26-② 猿の手でもかりたい
全員が耳を疑うようなニュースだった。
ケイトが思わず、イーネに声をかける。
「い、イーネさん?!これってっっ!!!」
「す、直ぐに会社に戻るべきでは?!」
そう言ったのは、エルヴァ・クリムゾン。短髪のタガイのいい男性だ。
それにイーネが言葉を返す。
「感情論で喋ってんじゃねぇ。黙れ。」
「ちょっと……!そんな言い方……。」
そう苦言を呈したのはリディア・ノクシス。パーマのかかった髪はかきあげながら片側に全て寄せていて、大人っぽい雰囲気がある。
リディアの苦言に弁名したのはケイトだった。
「ちょっ。ちょっと待ってくださいっす!!イーネさんはマジで口悪いっすけど!頭はきれるんでっ!!まじ口悪いっすけど!!!!」
「………………。」
ケイトの発言が頭にきていたイーネだが、反論する暇があるなら思考をまわす。
(ジャンクの生息数、生息場所まで割れてる。それはおそらくガドの仕業だ。あっちは正直いって、何でもありだからな。……ジャンクが会社を襲撃ってきたってのは、自然発生の事故では無い。何かしらの故意だ。……ガドの仕業?…………何の為に……。いや。そもそもガドの目的が割れてねぇのに……考えるだけ無駄だな。……アンカも、ガドと"一言も言葉を交わしてねぇ"っつってた。…………マシロは、ガドと会う為に俺ら姉妹を利用した。……それでノコノコ出てきたガドは……。昔の仲間を集めている。その中のタイヨウが、核師に不利益な統治主総大令を出し……。更にはガドみずからルアを攫って、マリが返してきた……。…………………………あーダメだ…………。まじで何がしたいんだ?……。でも、もし、この襲撃がガドによるものなら……。こいつら連れて会社に戻っても、死人を増やすだけだろう……。アンカのいる第1ユニットは……。もうフライトしてる頃か……。ハーネスがある今、アンカ達は助けにいけねぇ……。………………会社は今……。どーなってる……。)
黙ったまま考え込むイーネを、他の団員は見てるだけだった。
そこに、ニュースが不穏な動きを見せて響く。
『"これ!リアタイ?!中継?!生放送?!!"
"ちょっと!あなた?!!"
"すんませんねぇ!!第2、第3、第4が会社にいる!!応戦できてる!!あと!ハナが応援要請もだしてる!あー……?!あと!ルアちゃんは無事だぞー!!"
"あなた!いい加減にしてっ!"』
それは生中継に割り込んだアエツの声だった。
イーネが呟くように言う。
「ははっ。ナイスだな。アエツ。」
イーネは、他の団員、運転する事務員に聞こえる声で命令を下す。
「俺らはこのまま予定通り"ネオンシティ"に向かう。」
――――――――
飛行機から降りた第1ユニットは、広場のような場所で円形になって立ち話しをしていた。
コヨリが言う。
「会社、大丈夫なんかねぇ。戻らんでもええん?」
次に話したのはトラヴィスだった。
「ダリオもポッツォもユウトもいるんだぜ?!あいつらならやれるだろっ!!」
リーダーであるレオラフは、顎元に右手を置きながら暫く考える様子をみせて、アンカに声をかけた。
「アンカはどう思う。」
それにアンカが素直に答える。
「もし、この襲撃がガドによるものなら。」
「……。」
「全員死にます。俺らが今飛行機で戻った所で間に合わない。」
アンカの言葉をメンバーは黙って聞いていた。
レオラフがアンカに言う。
「その。ガドという人物によるものだとは思うんか?」
「どうでしょうね。このタイミングで、この襲撃。意味分からないんで、あいつの仕業だとは思えない。ってのが俺の意見ですかね。」
それを聞いたトラヴィスが言う。
「んじゃあジャンクが勝手に動いたのかよ!!ジャンクによる核師の復讐?!!とかってことかぁ?!」
それにレオラフが答える。
「あり得へんですね。ジャンクにそういった機能はない。テンジョウ ユウトが敵側ならまだしも、今は完全にこちらの味方。ジャンクという生物を意図的に操れる者はいない筈や。」
「だったら……。誰からの襲撃なんじゃろう……。」
そこで全員が沈黙した。
そこが分からないからこそ、恐ろしい話しだった。
リーダーであるレオラフは暫く考え込み、メンバーに方向性を指し示す。
「会社には第2、第3、第4ユニットがいる。正直いって、戦力としては充分。ハナによる応援要請もあると言っていた。…………この采配でもし、全員が死亡するようなことがあるのなら……。」
「…………。」
「…………今、俺達が戻った所で手遅れになっている可能性が高いだろう。」レオラフ
「…………。」
「敵の素性が知れないんだ。俺達が弔い合戦をするにしても、とにかく、この首輪がある限り話しにならない。」レオラフ
「…………そーやねぇ。」コヨリ
レオラフが続ける。
「ハーネスからの脱却。この任務は重要だ。俺達は、このまま任務を遂行する。」
――――――――――
<タイヨウカンパニー 生体研究科-γ班研究室>
ぎょぉぉぉぉおおおえええええええっ
ズドドドドッ ズガガガガガッ
外では絶え間ない攻防戦が続いていて、その地響きが研究室の中まで響いていた。
ジーベルは、電話でイージスの人間とやり取りをしていた。
ジーベルの近くでは、ベリーが周囲を警戒しながら護衛をしている。
「……………………………………………………は?」
ジーベルが呟いた。
この戦闘音の中でも、その言葉はハッキリと聞こえるくらい。
ジーベルの心の底からの声だった。
電話の向こうのイージスの人間。カナエが話す。
'だぁかぁらぁ?!!この映像だけじゃぁ?!ジャンクかどうか分かりませんよねぇぇぇぇええええ?!もっと会議検討しないとぉぉぉおおおおおお!なんでぇぇ!許可はできませぇぇぇええええええんっ!!'
ジーベルが怒りのこもった声で言葉を返す。
「聞こえてんだろ……。この戦闘音が…………。ジャンクか分からないだぁ?…………。今!この瞬間に!!人が死ぬかもしれないんだぞ?!!」
'核師の能力で人が死んだらどーすんだよ!ばぁぁぁあああか!!!てめぇらは危険人物だぞ?!そっちこそ!分かってんのかぁぁぁよぉぉおおおおお!!!'
「…………っ……………………!!!」
(こいつら………………!最初から…………!使用許可なんて出す気がなかったんじゃっ…………………………!!)
電話の向こうのカナエが続けて言う。
'んじゃあ。また。あ、ら、た、め、て。ご連絡らくいたしますねぇぇぇええええ?'
そうして電話は一方的に切られた。
ジーベルが電話を投げ捨て、からだ全体で怒りを露わにする。
ジーベルは、近くにいるベリーに向かって言った。
「…………………………………………能力の……使用許可が…………。降りない…………。」
「聞こえてたわよ。………………あんたが悪いんじゃない。」
「………………。」
ぎょぉぉぉぉおおおえええええええっ
ズドドドドッ ズガガガガガッ
戦闘音が響く。
ベリーが言う。
「ハーネス効力下では、私はまるで戦えない。さっさと逃げるわよ。」
「………………。俺はここで……。イージスからの連絡を……。」
「馬鹿じゃない?」
ベリーが強い剣幕でジーベルに言う。
「あんたも気づいてんでしょ?あいつら、使用許可なんて出す気がないっ!……幸いにも、敵は雑魚ばっかよ。充分応戦できてる。それに、あんたがもし死んだら……みんな困るでしょ。……逃げるわよ。」
「…………。」
ジーベルは憤りを感じているのか、両手の拳を強く握り締めながら、小さな声で「……わかった。」と答える。
ベリーを先に、ジーベルが後に続くようにして、2人は会社内から避難する。
ベリーは避難しながら考えていた。
(…………身体能力だけでも"あの子"に変わればまともに戦える…………。だけど……。こんな状況で変われば、きっと"力"を使ってしまう……。………………"あの子"には変われない…………。)




