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14-⑤ 秘密にしたいこと

 <ベリー・アエツ・アルバラ>


 「きゃぁぁぁああああ!」

 

 カタンッ

 

 滑り台の先が突然終わり、ベリーが空中に放り出される。


 地面は遥かに下。

 

(お……!ち……るっ……!)

 

 ベリーがそう思った時だった。ふわりと、後ろからお姫様のように抱えられる。視界の端に天使の羽。


 アエツが言った。

 

「お嬢さん。大丈夫で……。」

 

「アエツ!あんた!滑ってる時からあんたの力で何とかならなかったの?!さっさと助けなさいよ!!」

 

 アエツはキメ顔の後、いつもの様に自分にツッコミを入れる予定だったのが、助けた瞬間にベリーに怒鳴られ、「す、すまん……。」と情けない返事をする。


 アエツは地面に降り立ち、ゆっくりとベリーを降ろした。


 アルバラはいつの間にか、近くの地面にちょこんと座ってる。

 

「ここ、どこよ。ダルいわね。」

 

 2人と1匹が居たのは、とてつもなく広い空間。


 天井に向かって長い、長方形の通路にも見えるその空間は、全てが白で統一され、壁、床、天井、全てが光沢感のある大きなタイルで出来ていた。


 床から天井までは、中規模マンション1つが収まるんじゃないかと思う程に高く、左右共に行き止まりに見えるが、その行き止まりまで行くのにも、歩けば10分-15分はかかりそうだ。


 片方の行き止まりは、同じような白いタイル張りで、右下に小さな赤いランプが見える。


 もう片方の行き止まりは、床から天井、横幅、目一杯に大きな黒い門が聳え立っていた。


 すると、『ジジ……ジー……。』と機会音の様なものがした後、館内放送のような形で、ラスターの声が響く。

 

『あ。あぁー。聞こえてますかね?アエツさん、ベリーさん、アルバラ様。』

 

「………………。」

 

 誰も言葉を返さなかったが、ラスターは続けて話す。

 

『えー。皆さんがいるその場所。僕は実験場Bと呼んでいます。』

 

「………………。」

 

『ポイントとなるのは、やはりその広さ!大規模な実験ができますよねぇ。』

 

 誰も言葉を発さないが、ラスターは続ける。

 

『その部屋の出口は、そこの赤いランプの下です。但し。条件をクリアしないと、開かないんですよね。』

 

「条件だとぉ?」

 

 アエツが言葉を返したが、どうやら、こちらの声がラスターに届いている訳では無いようだった。


 ラスターが続ける。

 

『僕ねぇ。結構もったいない精神が強いんですよぉ。やっぱり実験を重ねると、どうしても端材が出たり、使えない廃棄物が産まれたりするんですけどね。そーゆーのを、何とか出来ないかなぁって考えまして。結局、ほら。有るじゃ無いですか。形の悪い野菜を纏めて安くして売ったりするの。あーゆー感じですかね?一個じゃ使い物にならないので、寄せて集めて、一つにしてみたんですよ。まずまずの出来だとは思うんですけど、実践で使ったことは無くて。なので、今回、初下ろしです!拍手!!』

 

 パチパチとラスターが拍手する音が響く。

 

『無事に処分してくれたら、ゲートが開くように設しました。そーゆーギミックありきじゃないと、どこの部屋も使えないので。ミッションクリアでちゃんと扉は開きますよ。ここの設備の仕様を決めてるのは、僕じゃ無くて、"不思議の国"の能力ですから。では。どうぞ。ごゆっくり。』

 

 プツンという音と共に、ラスターの声が止む。


 ベリーが言う。

 

「要は、ジャンク討伐して外に出ろ。ってこと?」

 

「そーゆーこったな!」

 

 すると、黒くて巨大な門が重低音を響かせながらゆっくりと開いていく。門から開いたわずかな隙間から冷気が流れ込み、それが風となって、ベリー、アエツ、アルバラの体に当たって流れていく。


 ベリーが言う。

 

「…………何なの……あれ……。」

 

 アエツがベリーの一歩前に出た。


 アエツの背中には白い羽。アエツを囲むように半円状に白い銃火器が並び、戦闘体制が整えられている。


 アエツが言う。

 

「お嬢さん。戦闘向きではないんだろ?下がってな。」

 

 門が少しずつ開いていくと共に、門の向こう側に居る"何か"の全容も見えてくる。

 

 [グチュグチュグチュ]

 

 その"何か"は、よく分からない異音を発していた。

 

 巨大な施設の上下左右、目一杯に巨大な体。


 全体的にゴミの様な色をしていて、巨大なミミズと表現したらいいのか、(うごめ)く紐状の物を連らならせてその体を構成していた。


 形だけで言えば、モップみたいな犬と例えることが出来るが、そんなに可愛らしいものではない。


 さらには顔面がなく。大きな口が1つ。いや、本来、口がある所に1つと、その下と、顎にかけて、蛇腹のように3つの口が連なっていた。


 間違いなく、それは巨大な化け物。

 

「門が開き切るまで大人しく待ってるほど。お人好しでは無いなぁ。」

 

 アエツのジレが、キリキリと音をたてながら光を溜める。

 

大天使の裁き(ギルティ)。」

 

 眩い閃光と発射音の後、アエツの攻撃は化け物にあたって化け物の体を削りとる。

 

 [グチュグチュグチュ]

 

 しかし、化け物に大きな反応は無く、削りとった部分は、周りの肉が寄せ集まるように動いたかと思うと、完全に修復されたようだった。


 ベリーが言う。

 

「攻撃が効かないの?……。」

 

「いや。効いてない訳じゃ無いだろう。ラスターの言葉から推測するに、やつはデカい1体じゃない。小さな個が集まった集合体。文字通りの寄せ集めって事だな。」

 

「そ、そんなの……。どーするのよ……。」

 

「あいつが再起不能になるまで削り取る。それしか無いだろう。長い戦いになりそうだなぁ!…………えーっと。アルバラは……っと……。」

 

 アエツがアルバラの方に視線をやると、アルバラは目が合わないようにぷいっとそっぽを向く。

 

「……手伝ってくれる様子は無し。だな。」

 

 門はどんどん開いていく。


 すると、ベリーが突然「あー!もー!」と言いながら、頭をワシャワシャと掻きむしってイラついている素振りを見せたかと思うと、アエツの背中に両手の平を当てた。


 アエツが驚きながら言う。

 

「おお?!ど、どした?」

 

「黙って!前向いてて!」

 

「お……。おう。」

 

 ベリーはアエツの背中に手を添えながら言う。

 

「私。戦えないから!…………だから。せめてもの……。それにあんた!パジャマって!団服でもないのよ?!………………あとは……知らない!」

 

「ど、どした?……。」

 

 すると、ベリーは呼吸を整えるように一息吐くと、添える手に力を込める。

 

「………………………………誘惑(ゆうわく)()()片思(かたおも)う 貴方(あなた)片時(かたとき)(つむ)ぐだろう 守りの葉 守りの香り 忘れるな (かい)貴方(あなた)に……。」

 

 その様子に驚くような表情をしていたのはアルバラだった。


 アエツはほんの少しだけ、体の変化を感じたが、訳が分からずベリーに言う。

 

「お……お(まじな)い……か?」

 

「強い攻撃は防げない。……でも、少しの攻撃なら殆ど無傷で済むから。…………過信はしないで。気持ち程度のものだから。」

 

「おお!そんなこと出来たのか?!凄いな!…………技名にしてはちと長くないか?」

 

「うるさい。」

 

 もうすぐ門が開ききる。


 それを待たずして、化け物は3つの口を大きく開けた。それぞれの口の中に紫色の球体が見え、それは徐々に大きくなっていく。

 

「くるぞぉ!」

 

 その球体から発射された紫色の線をそれぞれが左右に分かれて回避する。


 線が当たった床や外壁は、真っ黒に焦げ付いていた。

 

「ベリー逃げろ!」

 

 一度回避したからと止む攻撃では無かった。


 紫色の線は3方向バラバラに動きながら、逃げたそれぞれを執拗に追い回す。

 

「ちょっ…………!嘘でしょ……っ!」

 

 ベリーは治癒の力に特化しており、戦闘面の能力値は極端に低い。

 

(やっぱり、ベリーを抱えながら……!)

 

 アエツがそう思った時だった。

 

『あぁ。本当に煩わしい。』

 

「きゃあっ!」

 

 ベリーは何かに跨っていた。


 それは、人1人を背中に乗せれるくらいの大きさに、大きくなったアルバラ。

 

「あ、アルバラ?!」

 

「おぉ!結局いい奴じゃないかぁ!アルバラぁー!」

 

 ベリーを背中に乗せて、アルバラは化け物の攻撃を回避する。


 ベリーはアルバラに声をかけた。

 

「あ。…………あんたにも(まじな)い……かけてあげる……。」

 

『おぉ。それは光栄だねぇ。』

 

 ベリーはアルバラに、アエツにかけたのと同じ言葉をかけた。

 

 そして、門は完全に開く。

 

 [グチュグチュグチュ]

 

 巨体が4足歩行でゆっくりと前進し始め、それと共に、その重みのせいか、僅かに施設が揺れているような感覚がする。

 

 そしてまた、化け物の口の中から3方向に紫色の線が放たれた。

 

「同じ技はくらわないなぁ!さ!試してみようかぁ!」

 

 アエツは背中の羽で自在に飛びながら化け物の攻撃を回避する。隙をみて、全てのジレを右腕に纏わせて大きな大砲の形にすると、その銃口を化け物の体に接着させた。

 

堕天の咆哮(デビルクラッシャー)。」

 

 甲高い音と破裂音がしたが、化け物の体に変化は無い。


 少しの時間差で、化け物のお腹側から肉片のようなものがビチビチと溢れた。

 

「差はなさそうか。」

 

 アエツは瞬時に大砲の形から、羽と銃火器の形にジレを変形させて化け物から距離を取ろうとする。


 その時。

 

[ブチュブチュブチュチュ]

 

 化け物の体の一部が、挽き肉の柱の様な形でアエツに伸びる。

 

「うおっ!」

 

 それをギリギリで回避すると、その挽き肉の柱は、壁に当たって飛び散った。


 飛び散った一部がポトリとアエツの腕に落ちると。

 

 ジュッ

 

 挽き肉に触れた部分から僅かな煙が上がる。


 アエツはすぐさま肉片を振るい落として患部を確認する。

 

(パジャマが溶けてる……。が。腕は異常なし。…………いや。本来なら火傷のようなものでも喰らってたのかもしれないが、これは…………。ベリーの技のお陰か。)

 

 すると、今度は化け物の体の至る所から挽き肉の柱が壁に向かって伸び、壁に当たる衝撃で四方八方に肉片が飛び散る。

 

『小賢しい。』

 

 アルバラは挽き肉の柱を完全に避けたものの、降りかかる肉片までは避けきれずに、技を繰り出す。

 

耶狐炎裂(じゃっこえんさい)。』

 

 アルバラの口から青い炎のようなものが噴き出されると、降りかかる小さな肉片を燃やし尽くす。


 アエツとアルバラが反撃に出る。

 

大天使の下す矢(ジャッジメント)。」

瑠璃天惺羅(るりてんせいら)。』

 

 アエツの技によって、化け物の真上から無数の弾丸が降り注ぎ、さらには、アルバラの頭上で光る青白い球体から、彗星のような攻撃が、化け物の下から命中する。

 

 ドドドドドドドドッ

 

 化け物に攻撃が当たって弾ける音が響き、それと同時に化け物の体を構成するグチョグチョとした肉が削り取られていく。


 しかし、化け物は一切ひるむ事なく、再び口の中から紫色の線が放たれ、アエツ、アルバラは攻撃を回避する。

 

「ぜんっぜん!まだまだ!だなぁ!!」アエツ

 

『臭く、汚く、醜い。気分を害する。不愉快極まりない。』

 

「あ、アルバラ!あんた戦ってくれるの?!」ベリー

 

『花に枯れてもらっては困るからな。不本意だ。』

 

「…………はな?」ベリー

 

 今度は化け物の体の至る所から、体の一部が盛り上がったかと思うと、鞭のような槍のような、細長くしなる線が何本も伸びる。


 それらは縦横無尽に振り回され、施設の壁に当たると壁のタイルに大きな亀裂が走った。


 その鞭の様な攻撃もアエツとアルバラは自在に躱わしていたが、そこに、口から放たれる紫色の線の攻撃も加わる。

 

「回避の難易度上がってきたなぁぁ!!」

 

『つかまっておけよ。落ちて死ぬぞ。』

 

「わ……分かってる!!」

 

 それでも、回避と同時に攻撃もこなす。


 この1人と1匹は、そのクラスの存在。

 

天使の射る矢(シューリア)。」

耶狐炎裂(じゃっこえんさい)。』

 

 [グチュグチュグチュ]

 

 体から伸びる鞭のような攻撃、口から放たれる紫色の線の攻撃、そして、挽き肉状の柱が伸びて、施設の壁に当たって弾ける。


 逃げる場所が無い。


 とてつもなく大きな部屋のなずなのに、敵の体から出る攻撃で埋め尽くされていく。

 

(…………こんなの……!どうやって…………!)

 

 それは、強者でなければ諦める光景。

 

大天使の裁き(ギルティ)。」

瑠璃羅燈妖(るりらとうよう)。』

 

 ドドドドドドドドッ

 

 アエツとアルバラの周囲で爆破音と煙が上がり、視界が悪くなる。


 そんな中でも、敵の肉片が粉々になって飛び散っていくのが分かる。

 

 ズザッ

 

 極端に視界の悪い場所から、アエツとアルバラが飛び出すと、化け物と一旦距離を取るように離れた。

 

 アルバラはニヤニヤとしながら言う。

 

『久しぶりに背筋の伸びる戦いよ。興を冷ますなよ。』

 

「くぅっ!俺も、こんなに本気(ウルトラ)なのは麒麟以来だぜ!!いんや。あの時の事を思ったらまだまだぁ!!」

 

『麒麟?………………ククク。アハハハハハハ!!そうか。貴様がレティを!』

 

「お??」

 

 その時、初めてアルバラはアエツに興味を持った様だった。アルバラがアエツを見て言う。

 

『お前、名は何と言う?』

 

「……アエツ……ダイヤモンドだ!」

 

『………………気色悪い名だな。』

 

「何でだよ!!ちょークールだろうが!!」

 

(こいつら……無駄口叩けてるの異常でしょ……。)

 

 [グチュグチュグチュ]

 

 化け物の攻撃が止むことは無い。少し距離をとったはずのその場所も、すぐに戦場に変わる。

 

 [グチュグチュグチュ]

 

 戦いはまだ、始まったばかり。

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