27-⑥ 遊ぼうぜぇっ
<タイヨウバイオカンパニー>
外はもう暗くなっていた。
半壊したタイヨウカンパニーの理事長室にはハナ、ジーベル、ダリオ、ユウトがいて、理事長専用のテーブルの前に立っている。
窓際の僅かな出っ張りには、小型犬ほどの大きさのアルバラが、体を細くして座っていて、部屋全体を視界に入れながら、常に警戒しているようだった。
理事長専用の椅子。そこには、堂々と座る、猿の手のオウジの姿。
一緒に来ていた、柴犬の様な耳、鼻、髭、尻尾を持っている男の子は、地べたに座って理事長室の本棚を漁っている。
そして、黒髪に黒い瞳の青年は、1人、理事長室のソファに腰掛けて、つまらなさそうにしていた。
オウジは理事長専用のテーブルにタロットカードを積んで、ペラペラとめくり、まるで意味ありげに配置しながらカードを並べると、手を止めて言った。
「はいはい。出ました出ました。あー。こりゃ厳しいねぇ。受難の相がでてますねぇ。」
薄っぺらい詐欺師のような様子で話すオウジの様子を、ハナ、ジーベル、ダリオ、ユウトの4人は黙って見ている。
オウジは続ける。
「多くの職員が一斉退職。そりゃこんなことあったらねぇ。タイヨウカンパニーの取引先も減る。まぁ、医療の世界に根深いから、すぐに仕事が無くなるってわけやないけど、このままほっといたら倒産するでぇ?ありゃりゃりゃりゃ。大変。医療業界も、働いてる職員も、核師も。あああ。こりゃ。あー。あかんわ。悪いことはいいません?ウチと取引しはった方がよろしいわぁ。」
「…………。」
少し考えれば想像できそうな事態をつらつらと並べ、そんなことが、どうしてタロットカードで分かるのだと問いたくなる発言をする。
オウジは続ける。
「…………テンジョウ家の護符。高値で買い取りまっせ??それだけは。タイヨウカンパニーさんからじゃないと。仕入れできませんしねぇ。」
オウジの視線はハナに向いていた。
オウジの話しは続く。
「…………それに。ウチにも、"核師"。みたいな?優秀な能力をもった従業員がいますんで。……なんや、最近、核師さんの調子が悪いに加えて、色々狙われてはるんやろ?……人材派遣。ええ値段でやらせてもらいますえ?」
そこにユウトが口を挟んだ。
「それなんですけど。どうして猿の手の核師にはハーネスがついてないんですか?」
それにオウジが答える。
「はて?核師?なんのことでっしゃろ。確かに、優秀な能力のある職員ならおりますけど?」
「…………なるほど。」ユウト
どうやらオウジは、政令の僅かな綻びをついて、ノラリクラリと立ち回っているようだった。
ハナが言う。
「……見逃されているのも今だけです。あっという間に、あなたが抱えている核師にも、ハーネスの着用が義務化されますよ。」
それにオウジが答える。
「あぁもぉ。相変わらず頭が硬いねぇ。ハナちゃん。そんなん、そん時なってから考えたらいーのよ。今は今。後は後ー。」
次にオウジに質問したのはダリオだった。
「アルバラとの関係は?どうみても。穏やかでは無い様子だがね。」
それにオウジが答える。
「なーんで僕から説明すんのよぉ。そこにハナおるやん?…………ま。いいわ。僕らは、随分前に九尾の討伐依頼をタイヨウから受けたんよ。」
オウジが続ける。
「『麒麟』『九尾』『猫又』『狒々』。これら全てで"五色獣"って名前が付けられた。4体で、なんで五色獣やねんって?それは、狒々を最後に、もう1体は作成されへんかったからよ。ま、それは置いといて。……五色獣の討伐は、タイヨウの悲願やった。そこから作られた血清に適合すれば、強力な力を得られる。そう思っとたんやろなぁ。」
オウジの話しを黙って聞く。
オウジが続ける。
「なんで九尾が狙われたか。それは単純に。……弱いから♡」
『……黙れ。』
アルバラがイラついている声が響く。
しかし、それを何の気にも留めてないオウジが続ける。
「『黄色のレティグラディエシュ』『青のアルバラエシュリオン』『赤のニーニャセレフィエス』。因みに狒々は白色。名前は無いんやけどね?さぁて。この、それぞれに当てられたカラー。何に対応してるのか。もぉ、君達になら分かるとちゃう?」
それに答えたのはユウトだった。
「色色岩……。僕ら核師も、それぞれに灯る色が違う……。」
オウジが言う。
「御名答♡色はグループ分けみたいなもん。ある程度の性質をもってる。これは僕の勝手な偏見で言うてるけど。青色ってゆーのはねぇ。自信家で自分勝手。中身よりも見た目重視。自分が大事で、他人は二の次。って奴がおおいよのよ?」
まるでアルバラのことを言っているようだった。
オウジが続ける。
「力の性質も、攻撃特化やないのよ。そこをタイヨウに狙われた。後一歩で討伐って所まで追いやったんやけどね?ギリギリで逃げられてしもて。…………その後まさか、テンジョウとタイヨウに泣き寝入りして、"レティ"の情報をタイヨウに売り、テンジョウの飼い犬となることで、生き延びていたなんてねぇ。」
アルバラが、牙を剥き出しにしてオウジを睨みつけていた。
その話しを聞いたユウトは、ソファで暇そうにしている黒髪の男にほんの少しだけ視線をやる。
(……その……。アルバラを討伐寸前にまで追いやったってのが……。この男……。)ユウト
今度は、ジーベルがオウジに質問する。
「そこにいる柴犬みたいな奴は、ここにいた核師として確認が取れている。ケンラ・コタロ。組織種だ。ただ、子供っぽい性格、落ち着かない態度。……社員としての立ち振る舞いが困難で退職した……。だが、そこの黒髪の男は何者だ?過去の核師の記録を遡っても、存在しない能力者……。」
それにオウジが、とぼけた様子で答える。
「ぼぉくぅー。自分の社員の個人情報?勝手に流すようなことはしませんのでぇ。大事な大事な従業員なんですよぉ。詮索するなんて気持ち悪いこと。やめて頂けますぅ?」
それにジーベルは、イラついた表情で顔をしかめてみせるだけだった。
その時。
ピリリリリリッ
ハナのポケットの中で着信音が鳴る。
ハナは通信端末を取り出して耳に当てた。
その端末からは、周囲にいる人間にも分かるくらい、何とも言えない、異音が発せられていた。
だが、人の声がしないのか、ハナが怪訝な顔をして呼びかける。
「…………。レオラフさん?…………。レオラフさん?」
電話の向こうの相手はレオラフらしかった。
暫くは、通信端末の向こう側から聞こえる異音だけが小さく響く。
暫くして、レオラフが話したようだった。
見る見るうちにハナの顔が、不安と絶望をまざたような表情に変わる。
何かの緊急事態であることを、ジーベル、ダリオ、ユウトが察した。
オウジは、ハナの様子を見て、何が面白いのかニヤニヤと笑っている。
コタロと呼ばれた柴犬っぽい男の子と、黒髪の青年は、我関せずといった様子で、こちら側を気にもとめていないようだった。
ハナが、レオラフが話した内容を、一部抜粋して復唱するかのように言う。
「…………アッシュカスター家の敷地内で……。第1ユニットに敵襲…………。…………相手は……。現段階では仮定となっていますが…………。おそらく……。」
沈黙のまま、ハナの言葉を待つ。
「………………第5ユニットがコンタクトに成功したはずの…………。ゼットです………………。」




