25-① 首輪
オープンキッチンのカウンターには、どこから出てきたのか、その高さにピッタリの子供用の椅子が置かれ、ルアはオムライスを口いっぱいに頬張る。
横にはガドが座りながら見守っていて、そこにミョリが近づいて声をかけた。
「ライナックスのごはん。おいしいデショ?」
それにルアが答える。
「おいしいねっ!わぁ。お姉ちゃん、髪の毛の編みこみ上手ー。」
「ええ?うれしいナァ。あとでやってあげようカ?」ミョリ
「うんっ!」ルア
そこにガドが声をかける。
「じゃあミョリ。後でルアとお風呂入ってやって。」
「おふろはいろっカ!」ミョリ
「うんっ!」ルア
ガドが言う。
「今日は疲れたろうし、早めに寝て。明日一緒に遊ぼう。アンカ達が帰ってくるのは、少なくても明後日以降だから。」
それにルアが不思議そうな顔をして言う。
「何して遊ぶの?」
「何でもいいよ。テレビゲームでもボードゲームでも鬼ごっことかでも。何でも。」ガド
それを聞いたマリが「え。鬼ごっこするんですか……?」と小さな声で嘆いていたが、ルアが答える。
「ルア!人生ゲームしたいっ!」
「じゃあ人生ゲームしよう。それなら、ニーニャは銀行役ね。」ガド
『わしもやるのか……。』
その声と共に、カウンターの上には1匹の黒猫が姿を現す。
背中はテントウ虫のような白の斑点模様があり、尻尾の先が三つに分かれている。
それにミョリが驚いて言う。
「ねこ?!……それにいま、しゃべった?!」
今度はルアが、何でもないように言った。
「あ!お喋り猫さんっ!もぉ。どこに行ってたの?」
それにニーニャと呼ばれた黒猫が答える。
『ユウナ達と一緒におったから、わしが居なくても問題なかったろ?』
「そうだけどぉ。」ルア
喋る猫に、ミョリとマリは驚いたまま視線を向けている。
(……喋る動物……。この感じ…………。アルバラと一緒だ……。つまり、あの黒猫……。『麒麟』『九尾』『猫又』。の『猫又』?!…………最強クラスのジャンクじゃ……。)マリ
ルアは、その猫が喋るのが当たり前のように会話をしている。
「猫さんの名前、ニーニャっていうの?初めて知った!ここが猫さんのお家?」
『まぁ。そう思ってかまわん。』
するとルアは小声になって、ニーニャに話しかける。
「ルアね。本当は、ほんのちょびっとだけ心配だったの。でも、猫さん。…………ニーニャがいるなら大丈夫って思えたっ!」
それにニーニャが言葉を返す。
『安心しろルア。ここに、ルアが怖がるものは何一つとしてない。ゆっくり休み、沢山あそんでもらいなさい。』
「へへっ。」
ルアは安心しきった笑みを浮かべて、オムライスを食べ進めることにもどったようだった。
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"私達"バランシア"は君達のような"核師"に協力すると約束するよ。悪いが覚えていてくれ。秘書のハナさん。"
それはログスが生前に残した言葉。
ハナは理事長室でジェネレルと電話越しに会話をしてた。
ジェネレルが言う。
'能力者の抑制、もしくは排除が目的ならば、血清が"破棄"では無く、全て"イージス"のものになるというのは、実にきな臭い話しだ。"
「ええ。」
ジェネレルは続ける。
'かといって、イージスの許可無しに能力を使用すれば、自分達の首を絞める。ジャンクの討伐が進まないことも。許さないだろう。"
「……。」
'対ジャンク、核師に特化という点では、そちらの方が優れている。かえって私達は、対人、自衛の手段を提供しよう。'
「ありがとうございます。テンジョウ家の協力も問題なく得られそうです。」
ハナが言葉を続ける。
「では、目下のところの道は。もう一度、タイヨウとコンタクトをとり、統治主総大令の取り下げ……。少なくとも、改訂を強いること。」
'…………。過去に、一度出された統治主総大令が取り下げられたことは無い。前例のない戦いになりそうですな。'
「…………。」
ハナが言う。
「数手……。いや、一手間違えれば広がるのは仲間の死体です。…………。不憫なお願いとは存じますが……。」
'……。'
「共に。茨の道を進んで頂きたい。」
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ジーベルの研究室にアンカが居た。
男性の姿をしたアンカは、黒い特殊繊維でできた真新しい団服を着ている。
少しゆとりはありながら、体のラインに添ったズボン。ショート丈の黒のブーツ。上半身の長袖シャツは裾をズボンに入れ、その上から複数の収納がついたベストを着ている。それとは別で、収納のついた腰ベルトをしていて、太ももにかけて固定されている。
まるで特殊部隊のような無骨さを感じるその装備は、その上から、両腕が出せるタイプの黒のポンチョを羽織ることで、一気にスタイリッシュな洋式の正装のような雰囲気を醸し出す。
アンカが言う。
「デザインもジーベルさんが?凄いですね。」
それにジーベルが言葉を返す。
「うちの核師だけじゃない。テンジョウ家、バレンシア軍の核師も統一の団服になるからね。それなりに気を使ったんだよ。」
「核師の為……。というか。これはもう、ほぼ軍服ですね。」
ジーベルが嫌そうな顔をして言う。
「実質的に異能が使えなくなるんだ。バレンシア軍全面協力のもと、本格的な軍事武器を装備することになってる。……ハナもやるよな。どーやって政治家達を黙らせているのか。」
「"記憶"の能力でしたっけ?」
「記憶の継承と"記憶の保存"。"忘れられない"ってのも大変だろうが、ある意味で、色んな人間の弱みでも知ってんのかね。」
アンカが身につけている団服は、収納スペースが空の状態だが、このスペース全てに、軍事武器である銃やナイフといったものが収納される。そう考えれば、なかなかの重量感であり、完全武装といえるものだった。
ジーベルが言う。
「で。どうなんだ?アンカとイーネの分。問題ないか見たいんだよ。」
すると、アンカの周囲に僅かな赤い光りが過ぎたかと思えば、アンカの姿が女性に変わる。
それから服の感覚を確かめてアンカが言う。それは柔らかく優しい女性の声。
「うん。問題ないと思いますよ。」
「君達2人だけは、"それ"で体格が結構変わるからな。ま。問題ないなら良かったよ。」
すると、アンカはまた男性の姿に戻る。
ジーベルが言う。
「イーネは、男の姿でいることで力の均衡を保ってるらしいから分かるんだが、アンカはどうして、基本はそっちの姿でいるんだ?」
それに、男性の姿をしたアンカが答える。
「うーん……。そうですね。…………俺ら。こんなに行ったり来たり、自由にできるようになったのは、すぐじゃ無いんですよ。」
「……はじめは、"本来の姿に戻れなかった"って意味か。」
「御名答で。その時の……。癖。みたいなもんですかね。」
「癖。ねぇ。」
「…………まぁ。あとは……。」
アンカは少し考えて言葉を続ける。
「その時世話になったやつが。ちょっと手のかかるやつだったんで。」
「…………………………?」
「アンカ・フィズニアも一緒だとは。これは偶然。一度見れて良かったよ。」




