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14-② 秘密にしたいこと

 トラヴィスが地面に突っ伏す。


 シミシミと音をたてて、トラヴィスの体は地面にめり込むようにへしゃげている。トラヴィスのいる場所だけ、重力が何倍にもなったかのようで、「ゔっ!……ぐっ…………!」とトラヴィスが苦しそうな声を出す。

 

「トラヴィスさん?!」マリ

 

「だめ!マリさん!近づいちゃ!!巻き込まれる!!」タトラス

 

 他のメンバーが助けに入ろうとしたが、マリを静止するタトラスの声で踏み留まる。

 

 トラヴィスの体ほミシミシと地面に押し付けられるようで、その力が強すぎるあまりに課長室のフローリングの床が割れている。


 イーネがマシロに声をあげる。

 

「なっにしてんだ!てめぇ!」

 

「僕の予想だとね……。」

 

 マシロが話し出した途中だった。


 トラヴィスの声が徐々に大きくなって聞こえる。

 

「ゔ……ゔん……!ぐにににに……!うぬぬぬ……!ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!!!!」

 

 床が割れる程の上からの圧力に反発して、トラヴィスは四つん這いの姿勢、片足立ち、両足中腰、全身の筋肉を盛り上がらせながら少しずつ姿勢を変えていく。

 

「まって………………。うそだろ……。そんな奴あるかよ……。」タトラス

 

「…………。」

 

 タトラスが驚愕の声を漏らす。ついには。

 

「ふんぬぅぅぅうううううう!!!!」

 

 トラヴィスは完全に立ち上がり、それと同時にトラヴィスへのマシロの技は解かれたようだった。

 

「ふっっかーーーつ!!!」

 

 それを見たタトラスが驚きの声をあげる。

 

「…………マシロのグラニティ食らって立ち上がるぅ?!筋肉馬鹿とかじゃ説明つかねぇぞ?!なんだよあいつ!!」

 

「…………あの方の力が流れてる。それを無意識下で利用してるね。ま。それは才能とも言えるかな。」

 

 マシロはこちらには聞こえない声量で呟いていた。


 トラヴィスがマシロを指差して言う。

 

「よーし!まずは俺の勝ちぃぃ!!ばっちこーい!!」

 

「ばか!トラヴィス!やめとめ!お前、もー鷹じゃないんだぞ?!いっぱんじん!」アエツ

 

「一般人離れした光景を見た気がしますが……。」マリ

 

「脳みそも筋肉で出来てんな。こりゃ。」イーネ

 

 するとパチパチと手を叩いてマシロが言う。

 

「ごめんね。お見事だよ。充分だ。」

 

「待てよマシロ!俺はまだまだいけるぞ!もいっぽんこーい!!」トラヴィス

 

「アエツ。こいつ止めろよ。」イーネ

 

「いやぁ。俺も止められねぇのよ。ユウトじゃないとなあぁ。」アエツ

 

 マシロはこちらのやり取りは気にも止めずに言う。

 

「満身創痍って感じなのは君達に見えるよ。このまま連続で僕達とやり合いたいの?違うよね。」

 

 それに苦言を呈したのは、なぜかタトラスだった。

 

「え?!じゃあマリさんとお別れ?!ええ!マリさん!ちょっとお茶でもしてって下さいよー!!」

 

「いや……何でですか……。」マリ

 

 すると、トラヴィスがマリの顔をマジマジと見だす。その後に、タトラスの顔をみて、またマリの顔をみる。「……トラヴィスさん。なんなんですか……。」とマリがつぶやいた時、トラヴィスが言う。

 

「マリ!タトとお茶してきたら?!」

 

「………………はい?」マリ

 

 トラヴィスの言葉にタトラスが賛同の声をあげる。

 

「お?!まじで?!いいこと言うじゃんチンポコ男君!」

 

 イーネは引いた表情をしてアエツに言う。

 

「おい。アエツ。」

 

「いやー。突拍子もない事を言うのがコイツの良さで、最大の弱点なんだよなぁー。あははは!」

 

 するとまた、トラヴィスが大きな声で言う。

 

「だって、タトってマリの事好きなんだろ?マリがマシロのアジトに残れば、俺たちのスパイになるじゃん!」

 

「敵の目の前でスパイとか言ったらスパイじゃねぇんだよ。そもそも戦力的にスパイというよりは人質だろ。」イーネ

 

「え?!だってタトってマリのこと好きなんだよ?!殺さないでしょ?!ねぇ。タト?!」トラヴィス

 

「勿論。なんならこっちの観光スポット巡ってデートしましょ。」タトラス

 

「………………なんですか。この会話。」マリ

 

 マリの言葉は無視されたまま、トラヴィスは今度はマシロに話しかけたようだった。

 

「それに、マリがタトの彼女だったら、マシロもマリの事殺さないでしょ?」

 

 それに対して、マシロが少し驚いたような表情をして答える。

 

「………………まぁ。タトの彼女って言われるとぉ。殺せないかなぁ。」マシロ

 

「彼女ってー。もぉ。トラヴィスの兄さん気が早いっすよぉ。」タトラス

 

「………………何の話し。これ。」マリ

 

「…………知るか。」イーネ

 

 トラヴィスがもう一度大きな声で言う。

 

「だから!マリがタトと付き合えばいいんだよ!で、マリがマシロのアジトに潜入する!!ね?」

 

「…………………………。」

 

 誰も何も言えず、タトラスだけが、笑顔でマシロ達の居る場所へ誘導するようなジェスチャーを交えて言う。

 

「マリさん!こっちにどうぞ!!」

 

「……………………。」

 

 長い沈黙の後だった。


 マリが口を開いた。

 

「…………ま。いいかな。」

 

「は?」イーネ

 

「トラヴィスの兄さん。恩にきます。」タトラス

 

「だろ?!マリのこと宜しくなー!」トラヴィス

 

 そう言って、空間の切れ目。課長室側とマシロ達アジト側の狭間でトラヴィスとタトラスが熱い握手を交わしている。


 イーネはドン引いた顔でマリに言う。

 

「………………本気で言ってんのか?…………死んでもしらねぇぞ。」

 

「うん。分かってる。その時は、その時かな。」マリ

 

 そこにレンも引いた顔をして口を挟んだ。

 

「お前ら。頭おかしいのか?」レン

 

「俺の事も含めんな。ゴミカスマッシュ。」イーネ

 

 そんな会話がなされる中、マシロも困惑しているようで小声でライナックスに向かって話しかける。

 

「どーしよ。本当に彼女来そうだよ?」

 

「私は知らないよ。あんたが良いっていうからじゃないか。」ライナックス

 

「え。待って。僕いいって言った?」マシロ

 

「今から断ったらタトのやつ、ぶーぶー文句言うよ?私は相手しないからね。」タトラス

 

「ええー……。」マシロ

 

 すると、イーネは収集のつかなくなっていく状況に諦めの思いも込めて「はぁ……。」と深いため息をつくと、自分のパーカーの胸元に手を入れて何かを手繰り寄せる。


 どうやら、細い金のチェーンのようで、パーカーの下にネックレスをしていたらしい。


 自分が身につけていたそれを外すと、マリの首の後ろに手を回して、マリにネックレスをつけた。


 細い金のチェーンの先には、鳥が羽ばたくようなデザインの赤い宝石に金の縁取りが施してある。

 

「これは?」マリ

 

「お守りみたいなもんだよ。」イーネ

 

「あんた。お守りなんか信じるタイプ?」マリ

 

「黙れよ。ちゃんと効果あっから。それ。」イーネ

 

「…………………………ありがと。」マリ

 

 するとアエツが心配そうにヒソヒソ声を出す。

 

「イーネもマリのこと好きなのか?……。」

 

「てめぇら恋愛脳と一緒にすんな。いい加減、訳わからねぇその口閉じねぇとテメェらの首飛ばすぞ。」イーネ

 

「本当に首飛ばした後で言っちゃ冗談にならねぇだろーが!あははははは!!」アエツ

 

 だが、不思議とメンバー全員が強くマリを引き止めることもなかった。


 それは、マリだったからなのかもしれない。


 マリが言う。

 

「………………まぁ。はい。行ってきます。」

 

 そう言って、ゆっくりとした足取りで空間の狭間に足を運ぶ。

 

「どうぞ。マリさん。」

 

 マシロ達のアジト側から、タトラスがお姫様をエスコートするかのように片手を差し出し、マリはタトラスの右手に軽く左手を添えて空間の狭間を跨いで超えた。


 フローリングから、大理石のコツコツとした感触に変わる。


 マシロがマリに微笑み掛けて言う。

 

「歓迎しますよ。マリ・リルベラさん。」

 

「……どうも。マシロさん。」

 

「それじゃあ、他の皆さんにはお引き取り頂きましょうか。」マシロ

 

「「「「?!」」」」

 

 イーネ、レン、アエツ、トラヴィス、それぞれの体の真後ろに等身大の黒い大きな歪みが現れる。


 その歪みは、既にそれぞれの体の一部を絡め取っており、そこを支点に、ずるずると体がその歪みに飲み込まれていく。

 

「何しやがった。マシロ。」イーネ

 

「ただで返すとは言ってないだろ?ラスターに逃げられたらしいから、僕が送ってあげるよ。」マシロ

 

 そんな会話の最中でも、体はズルズルと黒い歪みに飲み込まれていく。


 マリが叫ぶ。

 

「みんな!」

 

「お前の方が敵のど真ん中にいんだぞ。自分の心配だけしてろ。こっちは大丈夫だ。」イーネ

 

「マリ!スパイ頼んだぞー!」トラヴィス

 

「やべぇよ。パジャマのまんまだ俺。あ。マリさん。家族に帰りが遅くなるって伝えておいてくれ!あと、愛してるって…………!」アエツ

 

 イーネ、レン、アエツ、トラヴィスの姿は完全に消えて、黒い歪みも消滅する。


 マリは暫く、皆んなが居たはずの空間を眺めることしかできなかった。

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