだりするのは良くないからね!」

 

「な!うるさいなぁ。ほんと口うるさいかぁちゃんなんだから。」

 

「かぁちゃんちゃうって言ってるやろ?!あんたみたいな息子、ほんまに願い下げやわ!」

 

 ライナックスはそう言いながら別の家事業務に移ったらしかった。タトラスは、またマリを見て言う。

 

「マリさん。良ければ、これからデートしません?この街のこと知らないでしょ?僕、案内しますよ。」

 

 実年齢80歳のウインクはアイドルのように可愛らしかった。

 

 ――――――――――

 

 タトラスに連れられて建物の外に出ると、すぐに下に降りる階段が続いていて、上は岩のドームに覆われていた。


 階段を照らすライトもあるが、岩のドームは所々に穴が空いていて、昼間の暖かい日差しが入って幻想的な雰囲気がしている。


 タトラスの後について、階段を下りきると、そこには。

 

「…………綺麗。」マリ

 

 一言でいうと、海の上に浮かぶ街が広がっていた。


 今まで居た建物は街の中でも随分と高い所にあるらしく、街全体を一望できる。


 街のあちこちの建物が、まるで海に浮かんでいるようで、手漕ぎのボートで道を行き来する人々の様子が見えた。


 その光景を見つめるマリにタトラスが声をかける。

 

「綺麗でしょ?ここは、水の都アトランティア。この前、新婚旅行で行きたい街ナンバーワンになってた。」

 

「へぇ……。街の名前、聞いたことはあるかもしれません。」


 すると、タトラスが少し先を行きながら言う。

 

「マリさん、食後のコーヒーまだでしょ?いい喫茶店知ってますよ。」

 

 マリはタトラスについていく。

 

 街の中はカラフルで可愛らしいのに、どこか繊細で、遊び心と優雅を兼ね備えた建物が並ぶ。


 いつどこを歩いても、常に隣に水路があり、時々ボートを使って対岸に渡ったりした。

 

 街を歩いていると、すれ違う人々が「タト先生こんにちはー。」「あ。タト先生だ。」「タト先生、今日は休み?」と、タトラスに挨拶しながら過ぎていく。


 それに対してタトラスは丁寧に「こんにちは。」と返したり、人によっては「体調大丈夫ですか?」なんて返しながら歩いていた。


 その様子を見ていたマリがタトラスに声をかける。

 

「知り合い、多いんだね。」

 

「まぁね。僕はこの街で医者をしてるんだ。僕以外にも医者はいるけど。なんせ僕。優秀だからさ。あ。医師免許を取ったのは最近だから、まだ新米なんだけど。自分で診療所を開いてるよ。今度、職場、見にくる?」

 

「あ。いえ。ご迷惑になるので。」

 

「そんなことないのにー。」

 

 タトラスはヘラヘラした態度は変わらない。マリが言う。

 

「タトの能力って、治療できるんだよね?力を使って治してるの?」

 

「たしかに、僕の力は治癒の力を含む能力だ。でもね。基本的に力は使わない。ちゃんと診察してお薬なんかで治療してるよ。あー。まったく使った事が無いといったら嘘だけどねぇ。ほら。ペーペーが診療所開いたりする時ってさ。上の奴らを黙らせないといけなかったりするし?」

 

「じゃあ、いざという時だけ?」

 

「うーん。どーだろーねー。」

 

 変に言葉を濁すタトラスの話し方にマリは疑問を覚える。タトラスは少し真剣な顔をして話し出した。

 

「マリさんは、この世の全ての病が無くなれば、どーなると思う?」

 

「え?……うーん……。みんな、幸せになれそうですけど…。」

 

「僕はそうは思わない。むしろ逆だと思うんだ。」

 

「逆?」

 

「確かに、医療の進歩によって昔は死ぬ病気だったものが、今では死に至らない病は沢山ある。そして、僕みたいな治癒能力者は、今現代、治療法が無いと言われる病も治す事が出来るだろうね。」

 

「………。」

 

「でもね、人類が一つの病を克服すれば、それを凌駕する新たな病が産まれている。僕らの祖先は単細胞生物だ。半永久的に生きられるそれらは、絶滅を恐れて多細胞となった。でもそこから、病と戦う歴史が始まった。」

 

「……難しい話し?」

 

「あー!ごめん!男の1人語りってつまんないよね!!マリさんって聞き上手なんだからさぁ!」

 

「あ。いや。今の話しは聞きたいの。でも、私に理解出来るのかなって。」

 

「え?聞いてくれるの?」

 

「もちろん。むしろ聞きたい。」

 

 タトラスは心の中で叫んでいた。


 (なんてイイ子!!)


 少しおじいさん的なその思考に気づいて突っ込める人物なんて居ない為、タトラスは話しを続ける。

 

「そお?じゃあ…。でも、これは、治癒の能力を持つ者、全てが悩む道だと思うよ。病というのはね、ある意味で必要なんだ。世界から病という物が消えてしまったら…。考えたく無いね。僕はとても闇深い話しだと思うよ。」

 

「どうして?」

 

「……それは人の進化を止めるだろう。むしろ人を退化さすかもしれない。そもそも、人という物が絶滅するかもね。」

 

「……。」

 

「"治癒"の能力。今の現代においては、とても罪深い力だと思うよ。だって、僕達は人の命を選べる。まるで神のまがいものだね。だから、医師免許なんて取るつもりなかったんだけど、歳とるとさぁ…。地に足つけたくなるというかぁ…。安定したいとかいうかさぁ…。やんなっちゃうよねぇ。」

 

 タトラスは最後は冗談っぽく笑い話しで済ませたようだった。


 マリはベリーの顔を思い浮かべながら話しを聞いていた。


 (ベリーは…。どう思ってるんだろう…。)


 そんなことを思っていると、お洒落な外観のカフェの前について、タトラスが扉を開けてエスコートしてくれる。

 

「どうぞ。」

 

「……ありがとう。」

 

 カフェの中に入る。

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