26-① 猿の手でもかりたい
空からかけられた無数の光の梯子。
その全てが、タイヨウカンパニーの敷地内に接着していた。
梯子から降りてきた黒い筋は、全て魔物に変わる。
タイヨウカンパニーの職員は、年に2回、敷地内に不審者が侵入した想定の避難訓練と、敷地内でジャンクが暴走した場合の想定の避難訓練をおこなっている。
が、一度に多量の魔物が出現すれば、毎年の訓練なんてものは役にたたず、社内は大きな混乱に陥っていた。
敷地内に、一般の社員の悲鳴が響く。
『耶狐炎裂。』
2トントラックほどには大きな魔物と、同じサイズにまで大きくなったアルバラが、1体の魔物を狩った。
アルバラは、引き裂いた魔物の肉をバリバリと咀嚼し、その後に吹き捨てる。
『不味い。一文の価値も無いな。そしてやはり。その世の中ものではないもの。』
「…………あ。……あ。」
アルバラの近くでは、腰の抜けた女性社員が、恐怖に染まった表情でアルバラの事を見ていた。
アルバラは周囲を見わたし、最後に女性社員の方に視線を向ける。
(運の悪い人間が、何人か死んだか。……人間とは脆いものよ。)
『早くここを離れろ。私の気は、そう長くないぞ。』
すると女性社員は驚きながらも立ち上がり、「……ありがとう。」と言って、会社の外に向かって足を進めた。
アルバラが、その女性社員の後ろ姿を眺めているうちに、周囲は魔物によって取り囲まれる。
ぎょぉぉぉぉおおおえええええええっ
ズガガガガガッ
その魔物達に弾丸が降り注ぐ。
当たり前のように会社の建物の壁面を走るユウト。
その腰には、武器を盛りだくさんにくっつけたスタックベルトが半円状になびいていた。
アルバラの近くに、降ってくるようにして姿を現したユウトが言う。
「お礼は言わないけど、このまま戦ってほしいなぁ。」
『もう興味はない。私は昼寝する。』
「美味しい鹿肉準備するよぉ?すきなんでしょ?」
『…………………………リンの氷もつけろ。』
「つけるつける。」
『…………。』
ぎょぉぉぉぉおおおえええええええっ
魔物が、アルバラとユウトに飛びかかる。
『瑠璃天惺羅。』
ズガガガガガッ
アルバラの頭上で光る青白い球体から、彗星のような攻撃が降り注ぐ。更にはユウトによる射撃が周囲の魔物の体を貫く。
あっという間に、周囲に生き物がいる気配が無くなった。
ユウトが言う。
「なんだ。弱いね。」
『雑魚にも程があるな。』
この調子であれば、簡単にかたがつきそうだと感じていた時だった。
空からかかる光の梯子に沿って、黒い筋が降ってくる。
ぎょぉぉぉぉおおおえええええええっ
黒い筋は、地面に触れた瞬間に膨れ上がり魔物に変わる。
ズガガガガガッ
ユウトは光の梯子に向かって射撃した。しかし、光の梯子は傷一つ付かず、攻撃を透過しているようだった。
その証拠に、梯子の後ろの壁にはくっきりと弾痕が残っている。
ユウトが言う。
「アルバラなら、あの梯子。破壊できる?」
それにアルバラが答える。
『触れることができん。物体というものでは無いようだ。それこそ、あの梯子自体が呪いのようなもの。どうすることも出来ん。』
「………………つまりそれって。」
ぎょぉぉぉぉおおおえええええええっ
周囲にいる魔物の数は増えていく。
「…………無限湧き。…………ってこと?」ユウト
ぎょぉぉぉぉおおおえええええええっ
化け物が再び、アルバラとユウトに襲いかかる。
『瑠璃天惺羅。』
ズガガッズガガガガガッ
まるで巻き戻しをして再生したかのように、先程と全く変わらず。アルバラとユウトが周囲の魔物を蹴散らす。
――――――――――
イーネをリーダーとする第5ユニットは、イーネとケイトを入れ、総勢12名。
いつもの装甲車のような車を2台出動させ、任務地に向かっていた。
イーネの乗る車には、イーネとケイトを入れて8名の団員が乗っている。
運転席の後ろになる位置にイーネが座り、その横にケイトが座る。それ以外は、各々間隔を空けて座っていた。
突然ジーベルに通達されたチーム編成。リーダーは、入団してから派手な噂の絶えないイーネ・フィズニア。15歳。得体の知れない幻種。
イーネ達姉妹の"呪い"。つまりは、今の姿と"別の姿"を持っていることについては、一般の団員には明かされていない。知る者は色色灯の修行を受けた者と、ジーベルやハナといった、ごく一部の人間に限られていた。
新しいチームで行動するに際して、イーネは一言も言葉を発しておらず、終始無愛想な態度をとっている。
ハーネス着用後であり、イージスのあの対応。そして、幼いリーダーは何も話さない。
行動を共にする団員は、不安の表情を滲ませていた。
そして、そのことに焦っていたのは、何よりもケイトだった。
(こ…………!これじゃあ……!イーネさんの良さが伝わってないっす…………!!…………いや。まぁ。入団早々にマネージャーの両腕切り落としたらしいですし?!入団直後にジャンクの討伐を成功させたと思えば、ジャンク亜種に関しては100以上を討伐……!そもそも、きょうだいみんな幻種で登録されてるのも変ですしっ……!年齢詐称してて、蓋開けてみたら15歳…………!!なにより………………!態度わるっっ……!いや!前からなんっすけど!俺とかは慣れたけど……!こんな感じのリーダーいやっすよね?!いや!めっちゃ頼りになるんですよ!!めっっっちゃ頼りになるんですけど!イーネさんって…………!!!)
たえきれなくなったケイトが、イーネに話しかける。
「い、イーネさんっ!!な、なんかっ!自己紹介とか?!そーゆーのしません?!」
「いらねぇ。やるならお前ら勝手にやれ。」
「…………………………………………。」
他の団員からは、『よくぞ話しかけてくれた!』といった雰囲気が漂ったが、有無を言わさないイーネの言葉に、またお通夜のような雰囲気が流れる。
それでもめげずに、ケイトが声をかける。
「で、でも!お互いの能力の事とか!!知っといた方がいいですし?!」
「俺は把握してる。だからお前らだけで共有しとけ。」
「な、何いってんすかー!今さっきチームの采配聞いたとこじゃないっすかっ!流石のイーネさんでもー……。」
「セラ・フィオランツァ。感覚種。味覚に特化し、成分の解析、天候の予見、人の精神状態や体調も把握できる。エルヴァ・クリムゾン。組織種。皮膚表面の硬質化。防御性能が高い。ヴァン・グラディウス。組織種。神経伝達速度が人より速い。元軍人で、核師だが、得意とするのは対人戦だ。フェリス・ノクターン。感覚種。夜目が効く。全く光のない場所でも視認可能だ。リディア・ノクシス。感覚種。特殊な声の持ち主で、その声の解析はまだ不十分だが、まともに交渉なんかすれば、リディアの思い通りに操られる。」
「………………。」
全員が息を呑んだ。
ケイトは、今名前を呼ばれたであろう他の団員の顔色を伺う。
皆が、事実の通りに言い当てられているようで、ケイトと視線が合うと僅かに頷いてくれた。
ケイトが言う。
「こ、この一瞬で……。お、覚えたんですか?」
その言葉にイーネは、気怠そうな顔をして答える。
「あ?前からだよ。いきなりナユタとかいう嫌な能力者と任務いかされたからな。それ以降、所属してる団員の能力は全員把握してる。」
「………………。」
「…………さ…………さすがすぎます……。イーネさん……。………………か!!!……かっけぇぇぇぇえええええええ!!」
「黙れドブネズミ。」
すると、1人の団員が恐る恐る片手を上げた。
フワフワの茶髪に困り眉。華奢な体つきの、セラ・フィオランツァだった。
それに気づいたケイトが、セラに向かって「ど、どうぞ!」なんて声をかける。
「あ…………。あの…………。り、リーダーのことは…………。ななな何て……。よ、呼べば…………いいですか…………?」
「…………あ゙?」
「ひゃぁぁあ!あ!ご、ごごご!ごめんなさいっ!…………そ、その…………!と、歳下のリーダーとか…………は、初めてで…………!」
「………………。」
イーネが顔を顰める。
その顔には(どう考えても最初にする質問じゃねぇし、こっちからしたらどーでもいいこと聞いてんじゃねぇ。任務のこととか、もっとまともな質問考えてからその口開けよクソ女。)と書いてあるのだが。それを察知したケイトがイーネの口を手のひらで塞ぐ。
「あー!あー!ダメっすよ!!リーダーなんだから!初対面キラー!だめっす!!絶対!!」
「……………………………………何でもいいんだよ。呼び捨てでいい……。俺もお前ら呼び捨てにすっからな。」
「おお!できるじゃないっすか!イーネさん!!!」
パチパチとケイトの拍手が響く。
イーネは不快感を露わにしながら言う。
「ケイト。深夜の見張り番てめぇだからな。」
「うっす!!」
「…………。」
何故か、他の団員達には「案外やっていけるかも。」なんて、少し朗らかなムードが漂っていた。
そこに、運転席から事務員が声をかける。
「あ、あの!ニュースなんですが……!これ。聞いてもらえますか……?!」
少し焦りのこもった声だった。
返事を待たずに、事務員はニュースの音量を大きくしていく。
『タイヨウカンパニーに対し、ジャンクによる襲撃が発生しています。このタイヨウカンパニーは周辺地域とも密接に繋がりがあり、大きな爆発音などもあいまって、周辺一帯も大きな混乱に陥っています。現地からの映像では、タイヨウカンパニー内部でジャンク討伐に向けた動きがあるとみられ、断続的に大きな爆発音や銃声が確認されています。また、安全確保のため、タイヨウカンパニーからは職員が次々と避難しており、現場は非常に緊迫した状況です。』
「?!!!!」




