24-③ 猶予
ルアはガルダの港に着いていた。
目的とするタイヨウバイオカンパニーは山手側にある。
ここから、バスや電車で向かおうと、ルアは港の職員に声をかけていた。
「すみません。"たいようばいおかんぱにー"に行きたいんですがっ。何に乗ればいいですかっ。」
その言葉に、港の職員は驚いた顔をする。
「お嬢ちゃん1人でタイヨウカンパニーに行くの?少し距離があるけど、大丈夫?」
「大丈夫ですっ!」
距離があるといっても、ここはもうガルダの街。
子供1人であることは、さほど気に留められず、職員は言葉を返す。
「それなら、駅前からのバスが分かりやすいかな。少し時間はかかるけど、タイヨウバイオカンパニーまで行くバスがあるよ。ただ、この船着場から駅まで少し歩くけど……大丈夫……?」
「大丈夫っ!」
「うーん……。分かった。ちょっとまっててね。地図書くからね。」
そう言って、港の職員は丁寧に分かりやすい地図をルアに渡して言う。
「ガルダ港水族館の前を通るのが目印だからね。」
「ありがとうございますっ!」
地図を受け取ってルアは勢いよく船着場を飛び出した。
施設を出る時にはまだ暗かったのが、いつの間にか太陽が、随分と高い位置まで登っている。
ルアは職員の説明と地図の通りに進んでいく。
言われていたガルダ港水族館の前を通る時。
ふと、ルアの足が止まった。
それを見て黒猫は近くに擦り寄り、ルアに声をかける。
『ルア。どうしたのじゃ?』
「……………………お野菜レンジャー……。」
ルアの視線の先には、"お野菜レンジャーショー!お野菜レンジャーがガルダ港水族館にやってくる!"というポップな案内。
黒猫は顔を引きつらせて言う。
『…………見たいのか……?』
ルアは案内に視線を釘告げにしながら、小さく頷いた。
(『……。入場券を買う場所は……混んでるな……。そもそもチケットが売っているのか?……お野菜レンジャー人気じゃからなぁ……。金は……。あるからな……。この子……。どーしたもんか……。』)
そんな風に黒猫が考えていると、唐突にルアは入場ゲートの方に走り出した。
『ル、ルアっ!』
黒猫の声はルアに届いていないようだった。
ゲートに突っ込む勢いで走って来た1人の女の子を、水族館の職員と思われる人物が止める。
「おお?!お嬢ちゃん?!大丈夫?どしたの?」
「お野菜レンジャー見れますか?!」
「お、お野菜レンジャー?」
水族館のスタッフは、ルアに近づいて視線をルアに合わせてくれていた。
職員が言う。
「チケットは持ってる?」
それにルアは首を横に振った。
すると、職員は残念そうに言う。
「あぁー……。チケットが無いと見れないんだ。今回は前売り券しか売ってなくて、当日券は無いから、お野菜レンジャーは……。見れないかなぁ……。」
それにルアは絶望感満載の表情で返す。
職員は心配そうに尋ねる。
「お嬢ちゃんちゃん1人?家族の人は?」
それに対してルアは「……大丈夫です……。」と覇気のない声で答え、職員に背中を向けてトボトボと歩きだす。
職員は心配そうに見守るが、大丈夫と言われた手前もあるのか、暫くするとルアから視線を外した。
ルアは水族館前の開けた場所で1人佇む。
俯いて元気のない様子は、迷子の子供のようにしか見えない。
『ル……ルア。』
黒猫がもう一度ルアに声をかけようとした時だった。
「ねぇねぇ。大丈夫?」
ルアと歳の変わらないくらいの子が、少し離れた所から走ってきて、ルアの近くで足を止め、声をかけた。
ルアよりも少し背が高く、少しお姉さんに見える。
その女の子が言う。
「大丈夫?迷子になったの?」
「……。」
それにルアは俯いたまま答えない。すると。
「ゆ、ユウナ!どうした?!お?!お嬢ちゃん!どした?!」
その父親と思われる男性が後から走って来て、ルアの近くで足を止めた。
男性が言う。
「お嬢ちゃん。迷子か?はぐれちゃったか?」
「……。」
ルアは言葉は返さずに、フルフルと首を横に振るだけだった。
女の子と男性は少し困った表情をして、また男性がルアに声をかける。
「娘が急に走り出したと思ったら、君のことを心配に思ったんだろうな。少し元気が無さそうに見えるが、何か困ったことはないかい?」
「……。お野菜レンジャー……。」ルア
「お野菜レンジャー?」
「………………見れないって……。」ルア
ルアの残念そうな表情をみて、男性がまた聞く。
「お野菜レンジャーを見に来たのかい?パパやママと?」
「ううん。パパとママは居ないの。マーリアスの孤児院から来たの。」
「ま、マーリアス?!!!」
その距離もさることながら、孤児院と聞いて、男性は自分の質問が悪手だったと自らを叱咤していた。
男性がまたルアに聞く。
「ひ、1人でマーリアスから来たのかい?!!」
「……………………うん……。」
「す、すごいなお嬢ちゃん!船で来たんだろうけど……。子供1人で…………。そ、………………そこまでして…………。お野菜レンジャーを………………!今回、当日券なかったもんなぁ!!前はあったのに…………!!そうかぁ…………!!!!」
男性は何故か納得したようだった。
女の子が言う。
「それならさ!ねぇ!パパ!!」
「おお!みなまでゆうな!優しい我が娘よ!!あーしようと言うのだろう?分かる!!パパもそうしようと思っていたぁ!!」
「…………?」
ルアは女の子と男性のやり取りを不思議そうに見る。
男性が言う。
「実はお嬢ちゃん。おじさんには、娘ともう1人、息子もいるんだが、今日になって風邪ひいちまってなぁ。皆んなで来るはずだったんだが、息子とママはお留守番になったんだ。一応、封筒ごともってきてナイス判断だった!!君の分のチケットあるぞ。どうだ?一緒に見ないか?」
それにルアは目を輝かせて言う。
「ほんと……?いいの……?」
「もっちろんだぁ!!」
「一緒にみよっ!」
ルアの表情は一気に明るくなる。
「やったぁぁ!!すっごく嬉しい!!!ありがとうー!!」
「ほぉら!!そーと決まれば早くいこぉ!!ゴーゴゴー!」
何故か父親が一番テンションが高い。
娘は冷静にルアに自己紹介していた。
「私、ユウナって言うの。お名前なんて言うの?」
「私はルア!」
「ルアちゃん!いこっ!」
そうしてルアは、ユウナとユウナパパに連れられて、ガルダ港水族館で行われるお野菜レンジャーショーに向かった。
――――――――
共通の好きな物のある子供同士というのは、あっという間に仲良くなる。
また、ルアとユウナの波長も合っていたのだろう。
お野菜レンジャーショーが終わる頃には、あったばかりにも関わらず、親友のような仲の良さを見せていた。
その様子に、ユウナパパは心配そうな視線を向けながら言った。
「でも、ルアちゃん。マーリアスから来てるからなぁ。あんまり遅くなると、帰るのが遅くなっちまうからなぁ……。」
それにルアが答える。
「ルア帰らないよ?」
「ん?」
ルアの言葉が理解できず、ユウナパパはルアにもう一度聞く。
「マーリアスに帰らないのかい?」
「うん。"たいようばいおかんぱにー"に行くの。」
その言葉は、ユウナとユウナパパには聞き慣れた言葉だった。
ユウナが言う。
「それってパパの会社だー!」
「そうなの?」ルア
ユウナパパが言う。
「ルアちゃん。タイヨウカンパニーに行くの?何しに行くんだい?」
「おねぇちゃんに会いにいくの。」ルア
「お姉ちゃん……。」
今度はユウナが、少し声のボリュームを落として言う。
「今はニュースになってるから、大きい声でいっちゃダメなんだけど、パパって"かくし"だったんだ。すうぅっごく強かったんだよ。」
ユウナは大人の言いつけを素直に守る良い子のようだった。それにルアが同じような声量を真似して返す。
「ユウナちゃんのパパ凄いんだね。ルアのお姉ちゃんもね。実はすっごく強いんだぁ。」
「ルアちゃんのお姉ちゃんも凄いんだね。」
そんな可愛らしいやり取りに心打たれながらも、ルアの言葉に引っかかったユウナパパはルアに聞く。
「ルアちゃん。お姉ちゃんのお名前聞いてもいいかい?」
「うん。ベリーとイーネ。」
「そうかぁ。ベリーとイーネ…………。ベリーとイーネ?!!!!!」
「………………………………知ってるの?……。」
ユウナパパの声量が急激に大きくなり、その驚いた表情を見たルアは目を輝かせた。
ユウナパパが言う。
「……知ってるも何も……!…………ってことは、アンカとリンもだな?!え?!5人?!5人きょうだい?!」
「アンカとリンも知ってるのっ?!」
ルアの声量も大きくなり、更に目を輝かせる。
ルアとユウナパパの表情は確信に変わっていく。
ユウナパパは言う。
「知ってるよぉ!なんたって、皆んなで歓迎会も開いた仲だぁ!」
「……じゃあ、お姉ちゃんとお友達なの?……!」
「そーだよ!そーだよ!いやぁ!こんな偶然あるんだなぁ!!!……そうかぁ……。イーネ達に会いに来たのかぁ……。」
ユウナパパは考えていた。
お野菜レンジャーショーが終わり、夕暮れ時になろうとしている。このままの足でタイヨウカンパニーに向かえば辺りは暗くなるだろう。娘の帰宅時間も遅くなる。かといって、ルア1人を置いていくことは出来なければ、病気の息子がいて家に泊まっていいとも言えなかった。
すると、まるでそれを察したかのようにユウナが言う。
「パパ!今からタイヨウカンパニーに行こうよ!私、ルアちゃんのお姉ちゃんにも会ってみたいし、ルアちゃんも早く会いたいよね?私、帰るの遅くなるってママに電話する!」
「…………いいの?」ルア
「うん!いいよ!ね?!いいでしょ?!パパっ!」
「うぅぅーーーん………………。」
ユウナパパは少し考える仕草をとって、顔を上げて言う。
「そうだな!いこう!!」
「やったー!いこいこ!!」ユウナ
ユウナとユウナパパの判断に、ルアは少し泣きそうな表情を浮かべて言った。
「……ありがとう。」
そうして3人で、タイヨウカンパニーに向かうこととなった。




