25-② 首輪
突然、見知らぬ声が話しかけてきた。
アンカとジーベルは声がした方に視線をやる。
勝手に開け放たれた部屋の扉からは、ゾロゾロと十数人ほどが入ってきていた。
軍人が式典で着るような、真っ白の軍服に身を包みながら、全員が銃を所持している。
アンカとジーベルの目の前、2メートルほど離れた所で、その集団は足を止めた。
中央で先陣をきって歩いていた男性は、フワフワの茶髪に、重い一重の細い目。少しふっくらした頬に、丸い顔。犬っぽい顔をしたその男性が言う。
「初めまして。ユウイチロウ・ユウサクと申します。"イージス"の"統括長"に就任しました。本日は。挨拶を。と思いまして。ジーベルさん。」
男の挨拶に、ジーベルが反応する。
(…………こいつの名前……!第十二国……そっちの地方のものか…………?!)
ジーベルが言葉を返す。
「…………………………ご足労を……おかけしたみたいで……。」
それに、ユウイチロウと名乗った統括長が言う。
「素敵な団服ですねぇ。……ですが、能力者に武器ホルダーなんてのは不要では?特に"彼"は。一晩で数千体のジャンクを討伐した強者でしょう?」
ポンチョの下から見える、太ももにかけての腰ベルトを見て言ったようだった。
アンカは、ユウイチロウの発言から、イージスにアンカ達姉妹の"本来の姿"の情報が渡っていないことを察した。
アンカが言う。
「今日は"弟"の変わりの試着で。最近、思春期なのか、手がかかって。」
それにユウイチロウが答える。
「そうですか。…………見る限り。準備は万全のようですね。明日からの討伐任務にも。問題なく行ってもらえそうだ。」
「明日?」
ジーベルは怪訝な顔をする。
ユウイチロウが続ける。
「残存するジャンクの数だけでなく、生息地域も割れているんです。討伐に動かない方が不自然では?」
「……………………。ですがまだ、イージスからの能力使用許可に関するプロトコルが決まっていませんよね?」
「決まりましたよ。」
すると、ユウイチロウはポケットから黒い小さな何かを取り出し、ジーベルとアンカに向けた。
それは小型のカメラのようだった。
ユウイチロウが言う。
「ジャンクと会敵したら、このカメラで撮影して下さい。それを持ち帰ってもらい、こちらで会議検討を行った上で、使用許可をだします。」
「………………………………………………………………は?」
返事というには長い間をあけて、ジーベルの声が地面に落ちるように響いた。
ジーベルは話しが理解できていないままの驚いた表情をし、アンカは鋭い視線をイージスに向けている。
ジーベルが言う。
「………………"持ち帰る"?…………。会敵し、ジャンクの生態が分かる距離で、能力も使用せずに"引き返せ"……と………………?」
「ええ。」
ユウイチロウはにこやかに言う。
「…………っ…………!そんなことっ………………!」
ジーベルが思わず立ち上がり、強い見幕で講義申し立てをしようとした時だった。
カチャ
安全装置の外された拳銃の銃口が、ジーベルの眉間に触れている。
ユウイチロウの横に居たイージスの1人が、ジーベルとアンカの目前に、片手に拳銃を構えて立っていた。
焦茶色の髪は男性にしては長く、モジャモジャのパーマがかかっていてセンター分け。目の下に深い隈があった。
その男が言う。
「文句言える立場かよぉ?テメェらは黙って俺らに従え。ワンちゃんは、ご主人様にさからっちゃだめだろぉぉおおお?」
「………………っ…………!」ジーベル
イージスの制服には、金のネームタグがあった。
その男のネームタグには、カナエ・カナサと書かれている。
カナエが言う。
「あはぁっ?!ここでテメェの脳ミソぶっぱすれば!核師のポンコツさがより際立つかなぁ?!!」
「………………っ………………。」
ジーベルの額には汗が滲んでいた。
そこに、アンカが横槍を刺すように言う。
「……。その銃。使わない方がいいですよ。」
「あぁ?!」
カナエは不満そうな声を上げ、自分が持つ拳銃の様子を確認する。
銃口部分がドロドロに解けて固まっていた。
カナエは、アンカに不服そうな視線を向けて言う。
「…………イージスの許可無しの能力使用……。」
「それ。明日からですよね。」
アンカが、カナエ、ユウイチロウ、その後ろに控えるイージス達にも視線をやって言った。
「……俺さえ良ければ、イージスそのものを"ポンコツ"にしてもいいんですかね?」
部屋に緊張感が走る。
アンカ1人を相手に、勝てる者はここにはいない。
「チッ!異常者がっ!」
カナエは不満を露わにしながら、使えなくなった銃を下ろした。
同時に、反対の手が、僅かに不審な動きを見せる。
その時、
「カナエ。」
ユウイチロウの言葉に、カナエの動きがピタリと止まる。
アンカとカナエは睨み合ったままだ。
ユウイチロウが言う。
「ではまた明日。」
そう言って、ユウイチロウが後ろを向いて歩き出すと、他のイージス達もゾロゾロとそれに付いていく。
まだアンカを睨みつけたままのカナエも、諦めたように振り返ってユウイチロウの後について行く。
「…………覚えておけよ♡」
不審な言葉を残して。
イージス達が部屋から去り、アンカとジーベルだけが残る。
ジーベルが言う。
「…………あいつらっ…………!……核師を生かす気がないんだ………………!ジャンクの討伐で死のうとも、討伐後のホープで死のうとも、どっちでもいいと思ってやがる…………!!!」
ジーベルは不快感を露わにして奥歯を噛み締めた。
ジーベルが続ける。
「…………編成を大きく変えるか……。幸い、核師の采配やジャンク討伐に関する作戦等は、こちらの権利になってる…………。…………イージスとジャンクから、団員を守る編成…………。同時並行で………………。ジャンクの討伐と………… タイヨウへの接触を担うチーム……。」
ジーベルとアンカの視線が合う。
ジーベルが言う。
「…………頼んだからな。」
――――――――――――――
そして翌日。タイヨウカンパニーの一階。
広いエントランスに、タイヨウカンパニーに所属する全ての核師が集められた。
全員が、真新しい統一された団服を着ている。
そして、その核師達を取り囲むように、総勢数十人の真っ白な正装を来たイージス所属の面々が取り囲んでいた。
核師1人1人の手には、銀の首輪。
そこにいる全員の視線は、前に立つユウイチロウ・ユウサクに向けられていた。
ユウイチロウが言う。
「では。装着して下さい。」
核師全員が銀の首輪を嵌めた。
ピー
一斉に甲高い機械音と共に、ハーネスがロックされる音がする。
まるで儀式のようなこの操作は、テンジョウ家、バレンシア軍でも、同時期に行われた。
ユウイチロウが言う。
「では本日より、ジャンク討伐に赴いてもらいます。ジャンク討伐任務が停滞、遅延することも、貴方達の反逆行為になりかねないことを肝に命じて下さい。」
全員が黙って話しを聞くしか無かった。
ユウイチロウが続ける。
「では、あなた方に、どのようなプロセスで能力使用許可が出るのかをお教えします。」
ユウイチロウはあの小さなカメラを取り出し、さも当たり前かのように雄弁に語る。
その場にいたジーベル、アンカから事前に話しを聞いた数人のメンバー。それらを除いた、全ての核師達の表情が凍りついた。
ジャンクの獰猛さを知っている者ならば。
その言葉が如何に異常なものであるか。
その言葉を、そのまま実行しようとすれば、どのような末路を辿るのか。
想像に容易かった。
意義を唱えたのは、名も知らないどこかの団員だった。
「ちょ!………………!ちょっと待ってください!!そんな!!無茶苦茶です………………!!」
ユウイチロウの表情は、一ミリも変わらないどころか、発言した団員の方を見ることもなかった。
団員が続けて異議申し立てしようとしたとき、隣にいたカナエが、その団員に銃口を向ける。
そしてそのまま。
バンッ
エントランスは上に吹き抜けており、カナエの発砲音が響いた。
全く躊躇のない殺人行為だった。




